【完結】『江戸からくり忍者衆 - 裏柳生の奇譚解決ファイル -』

第29章：新たな日常

第97話：からくりの教訓、歴史の継承

　鋼丸、紅、黒羽、轟、それぞれの道でからくりの光を広めるべく尽力する彼らだったが、彼らの心には共通の想いがあった。

　それは、古代からくり文明が滅びた教訓を未来に伝え、二度と同じ過ちを繰り返さないようにすることだ。

　彼らは、テラ・ノヴァとの戦いでその真実を知り、からくりの持つ破壊の側面を肌で感じてきた。
この貴重な経験を、歴史の継承として後世に残すことが、彼らの責務だと感じていたのだ。

　裏柳生の隠された書庫の一角に、新たな研究室が設けられた。そこは、世界各地から集められた古代からくり文明の遺物、テラ・ノヴァが残した解析データ、そして鋼丸たちが旅路で書き記した手記などが整然と並べられている。

　この部屋が、からくり技術の歴史と、その正しいあり方を記した書物を編纂するための拠点となる。

「古代文明の滅びは、からくり技術の暴走と、それによる人類の争いが原因だった。この真実を、隠すことなく伝えねばならない」

　鋼丸は、古びた壁画の写しを広げ、古代のからくり師たちの苦悩と、彼らが犯した過ちについて語った。
彼の言葉は、過去の教訓を未来に繋ぐ、強い意志に満ちていた。

　紅は、古代の医療からくりに関する記述の中から、生命の倫理に関わる部分を慎重に抽出した。
彼女は、からくりの力が生命を創造するほどの可能性を秘めていることを知っていたからこそ、その使用には細心の注意が必要だと訴えた。

「からくりは命を救うこともできれば、容易く奪うこともできる。その境界線を明確にし、倫理の規範を定めることが急務です」

　黒羽は、世界中の影の組織から収集した情報を基に、からくり技術が悪用された事例や、その結果として引き起こされた悲劇をまとめた。

　彼の情報からくりは、膨大なデータを瞬時に分析し、過去の出来事から未来への警告を導き出した。

「歴史は繰り返される、という言葉がある。だが、知識があれば、それを避けることもできるはずだ。この書物は、未来の人々が過ちを繰り返さないための道標となるだろう」

　轟は、古代からくり兵器の設計図を検証しながら、その破壊力がどのようにして人類を破滅へと導いたのかを分析した。彼は、からくりの「力」を正しく理解し、その制御の重要性を説いた。

「力がなければ守ることもできぬ。だが、力を振るえば、必ずや犠牲が生まれる。この書は、力のあり方を伝えるものとなる」

　数年という月日を費やし、鋼丸たちは、仲間や裏柳生の学者たちの協力を得て、ついに一冊の書物を完成させた。その書物は、「からくり真理之書」と名付けられた。

　書には、古代からくり文明の興隆と滅亡の歴史、からくり技術の原理と応用、そして、その力が人類にもたらしうる光と影について、詳細に記されている。

「この書が、未来へと受け継がれ、からくりの真理が正しく理解されることを願う」

　鋼丸は、完成した書物を手に、静かに呟いた。その目は、遥か未来を見据えていた。

「からくり真理之書」は、裏柳生に代々伝えられる秘伝の書として保管されるだけでなく、世界の影の組織を通じて、各国の指導者やからくり師たちにも共有された。

　それは、人類がからくり技術と共存していくための誓いであり、過去の過ちを繰り返さないための大切な遺産となった。