【完結】『江戸からくり忍者衆 - 裏柳生の奇譚解決ファイル -』

月影 朔

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第16章:勝利の代償

第53話:漂着の島、文明の痕跡

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 嵐とテラ・ノヴァの襲撃を辛くもかわしたからくり船は、損傷した船体を抱え、荒れる波間を漂っていた。

 からくりの推進機関は停止し、帆も破れ、もはや自力での航行は不可能だった。鋼丸たちは、海図を広げ、次の寄港地を模索するが、この海域には目立った島影はなかった。

「このままでは、いつまでも漂流することになる。最悪の場合、別のからくり兵に襲われる可能性もある」

 紅が厳しい表情で言った。船のからくり油が流れ出し、腐食が進んでいた。このままでは、船そのものが沈没してしまう恐れがある。

「くそっ、何とか陸地はねえのか!」

 轟が苛立ちを露わにする。その時、黒羽が船室の奥から、埃をかぶった古い海図を持ってきた。

「見つけたぜ、鋼丸!この海図には、古の時代に存在したとされる、地図に載らない島がいくつか記されている。もしかしたら、この近くに……」

 黒羽の言葉に、一同の間に希望の光が差した。彼の指差す先には、確かに小さな、しかしはっきりと描かれた島影があった。それは、現代の海図には記されていない、忘れ去られた島だった。

「よし、あの島を目指す!からくりで応急処置を施し、帆を張るぞ!」

 鋼丸の指示が飛ぶ。損傷したからくり船に、彼らの知識と技術の全てが注ぎ込まれる。
紅はからくり油の漏れを止める応急処置を施し、黒羽は破れた帆を補修する。轟は、船体の歪みを力ずくで修正し、再び航行可能な状態へと回復させた。

 数時間後、彼らの努力が実を結び、からくり船は再び動き出した。満身創痍の船は、微かな風を捉え、ゆっくりと、しかし確実にその島影へと近づいていく。

 そして夜が明ける頃、彼らの目の前には、鬱蒼とした密林に覆われた、巨大な孤島が姿を現した。

「本当にあったとはな……」

 轟が感嘆の声を漏らす。その島は、まるで時間の流れから切り離されたかのように、手つかずの自然が広がっていた。だが、上陸すると、すぐにその島の異質さに気づかされる。

「見て!あれは……」

 紅が指差す先には、蔦に覆われた巨大な石造りの構造物が見えた。それは、人工物であることは明白だが、日本の建築様式とは全く異なる、異国の、そして遥か古の時代に作られたであろう痕跡だった。

「これは……からくり仕掛けの扉か?」

 鋼丸が、苔むした石壁に埋め込まれた巨大な円形の模様に触れる。そこには、どこか既視感を覚える幾何学模様が刻まれていた。それは、テラ・ノヴァの紋様にも似ていたが、さらに古く、原始的な印象を与えるものだった。

「間違いない。これは、古代からくり文明の痕跡だ」

 黒羽が興奮気味に言った。彼の知識と経験が、目の前の光景を瞬時に分析していた。

「まさか、こんな孤島にまで……」

 轟が周囲を見回す。密林の奥からは、奇妙な金属音が聞こえてくるような気がした。それは、自然の音とは異なる、からくりの脈動(波動)の残滓が響いているようだった。

「この島に、古代からくり技術が隠されているのかもしれない」

 鋼丸の目に、新たな希望の光が宿る。テラ・ノヴァの襲撃で船は損傷したが、皮肉にもそのおかげで、彼らはこの忘れ去られた島にたどり着くことができたのだ。

 彼らは、慎重に構造物の内部へと足を踏み入れた。そこには、時を超えて眠り続けていた、古代の超からくり文明の遺産が残されていた。

 壁には奇妙な文字が刻まれ、床には見慣れない装置が埋め込まれている。そして、空間の奥からは、微かな「からくりの脈動(波動)」が感じられた。

「これは……新たな発見だ」

 紅が、古文書に記された内容と目の前の遺跡を照らし合わせる。この島には、彼らが求める「鍵」の一部が隠されているのかもしれない。

 鋼丸たちは、この孤島で、世界の平和を救うための新たな手掛かりを見つけることになるだろう。
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