【完結】『江戸からくり忍者衆 - 裏柳生の奇譚解決ファイル -』

第15章：江戸城大決戦

第48話：闇の痕跡、黒鉄衆の残党

　江戸城の地下深くで「主」が消滅し、「禁断のからくり」の暴走が止まったとはいえ、その爪痕は深く、江戸の町には依然として不安と混乱が渦巻いていた。

　城の一部は無残に崩壊し、からくりの脈動（波動）の残滓が、人々の心に得体の知れない影を落としていた。しかし、それだけでは終わらなかった。

「鋼丸！　轟殿が交戦中だ！」

　黒羽の焦った声が、裏柳生の本拠地に響き渡った。彼の情報網が、江戸城内での新たな異変を捉えたのだ。

「何があった？」

　鋼丸はからくり刀を構え、即座に反応する。
「城内の瓦礫の中から、異形のからくり兵が再び現れたという報告が多数！　しかも、どうやらそれを操っているのは……黒鉄衆の残党らしい！」

　黒羽の言葉に、紅が顔をしかめる。

「まさか、『主』が消えても、まだ残党が活動していると？　それに、あの異形のからくり兵は、からくりの脈動（波動）の残滓で変異したもののはず……」

「おそらく、残党たちは『主』が残したからくりの脈動（波動）の痕跡を頼りに、暴走したからくり兵を制御しようとしているのだろう。彼らは『主』の遺志を継ぎ、からくりの力を利用しようと目論んでいるに違いない！」

　鋼丸は即座に判断した。テラ・ノヴァの存在が明らかになった今、黒鉄衆の残党を放置しておくことはできない。彼らがからくりの脈動（波動）を悪用すれば、江戸はさらなる混乱に陥るだろう。

「行くぞ！　江戸の平和は、俺たちが守る！」

　鋼丸は雷切を抜き放ち、城へと駆け出した。紅と黒羽もそれに続いた。

　江戸城内は、まさに混沌の渦中だった。天守閣の南側が大きく崩れ落ちた場所を中心に、異形のからくり兵が徘徊し、城の守備兵たちと激しく交戦していた。

　通常のからくり兵とは比較にならないほどの耐久力と、脈動するような不気味な動きは、兵士たちを恐怖のどん底に突き落としていた。

　その中で、轟の金剛棒が唸りを上げていた。彼は、複数の異形のからくり兵に囲まれながらも、その怪力で次々とからくり兵を粉砕していく。

　しかし、倒しても倒しても湧いてくるかのように現れる異形のからくり兵の数に、轟も次第に疲弊し始めていた。

「くそっ！　キリがねぇ！」

　轟の背後から、漆黒の装束を身につけた影が躍り出た。それは、まさしく黒鉄衆の忍者だった。彼らは異形のからくり兵と連携し、轟に襲いかかる。彼らの顔には、狂信的なまでの憎悪と、からくりの力への妄執が宿っていた。

「轟！　加勢する！」

　鋼丸の雷切が、黒鉄衆の忍者の一人を雷光と共に切り裂いた。紅は、すかさず周囲のからくり兵の動きを鈍らせる煙玉を放ち、黒羽は懐から針を取り出し、からくり兵の急所を的確に狙い撃つ。

「まさか、まだ残党がこれほどいたとは……！」

　鋼丸は、次々と襲いかかる黒鉄衆の忍者と異形のからくり兵を捌きながら、驚きを隠せない。彼らは「主」が消滅したにもかかわらず、その忠誠心とからくりへの執着を失っていなかった。

「彼らは『主』の残した『脈動』を、まるで神の御業であるかのように崇めている。そして、この脈動こそが、新たなからくりを生み出す力だと信じているんだ！」

　黒羽が叫んだ。その言葉に、鋼丸は背筋に冷たいものが走るのを感じた。彼らはただ「主」の遺志を継いでいるだけでなく、この異変そのものを利用しようとしているのだ。

　戦いは激しさを増していく。
異形のからくり兵は、倒されても尚、からくりの脈動（波動）の残滓によって再び立ち上がろうとする。黒鉄衆の忍者たちは、狂気にも似た執念で鋼丸たちに襲いかかる。

「この闇を、完全に断ち切らねば！」

　鋼丸は雷切にさらなる雷の力を込める。彼の瞳には、江戸の平和を守るという固い決意が宿っていた。

　この江戸城での戦いが、全ての決着をつける最後の戦いになることを願いながら。