【完結】『江戸からくり忍者衆 - 裏柳生の奇譚解決ファイル -』

月影 朔

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第27章:からくりの極致

第89話:からくりの真理、未来への選択

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 鋼丸の「雷鳴轟破」と、からくり連合軍の仲間たちの魂の共鳴により、究極のからくり兵器は暴走を始めた。

 世界中のからくりの脈動を無理やり吸収したことで歪んだ脈動が、雷切の雷の力によって正常な状態へと引き戻されようとしている。

「ぐっ……! 我の『調和の源泉』が……なぜ、このような力を……」

 イグニスは、額に脂汗を浮かべ、苦悶の表情で究極のからくりを見上げた。彼が完璧だと信じていたからくりが、自らの手から離れ、制御不能に陥っている。

 究極のからくりの暴走は、一見すると破壊へと向かっているように見えたが、その内側では、吸収された脈動が新たな調和の形を模索していた。雷切の雷の力が、乱れた脈動を正しい方向へと導いていたのだ。

 その時、究極のからくりの巨体が、ゆっくりと膝をついた。脈動機関から放たれる波動は、荒々しさを失い、穏やかな、しかし力強い鼓動へと変わっていく。そして、その脈動の中心から、純粋な光が放たれた。

「これは……からくりの脈動が、正常に……!?」

 紅が、その光景に目を見開いた。彼女の医術からくりの知識が、この現象を理解しようと、脳内で高速に情報を処理していた。

 光が収まると、究極のからくりの巨体は、その形を変えていた。それは、もはや破壊兵器の姿ではなく、まるで古の神殿のような、荘厳で美しい姿へと変貌していたのだ。脈動機関は、静かに、そして力強く鼓動している。そこからは、かつての暴力的な波動ではなく、生命の息吹のような清らかな脈動が感じられた。

 イグニスは、その変貌したからくりを呆然と見上げていた。彼の顔から、絶望と狂気の表情が消え失せ、代わりに深い驚きと、そして理解の光が宿った。

「これは……創造……。破壊ではなく、真の創造の姿……」

 イグニスは、震える声で呟いた。彼が求めていた「新たな世の創造」は、破壊によってのみ果たされると信じていた。しかし、鋼丸たちの力は、破壊ではなく、調和による創造の可能性を示したのだ。

 鋼丸は、雷切を構えたまま、静かにイグニスに語りかけた。

「イグニス。お前が求めていたのは、このような『調和』ではなかったのか? からくり技術の真の目的は、破壊ではない。人類の発展と、共存にある。俺たちが、仲間と共に、それを証明したんだ」

 鋼丸の言葉は、イグニスの心の奥底に深く響いた。彼は、ゆっくりと視線を鋼丸へと向けた。その瞳は、過去の悲劇に囚われていたイグニスの瞳ではなく、真実を見据える、澄んだ光を宿していた。

「……愚かだった。我は、あまりにも絶望に囚われすぎていた。からくりの真理は……そう、創造と破壊、その両方にある。だが、真の創造は、破壊の果てにあるものではない。それは、調和の中から生まれるものなのだ」

 イグニスは、静かに自らの過ちを認めた。彼が長い間、探求し、追い求めていたからくりの真理が、鋼丸たちによって示されたのだ。古代からくり文明が滅びた原因は、技術の暴走だけではない。真に恐れるべきは、その技術を操る人々の心の歪みであったことを、イグニスは悟ったのだ。

「我は、敗北を認めよう。そして、感謝する、鋼丸。お前たちのおかげで、我は真のからくりの真理を知ることができた」

 イグニスの声には、長年の重荷から解放されたような清々しさが感じられた。彼は、自らが創り上げたはずの究極のからくりの前に立ち、その脈動に耳を傾けた。その脈動は、世界の全てと繋がり、穏やかに、しかし力強く響いていた。

 からくり連合軍の面々は、その光景を静かに見守っていた。長きにわたる戦いが、今、終わりを告げようとしていた。イグニスの敗北は、テラ・ノヴァの脅威が完全に排除されることを意味する。

 からくりの真理は、破壊ではなく、未来への選択を、彼らに示していた。
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