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第19章:模倣者の覚醒
第145話:百の物語を束ねる者
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第十九章:模倣者の覚醒
第96話:最強の軍師
芸術都市アリアを後にしてから、数日が過ぎた。
俺たち《アケボシ》を乗せた荷馬車は、帝国の心臓部へと続く街道を静かに進んでいく。
旅の空気は、以前とは明らかに違っていた。
奈落の谷から脱出したばかりの頃の、張り詰めた緊張感はない。
賭博都市で感じた、魂をすり減らすような狂乱もない。
そこにあったのは、嵐の後に訪れた凪のような、穏やかで、だがどこまでも力強い一体感だった。
荷台では、仲間たちの静かな、だが温かい会話が交わされている。
エリアーナが奏でる《生命の揺り籠》の優しい旋律が、意識の戻らないノクスの魂を癒し、その隣ではリラが安堵の表情で寄り添っている。
エルゴとサラは、古文書館から持ち出した帝国の古い地図を広げ、次の戦いに備えて熱心に議論を交わしていた。
アレクシオスは、ただ黙ってその光景を、眩しいものを見るかのように見つめている。
そして、俺の隣。
御者台に座る俺のすぐそばで、ルナが警戒を怠らずに周囲の気配を探っていた。
時折、俺の顔をちらりと盗み見るその琥珀色の瞳に宿るのは、もうかつてのような人間への不信ではない。
絶対的な信頼。
そして、このチームの未来を託す者への、確かな眼差しだった。
俺は、そんな仲間たちの様子を背中で感じながら、自らの内側で起きている巨大な変化と向き合っていた。
(……これが、俺の力……)
俺は、ゆっくりと自分の掌を見つめた。
あの日、ジンを救うために覚醒した最後の力。
《物語の模倣者》。
それは、ただの能力ではなかった。
仲間たちの魂の物語、その全てが俺自身の物語であるかのように、魂の奥底に流れ込んでくる。
ルナの、仲間を求める渇望。
エルゴの、未来を照らしたいという願い。
リラの、失われたものを取り戻したいという祈り。
エリアーナの、世界を温めたいという歌声。
サラの、真理を知りたいという探究心。
アレクシオスの、家族を守りたいという愛。
そして、ジンの、誰かのためにありたいという誓い。
その全てが、俺だ。
俺は、もはやケントというただ一人の人間ではない。
八つの魂、八つの物語をその身に宿す、一つの集合体。
その事実は、俺に今まで感じたことのないほどの全能感と、同時に魂が張り裂けそうなほどの重圧を与えていた。
「……ケント」
俺の思考を読み取ったかのように、ルナが低い声で囁いた。
「……あんた、一人で抱え込みすぎだ。
アタシたちにも、少しは背負わせろよ」
「……ああ、そうだな」
俺は、ふっと息を漏らすように笑った。
「すまん。少し、考えすぎていた」
そうだ。
俺は、一人じゃない。
この力は、俺一人で使うためのものじゃない。
仲間たちの物語を束ね、俺たちの物語として紡ぎ出すための力なのだ。
俺は、仲間たちに向き直った。
その顔には、もう迷いはない。
軍師としてではなく、このチームの「司令塔」としての、絶対的な覚悟が宿っていた。
「―――全員、聞いてくれ」
俺の声に、仲間たちが一斉にこちらを向く。
「次の目的地は、帝都だ。
リュウガの、喉元に刃を突き立てる」
その、あまりにも大胆な宣言に、仲間たちが息を呑んだ。
「……正気か、ケント」
ジンが、静かに言った。
「帝都の守りは、鉄壁だ。
今の俺たちの戦力で正面から挑んでも、返り討ちに遭うだけだぞ」
「ああ、分かっている」
俺は、頷いた。
「だから、正面からなんて行かない。
俺たちは、奴の予測を、奴が創り上げた仕組みそのものを、根底から覆す」
俺は、エルゴが広げていた地図の一点を指さした。
そこは、帝都へと続く最後の関門。
『沈黙の要塞』と呼ばれる、帝国最強の防衛拠点だった。
「ここを、落とす」
俺の言葉に、アレクシオスが驚愕の声を上げた。
「……無茶だ、ケント殿!
あの要塞は、帝国の最高傑作。
どんな大軍をもってしても、落とすことは不可能だと……!」
「ああ、不可能だろうな」
俺は、静かに言った。
「今までの、俺たちではな」
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
そして、仲間たちの顔を一人、また一人と見つめながら、高らかに宣言する。
「俺は、もはや単なる軍師ではない」
「俺は、お前たちの物語を、その魂の全てを、自らの武器として使えるようになった」
「ルナの牙を、エルゴの知恵を、ジンの影を、アレクシオスの盾を、リラの癒しを、エリアーナの歌声を、そしてサラの解析能力を。
その全てを、この俺が、この盤上で自在に組み合わせてみせる」
俺の言葉は、ただのハッタリではなかった。
それは、このチームが持つ無限の可能性に対する、絶対的な確信。
「俺は、百の物語を束ね、無限の戦術を生み出す、最強の司令塔となった。
……俺たち《アケボシ》が、本気で連携すれば、落とせない城などない」
その、あまりにも傲岸不遜な言葉。
だが、仲間たちは誰一人としてそれを疑わなかった。
彼らは、見ていたのだ。
俺が、ジンの心を救った、あの奇跡の瞬間を。
「……面白い」
ルナが、獰猛な笑みを浮かべた。
「あんたがそこまで言うなら、アタシは乗ってやるぜ。
その、最強の司令塔とやらの指揮、お手並み拝見と行こうじゃねえか」
仲間たちの魂が、一つになった。
俺たちは、一路『沈黙の要塞』へと向かう。
リュウガが創り上げた、偽りの理想郷の喉元に、最初の刃を突き立てるために。
第96話:最強の軍師
芸術都市アリアを後にしてから、数日が過ぎた。
俺たち《アケボシ》を乗せた荷馬車は、帝国の心臓部へと続く街道を静かに進んでいく。
旅の空気は、以前とは明らかに違っていた。
奈落の谷から脱出したばかりの頃の、張り詰めた緊張感はない。
賭博都市で感じた、魂をすり減らすような狂乱もない。
そこにあったのは、嵐の後に訪れた凪のような、穏やかで、だがどこまでも力強い一体感だった。
荷台では、仲間たちの静かな、だが温かい会話が交わされている。
エリアーナが奏でる《生命の揺り籠》の優しい旋律が、意識の戻らないノクスの魂を癒し、その隣ではリラが安堵の表情で寄り添っている。
エルゴとサラは、古文書館から持ち出した帝国の古い地図を広げ、次の戦いに備えて熱心に議論を交わしていた。
アレクシオスは、ただ黙ってその光景を、眩しいものを見るかのように見つめている。
そして、俺の隣。
御者台に座る俺のすぐそばで、ルナが警戒を怠らずに周囲の気配を探っていた。
時折、俺の顔をちらりと盗み見るその琥珀色の瞳に宿るのは、もうかつてのような人間への不信ではない。
絶対的な信頼。
そして、このチームの未来を託す者への、確かな眼差しだった。
俺は、そんな仲間たちの様子を背中で感じながら、自らの内側で起きている巨大な変化と向き合っていた。
(……これが、俺の力……)
俺は、ゆっくりと自分の掌を見つめた。
あの日、ジンを救うために覚醒した最後の力。
《物語の模倣者》。
それは、ただの能力ではなかった。
仲間たちの魂の物語、その全てが俺自身の物語であるかのように、魂の奥底に流れ込んでくる。
ルナの、仲間を求める渇望。
エルゴの、未来を照らしたいという願い。
リラの、失われたものを取り戻したいという祈り。
エリアーナの、世界を温めたいという歌声。
サラの、真理を知りたいという探究心。
アレクシオスの、家族を守りたいという愛。
そして、ジンの、誰かのためにありたいという誓い。
その全てが、俺だ。
俺は、もはやケントというただ一人の人間ではない。
八つの魂、八つの物語をその身に宿す、一つの集合体。
その事実は、俺に今まで感じたことのないほどの全能感と、同時に魂が張り裂けそうなほどの重圧を与えていた。
「……ケント」
俺の思考を読み取ったかのように、ルナが低い声で囁いた。
「……あんた、一人で抱え込みすぎだ。
アタシたちにも、少しは背負わせろよ」
「……ああ、そうだな」
俺は、ふっと息を漏らすように笑った。
「すまん。少し、考えすぎていた」
そうだ。
俺は、一人じゃない。
この力は、俺一人で使うためのものじゃない。
仲間たちの物語を束ね、俺たちの物語として紡ぎ出すための力なのだ。
俺は、仲間たちに向き直った。
その顔には、もう迷いはない。
軍師としてではなく、このチームの「司令塔」としての、絶対的な覚悟が宿っていた。
「―――全員、聞いてくれ」
俺の声に、仲間たちが一斉にこちらを向く。
「次の目的地は、帝都だ。
リュウガの、喉元に刃を突き立てる」
その、あまりにも大胆な宣言に、仲間たちが息を呑んだ。
「……正気か、ケント」
ジンが、静かに言った。
「帝都の守りは、鉄壁だ。
今の俺たちの戦力で正面から挑んでも、返り討ちに遭うだけだぞ」
「ああ、分かっている」
俺は、頷いた。
「だから、正面からなんて行かない。
俺たちは、奴の予測を、奴が創り上げた仕組みそのものを、根底から覆す」
俺は、エルゴが広げていた地図の一点を指さした。
そこは、帝都へと続く最後の関門。
『沈黙の要塞』と呼ばれる、帝国最強の防衛拠点だった。
「ここを、落とす」
俺の言葉に、アレクシオスが驚愕の声を上げた。
「……無茶だ、ケント殿!
あの要塞は、帝国の最高傑作。
どんな大軍をもってしても、落とすことは不可能だと……!」
「ああ、不可能だろうな」
俺は、静かに言った。
「今までの、俺たちではな」
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
そして、仲間たちの顔を一人、また一人と見つめながら、高らかに宣言する。
「俺は、もはや単なる軍師ではない」
「俺は、お前たちの物語を、その魂の全てを、自らの武器として使えるようになった」
「ルナの牙を、エルゴの知恵を、ジンの影を、アレクシオスの盾を、リラの癒しを、エリアーナの歌声を、そしてサラの解析能力を。
その全てを、この俺が、この盤上で自在に組み合わせてみせる」
俺の言葉は、ただのハッタリではなかった。
それは、このチームが持つ無限の可能性に対する、絶対的な確信。
「俺は、百の物語を束ね、無限の戦術を生み出す、最強の司令塔となった。
……俺たち《アケボシ》が、本気で連携すれば、落とせない城などない」
その、あまりにも傲岸不遜な言葉。
だが、仲間たちは誰一人としてそれを疑わなかった。
彼らは、見ていたのだ。
俺が、ジンの心を救った、あの奇跡の瞬間を。
「……面白い」
ルナが、獰猛な笑みを浮かべた。
「あんたがそこまで言うなら、アタシは乗ってやるぜ。
その、最強の司令塔とやらの指揮、お手並み拝見と行こうじゃねえか」
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