『秒速シンデレラ』

月影 朔

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第3章:日常に潜む小さな綻び

第13話:親友の忠告

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 蓮とのデートを重ね、結衣の心は恋に焦がれていた。

 エクレアが示した期限を意識するたびに、胸の奥がきゅっと締め付けられるような、甘くも苦しい感情が募る。

 この恋を、何としてでも成就させたい。

 そんなある日、親友の梓から「久しぶりにゆっくり話そうよ」と誘われた。

 結衣は、最近すっかり疎かになっていた親友との時間に、少しだけ罪悪感を覚えた。

 しかし、蓮とのデートの興奮で、その罪悪感はすぐに薄れた。

 秋風が窓を揺らす、いつものカフェ。

 午後の日差しが斜めに差し込み、テーブルに置かれたマグカップからは、ほのかなコーヒーの香りが立ち上る。

 梓は、結衣の向かいに座り、温かいカフェラテを一口飲んだ。

「元気だった?
最近、あんまり連絡取れてなかったから心配してたんだよ。」

 梓の声は、いつものように飾らない。

 結衣は、蓮とのデートの報告をしようと、思わずスマホを手に取った。

 画面には、次にエクレアから指示されるはずの、蓮の好きなカフェインレスコーヒーの知識がちらりと見えた。

「うん、元気だよ。
最近ね、すごく素敵な人ができて、毎日が充実してるんだ。」

 結衣は、精一杯の笑顔で答えた。

 しかし、梓の視線は、結衣の顔よりも、手元のスマホに注がれていることに気づく。

「へえ、それは良かったね。
でも、なんかさ、あんた、最近変だよ。」

 梓の口調が、少しだけ真剣なものに変わった。

 結衣は、スマホから視線を外し、梓の顔を見る。

 梓の瞳は、心配と探るような色が混じっていた。

「変って、どういうこと?」

「なんていうか……
よそよそしいっていうか、無理してるように見えるんだよね。
前はもっと、バカな話とか、グチとか、いっぱい聞かせてくれたのに。」

 梓の言葉が、結衣の胸にチクリと刺さった。

 確かに、最近の会話は、エクレアの指示通りの、完璧で無難なものばかりだった。

 蓮との話でさえ、本音を言うことはほとんどなかった。

「そんなことないよ。
最高の恋をしてるだけだから。
今までになく、うまく行ってるんだから!」

 結衣は、思わず語気を強めて反論した。
まるで、自分の不安定な心を隠すかのように。

 梓の心配そうな眼差しが、偽りの自分を見透かしているようで、居心地が悪かった。

「それが、あんたの本当の幸せなの?
ねぇ、結衣、あんたはそんな完璧な子じゃないじゃん。
もっと、自分の気持ちに正直になんなよ。
誰かの指示通りに生きてるみたいで、見てて苦しいよ。」

 梓の言葉は、普段の彼女からは想像できないほど厳しかった。

 結衣の心臓が、ドクンと大きく跳ねる。

 自分の心の中に隠していた不安や違和感を、親友に全て見透かされたような気がした。

「梓には関係ないでしょ!
私のことなんて、何にも知らないくせに!」

 結衣は、思わず声を荒げてしまった。

 カフェの他の客の視線が、一瞬こちらに集まるのを感じる。

 秋風が、窓の外でヒューッと音を立てた。

 梓の顔に、失望の色がじんわりと浮かぶのが見えた。
テーブルの上のカフェラテは、もうすっかり冷めていた。
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