【完結】『江戸からくり忍者衆 - 裏柳生の奇譚解決ファイル -』

第22章：集う正義

第71話：古の知恵、未来への道

　からくり連合軍が結成され、各国の「影の組織」の代表者たちは、互いの知識と技術を共有し始めた。

　彼らのからくり船団は、「世界の中心」へと向かうべく、巨大な渦潮を越え、未踏の海域へと進んでいく。

　船内では、それぞれの組織が持ち寄った古文書や解析データが広げられ、テラ・ノヴァに対抗するための手がかりが探されていた。

「テラ・ノヴァは、古代からくり文明の技術を悪用している。
だが、彼らが手に入れたのは、そのごく一部に過ぎないはずだ」

　紅が、古文書の解読に没頭しながら呟いた。
彼女の隣では、黒羽がからくり義手で、世界各地の遺跡から得られた情報を瞬時に分析していた。

「テラ・ノヴァは、世界を再構築するという。
そのために、彼らは『からくりの真理』を起動させようとしている。
しかし、古文書には、その『真理』の起動は、同時に世界を破滅へと導く危険性も秘めていると記されている」

　風の里のリーダーが、紅の言葉に頷いた。

　彼の持つ古文書もまた、似たような記述を含んでいた。
古代からくり文明は、その絶頂期において、からくりの力を過信し、自らの文明を崩壊させる危機に瀕したという共通の伝承が、各地の「影の組織」に残されていたのだ。

「かつての古代からくり文明は、からくりの力を過度に追求した結果、争いを生み、自滅の道を辿りかけた。
その教訓として、彼らは『からくりの真理』を五つの『鍵』に分け、世界各地に封印した、と……」

　砂漠の民の長老が、自らの民族に伝わる口伝を語った。
それは、鋼丸たちがこれまで旅の中で断片的に知ってきた事実と符合する。

「彼らは、からくり技術の真の目的が、破壊ではなく、生命の営みを豊かにすることにあると気づき、そのために、新たなからくり術を築き上げようとした。
しかし、時すでに遅く、文明は滅びた……」

　氷山の民族のリーダーが、沈痛な面持ちで語った。
彼の部族に伝わる記録には、寒冷地に適応するためのからくり技術が記されており、その多くが、自然との調和を重視する思想に基づいていた。

「つまり、テラ・ノヴァは、古代からくり文明の過ちを繰り返そうとしているのか」

　轟が、怒りを滲ませながら言った。

「その通りだ。
テラ・ノヴァは、からくりの『破壊』の側面ばかりを追求し、古代文明が辿り着いた『共存』の思想を理解していない」

　鋼丸は、雷切に宿る五つの「鍵」の脈動（波動）を感じ取った。
それぞれの脈動が、互いに影響し合い、新たな力を生み出そうとしている。

　それは、単なる力の増幅ではなく、それぞれのからくりが持つ特性を融合させ、新たな「からくりの粋」を創造する可能性を秘めていた。

「我々がテラ・ノヴァに勝つには、彼らが失った『古の知恵』、つまりからくり技術の真のあり方を理解し、それを超える新たなからくり術を生み出す必要がある」

　黒羽が、一つの結論に達した。
彼は、テラ・ノヴァのからくり兵器の解析データをさらに深く掘り下げていた。

　テラ・ノヴァの技術は、確かに強力だが、どこか歪で、不自然な脈動をしていたのだ。
それは、古代の技術を無理やり再現しようとした結果の、不安定さを示唆していた。

「古文書には、古代からくり文明が、滅びの淵で、からくりの真の姿を悟り、未来へ託したという記述がある。
その技術の全てが失われたわけではないのかもしれない」

　紅の言葉に、鋼丸たちは希望を見出した。

　彼らは、テラ・ノヴァに対抗するため、世界各地に散らばる古代からくり文明のさらなる遺産を探すことを決意する。

　それは、テラ・ノヴァが「からくりの真理」を起動させる前に、彼らが失われた古代の知識と技術を手にすることを意味した。

　各国の「影の組織」は、それぞれの地域に伝わる古文書や、隠された遺跡の情報を持ち寄った。
それは、これまで誰にも知られることのなかった、膨大な量の知識と記録だった。

　その中には、古代からくり文明が、からくり技術をどのように扱い、何を教訓としていたのか、そして、世界と共存するためのからくり術とは何であったのかを示す、重要な手掛かりが隠されていた。

　鋼丸たちは、それらの文献や記録を読み解き、古代人たちがからくり技術をどのように扱い、何を教訓としていたのかを知るために、深く学ぶことを決意した。

　それは、テラ・ノヴァの野望を打ち砕くための、そして世界の未来を切り開くための、新たな戦いの始まりだった。

　彼らは、それぞれの「鍵」が持つ力だけでなく、それらを統合することで生まれる未知の力、そして古の知恵を未来へ繋ぐ道を模索する。