【完結】『江戸からくり忍者衆 - 裏柳生の奇譚解決ファイル -』

第7章：長崎の密約

第20話：出島に潜む影

　古文書に記された異国のからくり技術と、長崎への不審な異国船の入港。これらが黒鉄衆の目的と深く関わっていると確信した鋼丸は、裏柳生の仲間たちと共に、一路、長崎へと向かっていた。

　長崎の町は、江戸とは異なる異国情緒に溢れていた。異国の言葉が飛び交い、南蛮渡来の珍しい品々が並ぶ。しかし、その華やかさの裏には、幕府の厳しい監視の目が光っていた。

　出島は、異国との唯一の窓口であり、同時に厳重な管理下に置かれた場所だった。

「ここが、出島か……」

　鋼丸は、厳重な警備が敷かれた出島の入り口を見据えた。武装した役人たちが目を光らせ、往来する人々を厳しくチェックしている。

「あの不審な商船は、ここに入港したと？」
　紅が尋ねる。

　黒羽は、出島に潜入するための情報収集を進めていた。
「ええ。通常の商船とは異なり、積み荷の検査も簡略化され、すぐに倉庫へと運び込まれたそうです。いかにも怪しい」

　轟は、出島の高い壁を見上げ、唸った。
「こんな厳重な場所によく潜り込めたもんだな、奴らも」

　鋼丸は、古文書に記された異国のからくり技術と、黒鉄衆の繋がりを確信する。彼らがこの異国の船に何らかの形で関わっているのは間違いない。

「我々は、出島に潜入し、あの船、そして積み荷の正体を突き止める」

　鋼丸は決断した。出島の警備は厳重だが、裏柳生の忍びにとって、侵入できない場所はない。

　夜の帳が降り、長崎の町が静寂に包まれる頃、鋼丸たちは出島への潜入を開始した。

　紅は、医術の知識を活かし、警備の隙を作るための煙幕からくりを仕掛けた。

　轟は、その豪腕で警備の役人を気絶させ、静かに排除していく。

　黒羽は、出島内の見取り図を頭に入れ、最も効率的な侵入経路を指示した。

　鋼丸は、彼らが潜入した商船へと向かった。
船は巨大で、その船腹には、日本の和船とは異なる、異国の複雑な紋様が刻まれている。そして、船倉からは、微かに金属の軋む音と、油の匂いが漂っていた。

「ここに、奴らの狙いがある……」

　鋼丸が船倉に足を踏み入れた瞬間、内部で激しい閃光が走り、金属のぶつかる音が響いた。

　そこには、すでに黒鉄の忍者団が潜入し、船の護衛らしき異国の兵士たちと交戦している姿があった。
鉄仮面をつけた忍者たちが、日本の武術とからくり技術を融合させた戦い方で、異国の兵士たちを圧倒していく。

「やはり、奴らもこれを狙っていたか！」

　鋼丸は、隠れて様子を伺った。黒鉄の忍者団が狙っているのは、船倉の奥に厳重に保管された、巨大な木箱だった。木箱からは、微かに、あの「時計の針の音」のような、規則的な機械音が聞こえてくる。

　その木箱の周りには、異国の兵士の中でも特に屈強な者たちが、からくり仕込みの銃を構え、厳重に警備していた。
彼らの銃は、火縄銃とは異なる、連発式の最新鋭のからくり銃だった。

「これは……異国のからくり銃か！」

　轟が驚きの声を上げた。
それは、日本のからくり技術をはるかに凌駕する、恐るべき武器だった。

　黒鉄の忍者団のリーダー格、大鎌を携えた鉄仮面の男が、木箱の前に立つ。彼は、鉄仮面をつけた異国の兵士たちに、何らかの指示を与えているようだった。

「あの鉄仮面の兵士たち……まさか、黒鉄衆は、異国の勢力とも手を組んでいるのか！？」

　紅が、事態の複雑さに顔を曇らせた。黒鉄衆の背後には、異国の勢力がいる。彼らが操るからくり技術は、もはや日本の枠を超えていた。

　鋼丸は、この状況を打開するため、一歩踏み出した。このままでは、木箱の中身が黒鉄衆の手に渡ってしまう。

「裏柳生、参る！」

　鋼丸の出現に、船倉内の戦闘が一時停止した。黒鉄の忍者団と、異国の兵士たちが、一斉に鋼丸に視線を向けた。

「裏柳生め、またしても邪魔をするか！」

　大鎌の男が、憎悪のこもった声を上げた。異国の鉄仮面兵士たちも、一斉にからくり銃を鋼丸に向けた。

「この木箱の中身は、何者にも渡さん！」
　鋼丸の言葉と共に、からくり刀が閃光を放った。

　長崎の出島という、異国の技術が交錯する場所で、裏柳生と黒鉄衆、そして異国の勢力の三つ巴の戦いが、今、始まった。

　長崎の出島で、異国のからくり技術を巡る三つ巴の戦いが勃発した。
　黒鉄衆の背後に潜む異国の勢力の影が明らかになり、物語は、新たな局面へと突入する。