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第三章:再起への光と動き出し
第三十三話:決定的な証拠
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淀屋の隠し蔵に「印」を忍び込ませることに成功したお凛は、次なる重要な段階へと移った。
それは、あの米俵を回収し、それが本当に公儀の御蔵米であることを証明することだ。
もしそれができれば、淀屋の辰蔵が幕府をも欺く大罪を犯しているという決定的な証拠となる。
しかし、淀屋の蔵から米俵を盗み出すのは、潜入以上に危険な行為だった。
淀屋も、まさか自分たちの隠し蔵に侵入者がいるとは思っていないだろうが、万が一見つかれば、ただでは済まない。
お凛は義父と新助、乾物屋の女将と再び集まり、この新たな難題について話し合った。
「あの蔵から、私たちが印を仕込んだ米俵を回収しなければなりません。それが公儀の御蔵米であると証明するためには、鑑定が必要です」
お凛は、皆の顔を見回しながら言った。
「そりゃ、そうやけど…どうやって運び出すんです? 夜中にこっそり忍び込んで、俵を一つだけ運び出すなんて、そない簡単な話やないですよ」
新助が眉をひそめた。
「しかも、淀屋の蔵やろ? 見つかったら、ただじゃ済まへん。命も危ないわ」
女将も、心配そうに言った。
義父は、じっと考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「米俵を一つだけ盗み出すのは難しい。だが、淀屋の船が、米を運び出す日を狙うのはどうじゃ。夜中に、あの蔵から別の場所へ米を運び出すことがあるはずだ。その時ならば…」
お凛の頭の中で、閃きが走った。
「その時、淀屋の船に紛れ込む、ということですか?」
「そうじゃ。淀屋の船頭や人足は、夜の闇に慣れておる。だが、彼らが運び出す米の中に、わしらが目をつけた俵が混じっておるかもしれん。その中で、一瞬の隙を狙って、印のある俵を奪い取る」
義父の言葉は、大胆でありながら、唯一の現実的な方法に思えた。
だが、それはあまりにも危険な賭けだった。
淀屋の人間は、大坂中の米問屋でも一、二を争うほど気が荒い。もし見つかれば、ただでは済まないだろう。
「新助さん、あなたと仲間の方々に、その役目をお願いするのは…あまりにも危険すぎます」
お凛は、思わず口にした。
しかし、新助はきっぱりと言った。
「何を言うてはるんですか、お凛さん。あんた一人に危険な真似ばっかりさせるわけにはいきませんわ。それに、俺たちは、佐助さんを信じとる。この一件、なんとしてでも解決せなあかんのですわ」
他の男衆も、力強く頷いた。
「そや! お凛さん一人に背負わせるもんやない!」
「みんなで力を合わせれば、きっとできる!」
彼らの強い決意に、お凛は胸が熱くなった。
かくして、新助と男衆は、再びあの渡し場と蔵の周囲を見張る日々に戻った。そして数日後、再び淀屋が夜中に米を運び出すという情報が入った。
その夜。
川面は墨を流したように黒く、月は雲に隠れていた。淀屋の船が渡し場に接岸し、蔵の戸が開け放たれる。
番頭の怒鳴り声と、人足たちの掛け声が、静かな闇に響く。米俵が次々と船に積み込まれていく。
新助と男衆は、物陰に身を潜め、息を潜めてその時を待った。
彼らは、あらかじめお凛から渡された、夜目でも分かりやすいよう工夫された米俵の識別方法を頭に叩き込んでいた。
闇の中、米俵が次々と船に運ばれていく。
その中に、彼らが探し求めていた「印」を忍び込ませた米俵が確かにあった。
新助は、他の男衆と目配せすると、一瞬の隙を狙って動き出した。
番頭の目がよそに向いたその時、新助は素早く米俵の山に近づき、印のついた俵を掴み取ると、驚くべき速さで闇の中へと消えた。
他の男衆が、その隙を隠すように別の俵を運び出し、淀屋の人足の注意をそらす。
淀屋の番頭は、一瞬何か異変を感じたようだったが、すぐに米俵の山に目を戻し、異常がないことを確認すると、再び怒鳴り声を上げて作業を急がせた。
彼らは、自分たちの隠し米が、一瞬の間に盗み出されたことに気づく由もなかった。
新助は、息を切らしながら、盗み出した米俵を隠し運び、安全な場所へと急いだ。
そして、夜が明ける前に、その米俵を稲穂屋の裏木戸に運び込んだ。
お凛は、新助から米俵を受け取ると、震える手で俵を開いた。中から現れた米は、一般に流通しているものとは明らかに異なる、質の良いものだった。
そして、その中に、彼らが忍び込ませた小さな木製の欠片が、確かに見つかった。
「…これだわ」
お凛の目には、確かな光が宿っていた。
義父も、その米を見て、驚きを隠せないようだった。
「間違いない…この米は、公儀の御蔵米だ。この粒の揃い方、色艶…通常市場に出回るものではない」
義父の言葉は、お凛の確信を裏付けた。
これで、淀屋の辰蔵が公儀の御蔵米を不正に横流ししているという、決定的な証拠が手に入った。
しかし、この証拠をどのように利用し、辰蔵を追い詰めるか。そして、佐助の無実を証明し、飢饉に苦しむ町の人々を救うためには、さらに周到な計画が必要だった。
それは、あの米俵を回収し、それが本当に公儀の御蔵米であることを証明することだ。
もしそれができれば、淀屋の辰蔵が幕府をも欺く大罪を犯しているという決定的な証拠となる。
しかし、淀屋の蔵から米俵を盗み出すのは、潜入以上に危険な行為だった。
淀屋も、まさか自分たちの隠し蔵に侵入者がいるとは思っていないだろうが、万が一見つかれば、ただでは済まない。
お凛は義父と新助、乾物屋の女将と再び集まり、この新たな難題について話し合った。
「あの蔵から、私たちが印を仕込んだ米俵を回収しなければなりません。それが公儀の御蔵米であると証明するためには、鑑定が必要です」
お凛は、皆の顔を見回しながら言った。
「そりゃ、そうやけど…どうやって運び出すんです? 夜中にこっそり忍び込んで、俵を一つだけ運び出すなんて、そない簡単な話やないですよ」
新助が眉をひそめた。
「しかも、淀屋の蔵やろ? 見つかったら、ただじゃ済まへん。命も危ないわ」
女将も、心配そうに言った。
義父は、じっと考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「米俵を一つだけ盗み出すのは難しい。だが、淀屋の船が、米を運び出す日を狙うのはどうじゃ。夜中に、あの蔵から別の場所へ米を運び出すことがあるはずだ。その時ならば…」
お凛の頭の中で、閃きが走った。
「その時、淀屋の船に紛れ込む、ということですか?」
「そうじゃ。淀屋の船頭や人足は、夜の闇に慣れておる。だが、彼らが運び出す米の中に、わしらが目をつけた俵が混じっておるかもしれん。その中で、一瞬の隙を狙って、印のある俵を奪い取る」
義父の言葉は、大胆でありながら、唯一の現実的な方法に思えた。
だが、それはあまりにも危険な賭けだった。
淀屋の人間は、大坂中の米問屋でも一、二を争うほど気が荒い。もし見つかれば、ただでは済まないだろう。
「新助さん、あなたと仲間の方々に、その役目をお願いするのは…あまりにも危険すぎます」
お凛は、思わず口にした。
しかし、新助はきっぱりと言った。
「何を言うてはるんですか、お凛さん。あんた一人に危険な真似ばっかりさせるわけにはいきませんわ。それに、俺たちは、佐助さんを信じとる。この一件、なんとしてでも解決せなあかんのですわ」
他の男衆も、力強く頷いた。
「そや! お凛さん一人に背負わせるもんやない!」
「みんなで力を合わせれば、きっとできる!」
彼らの強い決意に、お凛は胸が熱くなった。
かくして、新助と男衆は、再びあの渡し場と蔵の周囲を見張る日々に戻った。そして数日後、再び淀屋が夜中に米を運び出すという情報が入った。
その夜。
川面は墨を流したように黒く、月は雲に隠れていた。淀屋の船が渡し場に接岸し、蔵の戸が開け放たれる。
番頭の怒鳴り声と、人足たちの掛け声が、静かな闇に響く。米俵が次々と船に積み込まれていく。
新助と男衆は、物陰に身を潜め、息を潜めてその時を待った。
彼らは、あらかじめお凛から渡された、夜目でも分かりやすいよう工夫された米俵の識別方法を頭に叩き込んでいた。
闇の中、米俵が次々と船に運ばれていく。
その中に、彼らが探し求めていた「印」を忍び込ませた米俵が確かにあった。
新助は、他の男衆と目配せすると、一瞬の隙を狙って動き出した。
番頭の目がよそに向いたその時、新助は素早く米俵の山に近づき、印のついた俵を掴み取ると、驚くべき速さで闇の中へと消えた。
他の男衆が、その隙を隠すように別の俵を運び出し、淀屋の人足の注意をそらす。
淀屋の番頭は、一瞬何か異変を感じたようだったが、すぐに米俵の山に目を戻し、異常がないことを確認すると、再び怒鳴り声を上げて作業を急がせた。
彼らは、自分たちの隠し米が、一瞬の間に盗み出されたことに気づく由もなかった。
新助は、息を切らしながら、盗み出した米俵を隠し運び、安全な場所へと急いだ。
そして、夜が明ける前に、その米俵を稲穂屋の裏木戸に運び込んだ。
お凛は、新助から米俵を受け取ると、震える手で俵を開いた。中から現れた米は、一般に流通しているものとは明らかに異なる、質の良いものだった。
そして、その中に、彼らが忍び込ませた小さな木製の欠片が、確かに見つかった。
「…これだわ」
お凛の目には、確かな光が宿っていた。
義父も、その米を見て、驚きを隠せないようだった。
「間違いない…この米は、公儀の御蔵米だ。この粒の揃い方、色艶…通常市場に出回るものではない」
義父の言葉は、お凛の確信を裏付けた。
これで、淀屋の辰蔵が公儀の御蔵米を不正に横流ししているという、決定的な証拠が手に入った。
しかし、この証拠をどのように利用し、辰蔵を追い詰めるか。そして、佐助の無実を証明し、飢饉に苦しむ町の人々を救うためには、さらに周到な計画が必要だった。
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