異世界転生と『天賦（ギフト）』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる！

第19章：模倣者の覚醒

第142話：絆という名の光

　俺の意識は、現実世界へと戻った。
そして、背後で固唾を飲んで俺を見守る仲間たちに向かって、魂で叫んだ。

「―――全員、俺に力を貸してくれ！」

　俺の言葉に、仲間たちがハッと息を呑む。

「今から俺は、ジンの魂にかけられた呪いの核を破壊する！
そのためには、あんたたちの魂の物語が必要だ！」

「ジンを想う、あんたたちの本当の気持ちを、俺の魂に送ってくれ！」

「俺が、その全てを束ねて、あいつの魂に叩き込む！」

　俺の無謀な要求に、仲間たちは誰一人ためらわなかった。
彼らは、ただ黙って俺の背中にその手をかざす。

最初に感じたのは、ルナの魂だった。
ぶっきらぼうで、だがどこまでも真っ直ぐな彼女の友情。

『――おい、ジン！
てめえがいないと、アタシの背中ががら空きなんだよ！
早く戻ってきやがれ、このタコ！』

　次に、エルゴの魂。
静かで、だが確かな信頼に満ちた、老賢者の物語。

『――ジン殿。
お主という影がいてこそ、我らという光は輝ける。
お主のいない未来など、儂は見たくはないぞ』

　サラの、アレクシオスの、エリアーナの、そしてリラの。
一人ひとりの、ジンへの想いが。
それぞれの「物語」が、光の奔流となって俺の魂の中へと流れ込んでくる。

　俺の体は、もはや俺一人のものではなかった。
仲間たちの想いを受け止めるための、巨大な器。
ギルド《アケボシ》の、絆そのもの。

　俺の全身から、今までで最も強く、そして最も温かい虹色のオーラが放たれた。

「―――いくぞ、ジンッ！」

　俺は、再びジンの額に手を置いた。
模倣した《記憶の修復師メモリー・レストアラー》の力と、仲間たちから借り受けた絆の力。
その全てを、呪いの核となっている「妹への歪められた想い」という一点に集中させる。

　狙うは、リュウガが植え付けた偽りの物語だけ。
ジンの、本当の物語は決して傷つけない。
あまりにも繊細で、あまりにも精密な、魂の外科手術。

「―――お前の物語は、そんな歪んだものじゃないはずだ！」

　俺の絶叫と共に、仲間たちの全ての物語を乗せた光の奔流が、ジンの魂へと注ぎ込まれた。

　それは、リュウガが植え付けた偽りの論理――『アケボシは、妹の敵』という大嘘を、俺たちの本物の絆の光が内側から焼き尽くしていくかのようだった。

　黒い茨のような呪いの糸が、聖なる光に触れて脆もろくも崩れ去っていく。
ジンの魂の核に絡みついていた、最後の呪縛が断ち切られる。

　ブツンッ！
俺の魂にまで、その音がはっきりと聞こえた。

「―――あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ！！」

　ジンの口から、最後の絶叫がほとばしった。
彼の体から、おびただしい量の黒い瘴気しょうきが噴き出し、霧散していく。
リュウガの呪いが、完全に浄化されたのだ。

◇　◇　◇

　静寂が、戻る。
俺は、全ての力を使い果たしその場に崩れ落ちた。
仲間たちが、慌てて俺の体を支えてくれる。

「……ケント！」

「大丈夫か！」

「……ああ、なんとか……な」
俺は、荒い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと顔を上げた。
そして、その光景に息を呑んだ。

　ジンが、静かにそこに立っていた。
その瞳から、狂信的な光も、機械のような光も、完全に消え失せている。

　代わりに宿っていたのは、深い、深い混乱と。
そして、俺たちがよく知る、あの不器用で温かい光だった。

　彼は、ゆっくりと自分の両手を見下ろした。
その手で、仲間を傷つけてしまったというおぞましい記憶が、彼の脳裏を駆け巡っているのだろう。

　彼は、傷つき倒れているルナを見た。
アレクシオスを見た。
そして、最後に俺の顔を、まっすぐに見つめた。

　その唇が、震えている。
何かを言おうとして、だが言葉にならない。

　やがて。
彼の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

「……ケン……ト……？」

　それは、俺たちがずっと聞きたかった、本当のジンの声だった。
俺たちの仲間が、長い、長い悪夢からようやく目覚めた瞬間だった。