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第20章:帝都への道
第147話:生命による破壊
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『沈黙の要塞』は、その名の通り不気味なほどの静寂に包まれていた。
黒い巨岩をくり抜いて作られたその威容は、リュウガの絶対的な支配の象徴として、帝都へと続く街道を睨みつけている。
その、鉄壁のはずだった要塞が今、断末魔の叫びを上げていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
地を揺るがす轟音と共に、要塞の分厚い外壁に巨大な亀裂が走る。
それは、まるで巨大な生物が内側から食い破られるかのような、おぞましい光景だった。
俺たち《アケボシ》が仕掛けた、神殺しの作戦。
それは、リュウガの予測を、彼が創り上げた仕組みそのものを、根底から覆す奇跡の一手。
その作戦の全てが、今、この瞬間に結実しようとしていた。
◇ ◇ ◇
数時間前。
要塞を見下ろす崖の上で、俺は仲間たちに最後の作戦説明を行っていた。
「――いいか、全員聞け」
俺の声は、もはやただの軍師のものではない。
仲間たちの全ての物語をその身に宿し、その力を自在に組み合わせる「司令塔」としての、絶対的な響きを持っていた。
「俺たちが狙うのは、要塞そのものじゃない。
要塞を、要塞たらしめている力の源泉。
サラの《万象解析》とエルゴの《未来への羅針盤》を融合させた俺の『超・観測』が見つけ出した、たった一つの弱点」
俺は、崖下に広がる要塞の一点を指さした。
それは、要塞の地下深くに張り巡らされた、エネルギー供給網の中心。
リュウガが設置した、古代文明の遺物である巨大な魔晶石だ。
「あの魔晶石が、この要塞の天賦による防御結界と、自動迎撃システムの全てを賄っている。
つまり、あれを破壊すればこの沈黙の要塞は、ただの岩の塊と化す」
「だが、どうやってそこまでたどり着く?」
ジンが、冷静に問いかけた。
「地下深くまで、どうやって潜入するんだ?
警備も、鉄壁のはずだ」
「ああ、鉄壁だろうな」
俺は、不敵に笑った。
「だからこそ、俺たちの『影』の出番だ」
俺は、ジンとノクスに向き直った。
「お前たち二人に、この作戦の成否がかかっている。
俺が、お前たちの力を借りるぞ」
俺は、静かに目を閉じた。
《物語の模倣者》――発動。
俺の魂に宿る、二つの影の物語。
ジンの《魂の指揮者》。
そして、ノクスの《影踏み遊戯》。
俺の全身から、影色のオーラが立ち上る。
その姿は、まるで闇そのものが人の形をとったかのようだった。
「―――まず、俺が潜入する」
俺は、仲間たちに告げた。
「ジンの力で兵士たちの魂に干渉し、俺の存在を『仲間だ』と誤認させる。
そして、ノクスの力で影から影へと飛び移り、誰にも気づかれることなく魔晶石の元までたどり着く」
「……正気か、ケント」
ルナが、心配そうな声を上げる。
「あんた一人で、そんな危険な……」
「一人じゃないさ」
俺は、首を横に振った。
「俺の中には、お前たちがいる。
それに、俺はただ潜入するだけだ。
破壊するのは、俺じゃない」
俺は、エリアーナとリラに向き直った。
「俺が魔晶石の元にたどり着いたら、合図を送る。
エリアーナ、お前の《生命の揺り籠》の歌で、この要塞の岩盤に眠る植物の種を、内側から強制的に芽吹かせてくれ」
「……岩盤に、眠る種……?」
「ああ。
サラの解析によれば、この黒い巨岩は古代の植物の化石を多く含んでいる。
つまり、その奥底にはまだ生きている種が眠っている可能性がある」
「そして、リラ」
俺は、最後の仲間へと視線を移した。
「お前の《記憶の修復師》の力で、その芽吹いた植物に『数千年の時を生き抜いた大樹』の記憶を上書きしろ」
俺の、あまりにも無謀で、あまりにも奇抜な作戦。
仲間たちは、息を呑んで俺の言葉に耳を傾けていた。
「要塞を、内側から植物の力で破壊する……。
リュウガの科学と魔法の要塞を、俺たちは生命そのものの力で打ち破るんだ」
俺たちの、本当の戦いが始まった。
◇ ◇ ◇
要塞の内部は、静まり返っていた。
俺は、ジンの気配遮断の技術とノクスの影渡りの能力を模倣し、幽霊のように廊下を進んでいく。
すれ違う兵士たちは、俺の姿を見ても何の反応も示さない。
俺が模倣したジンの《魂の指揮者》が、彼らの魂に「こいつは味方だ」という偽りの情報をささやき続けているからだ。
やがて俺は、地下最深部にある巨大な空洞へとたどり着いた。
そこには、家ほどもある巨大な魔晶石が、不気味な紫色の光を放ちながら鎮座している。
これが、この要塞の心臓部。
俺は、懐から取り出した小さな発信機を魔晶石に設置した。
サラが即席で作ってくれた、魂の波長を遠くまで届けるための装置だ。
(―――今だッ!)
俺は、魂で仲間たちに合図を送った。
その瞬間。
崖の上で待機していたエリアーナが、その手に持つリュートを奏で始めた。
《生命の揺り籠》の、生命を育む旋律。
その歌声が、魂の波長に乗って要塞の奥深く、俺が設置した発信機へと届く。
歌声は、魔晶石のエネルギーを増幅器として、要塞の岩盤全体へと響き渡った。
ミシリ、と。
足元の岩盤から、かすかな音が聞こえた。
古代の眠りについていた、無数の植物の種が。
エリアーナの歌声に導かれ、その生命活動を再開し始めたのだ。
「―――リラッ!」
俺は、叫んだ。
崖の上で、リラが静かに目を閉じる。
《記憶の修復師》の力が、同じように要塞の内部へと届けられる。
彼女が、今まさに芽吹こうとしている無数の種に与えるのは、ただ一つの記憶。
『――お前たちは、数千年の時を生きた大樹だ』
黒い巨岩をくり抜いて作られたその威容は、リュウガの絶対的な支配の象徴として、帝都へと続く街道を睨みつけている。
その、鉄壁のはずだった要塞が今、断末魔の叫びを上げていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
地を揺るがす轟音と共に、要塞の分厚い外壁に巨大な亀裂が走る。
それは、まるで巨大な生物が内側から食い破られるかのような、おぞましい光景だった。
俺たち《アケボシ》が仕掛けた、神殺しの作戦。
それは、リュウガの予測を、彼が創り上げた仕組みそのものを、根底から覆す奇跡の一手。
その作戦の全てが、今、この瞬間に結実しようとしていた。
◇ ◇ ◇
数時間前。
要塞を見下ろす崖の上で、俺は仲間たちに最後の作戦説明を行っていた。
「――いいか、全員聞け」
俺の声は、もはやただの軍師のものではない。
仲間たちの全ての物語をその身に宿し、その力を自在に組み合わせる「司令塔」としての、絶対的な響きを持っていた。
「俺たちが狙うのは、要塞そのものじゃない。
要塞を、要塞たらしめている力の源泉。
サラの《万象解析》とエルゴの《未来への羅針盤》を融合させた俺の『超・観測』が見つけ出した、たった一つの弱点」
俺は、崖下に広がる要塞の一点を指さした。
それは、要塞の地下深くに張り巡らされた、エネルギー供給網の中心。
リュウガが設置した、古代文明の遺物である巨大な魔晶石だ。
「あの魔晶石が、この要塞の天賦による防御結界と、自動迎撃システムの全てを賄っている。
つまり、あれを破壊すればこの沈黙の要塞は、ただの岩の塊と化す」
「だが、どうやってそこまでたどり着く?」
ジンが、冷静に問いかけた。
「地下深くまで、どうやって潜入するんだ?
警備も、鉄壁のはずだ」
「ああ、鉄壁だろうな」
俺は、不敵に笑った。
「だからこそ、俺たちの『影』の出番だ」
俺は、ジンとノクスに向き直った。
「お前たち二人に、この作戦の成否がかかっている。
俺が、お前たちの力を借りるぞ」
俺は、静かに目を閉じた。
《物語の模倣者》――発動。
俺の魂に宿る、二つの影の物語。
ジンの《魂の指揮者》。
そして、ノクスの《影踏み遊戯》。
俺の全身から、影色のオーラが立ち上る。
その姿は、まるで闇そのものが人の形をとったかのようだった。
「―――まず、俺が潜入する」
俺は、仲間たちに告げた。
「ジンの力で兵士たちの魂に干渉し、俺の存在を『仲間だ』と誤認させる。
そして、ノクスの力で影から影へと飛び移り、誰にも気づかれることなく魔晶石の元までたどり着く」
「……正気か、ケント」
ルナが、心配そうな声を上げる。
「あんた一人で、そんな危険な……」
「一人じゃないさ」
俺は、首を横に振った。
「俺の中には、お前たちがいる。
それに、俺はただ潜入するだけだ。
破壊するのは、俺じゃない」
俺は、エリアーナとリラに向き直った。
「俺が魔晶石の元にたどり着いたら、合図を送る。
エリアーナ、お前の《生命の揺り籠》の歌で、この要塞の岩盤に眠る植物の種を、内側から強制的に芽吹かせてくれ」
「……岩盤に、眠る種……?」
「ああ。
サラの解析によれば、この黒い巨岩は古代の植物の化石を多く含んでいる。
つまり、その奥底にはまだ生きている種が眠っている可能性がある」
「そして、リラ」
俺は、最後の仲間へと視線を移した。
「お前の《記憶の修復師》の力で、その芽吹いた植物に『数千年の時を生き抜いた大樹』の記憶を上書きしろ」
俺の、あまりにも無謀で、あまりにも奇抜な作戦。
仲間たちは、息を呑んで俺の言葉に耳を傾けていた。
「要塞を、内側から植物の力で破壊する……。
リュウガの科学と魔法の要塞を、俺たちは生命そのものの力で打ち破るんだ」
俺たちの、本当の戦いが始まった。
◇ ◇ ◇
要塞の内部は、静まり返っていた。
俺は、ジンの気配遮断の技術とノクスの影渡りの能力を模倣し、幽霊のように廊下を進んでいく。
すれ違う兵士たちは、俺の姿を見ても何の反応も示さない。
俺が模倣したジンの《魂の指揮者》が、彼らの魂に「こいつは味方だ」という偽りの情報をささやき続けているからだ。
やがて俺は、地下最深部にある巨大な空洞へとたどり着いた。
そこには、家ほどもある巨大な魔晶石が、不気味な紫色の光を放ちながら鎮座している。
これが、この要塞の心臓部。
俺は、懐から取り出した小さな発信機を魔晶石に設置した。
サラが即席で作ってくれた、魂の波長を遠くまで届けるための装置だ。
(―――今だッ!)
俺は、魂で仲間たちに合図を送った。
その瞬間。
崖の上で待機していたエリアーナが、その手に持つリュートを奏で始めた。
《生命の揺り籠》の、生命を育む旋律。
その歌声が、魂の波長に乗って要塞の奥深く、俺が設置した発信機へと届く。
歌声は、魔晶石のエネルギーを増幅器として、要塞の岩盤全体へと響き渡った。
ミシリ、と。
足元の岩盤から、かすかな音が聞こえた。
古代の眠りについていた、無数の植物の種が。
エリアーナの歌声に導かれ、その生命活動を再開し始めたのだ。
「―――リラッ!」
俺は、叫んだ。
崖の上で、リラが静かに目を閉じる。
《記憶の修復師》の力が、同じように要塞の内部へと届けられる。
彼女が、今まさに芽吹こうとしている無数の種に与えるのは、ただ一つの記憶。
『――お前たちは、数千年の時を生きた大樹だ』
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