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一章 本命じゃないくせに嫉妬はやめて!
12、隣国に到着
しおりを挟む昨日あんな事をしたのに、ケロリとしている隣の男を見る。
それだけで、あのときの情景を思い出してしまい。俺は恥ずかしさのあまり顔を伏せる。
でもこのままだとまずいと思った俺は、暫くウルと少し距離をとって歩くことにしたのだ。
そして俺達は、ついに隣国ホワイトダイヤ国にたどり着いたのだった。
この国に入ってしまえば、追っ手はほぼ来なくなるだろう。
それでも俺はやる事があるので、ゆっくりはしていられない。
「ようやく着いたね~。まだここは端の町だけど、何処まで行くつもりなの?」
「あと、二つ三つ町を経由した先にあるドラゴンの生息地に向かう予定だ」
「だったらこの国で冒険者になっておくことをオススメするよ?」
「冒険者か……考えてみる」
この国を拠点に活動して行こうと思うのなら、冒険者になるのは悪くない話だった。
それに隣にいるこの男も冒険者なのだ。
もしかしたら冒険者になれば、この男のように強くなって進化できるかもしれない。
そう思いウルを見ると、何故かこっちをニヤリと見ているその瞳と目が合ってしまう。
「何故俺を見ているんだ?」
「デオの考え事してる姿も、可愛いなぁ~っと思って」
「だから俺は可愛くなんて……はぁ、お前のそれは挨拶みたいなものなんだよな。なんとなくわかってきた」
「違うよ~。デオだからいってるのに!」
どうせ誰にでも言っているただの挨拶なのに、少しドキドキするなんて俺はバカだ。
ウルが何か言っているのを無視して、俺は町を見渡した。
俺の国とは違い、宗教国家であるホワイトダイヤ国は異常なほど教会が多い気がする。
あと、白い建物が多い。
「って、デオは俺の話きいてるの!?」
「全く聞いてなかった」
「えぇ、酷いなぁ~」
「それより、ウルはこの国に何度も来た事あるのか?」
「それはもちろん!俺はこっちでも冒険者してるからね」
それならこの国について詳しいのかもしれないと、話を聞いてみることにした。
「この国について?」
「ああ、俺は本に書いてあったことしか知らないからな。実際に見た奴の話を聞くのが一番だと思って」
「あー、成る程。なら進化を目指すデオに豆知識を教えてあげよう」
国の事を聞いて進化の話をされるとは思っていなかった俺は、気になって少しウルに近づいていた。
「この国は宗教国家だから神に進化しようとする人がとても多いんだよ~」
「ここの宗教は唯一の絶対神じゃないのか?」
「神に近い存在になるだけで、主神になれるわけじゃないからって考えみたい。誰だってなるべく神のお側に行きたいって事なのかな?でも神になるための進化論とかは、教会の幹部とかになれば教えてもらえたりするらしいよ」
「別に俺は神になりたい訳じゃない」
俺はできたら竜人になりたいのだから……。
でも、これをウルに言っても仕方ないしな。
「俺も神はいやだね」
「お前は、すでに悪っむがっ!?」
悪魔と言おうとして、ウルの手が素早く俺の口を塞いだ事に驚いてしまう。
それよりも俺はいつのまにこんなにウルに近づいてしまったのだろうか?
「しーーーっ!この国は神を信仰している国だから、俺が悪魔ってバレたら捕まっちゃうよ」
悪魔って事は弊害が多いのだろうか。
俺は口を押さえられているためモゴモゴいいながら、とりあえず頷いておいた。
「あ、ごめんね。勢いあまって口塞いだままだったね」
そう言ってようやく手を離してくれたと思ったら、そっと唇を指でなぞられてしまった。
「なっ!」
「あ、ごめんごめん。形の良い唇だと思ったらつい触りたくなっちゃった」
「そんなわけないだろ。俺の唇はガサガサだ」
「そうかな?でも気にしてるなら唇の保湿クリーム買ってあげる」
「俺は男だからそんなのはいらない。それより硬貨を変えに行くから、場所を知っているなら案内してほしい」
それから俺達は、硬貨を変えに行ったついでに町を散策することにした。
そして俺は今、謎のお店にいた。
「デオにこれ絶対似合うよ~」
「……さっきからずっと思っていたけど、お前センスゼロだろ」
ウルが持っているのはどう見ても、何かのコスプレ衣装に見える。
というか、このお店は何屋なんだ?
「デオ、もしかしてここが何のお店かわかってない?」
「服屋じゃないのか?」
「もう、本当君は純粋で……全く、たまらないよね」
ウルは額を手で押さえながら、ニヤリと笑う。
その笑みに俺はゾクリと嫌な予感しかしない。
「買うつもりがないなら俺は店を出る」
「待ってよー、本番はここからだからね~」
「お、おい!腕を掴んで引っ張るな!」
そして俺はウルに引き摺られるように、さらに奥のよくわからない商品が並んだ場所に移動していた。
周りを見回しても、怪しげな瓶にピンクや紫の軟膏が入ってそうな物ばかりおいてある。
本当に軟膏が入っているようには見えないため、ただ怪しい。
「ウル、どこまで奥に行くんだ?」
「もう少し……あ、あったあった。昔一度来た事があったから覚えていてよかった」
立ち止まったウルは、棚から一つの商品を手に取ると、俺に渡してきた。
「はい、これ。唇の保湿クリーム」
「え?」
さっき話たばかりなのに、わざわざ俺のためにこれを探してくれたのか……?
変な店かとおもったけど、こういう商品が置いてある店だったんだな。
「あ、これは俺が買ってあげるからデオは少し待っててね。でも変な人に話しかけられても絶対に無視しないとだめだよ?」
「どういう意味だ……?」
俺は言っている事が理解できずに首を傾げて、とりあえずお会計に向かうウルを見送った。
この店は狭いからここは邪魔になりそうだと、俺は少しゆとりがある場所に移動する。
そしてそこで待っていると、すぐに知らない人に声をかけられてしまった。
「そこの君」
「はい?」
俺はウルに誰に話しかけられても無視しろと言われたのに、つい反射で返事をしてしまう。
そこにいた男は商人のような格好をした、背の高い男だった。
「ここにいるってことは、そういう相手を探しているのかな?」
「っ!?」
いきなりお尻を鷲掴みにされて、俺は驚いてしまう。
「なかなか、反応が可愛い子だ。あまり経験はないのかな?」
「あの、手を離して下さい。それに俺、子って言われるほど若くないですけど……」
何故お尻を掴まれたのかはわからないけど、この国はそう言う挨拶なのかもしれない。隣国とはいえ異文化だから、一応丁寧にお断りした。
それから俺は今26なので全然若くないし、可愛くもない。
「ふふ、君は天然なんだね。可愛がってあげるから今から一緒にこない?」
「いや、あの俺今人を待ってて……」
そう言ったのに、その男は俺の手を掴もうとした。
でも、それは出来なかった。
男の手が俺に伸びる前に、誰かの手がそれを掴んだのだ。
「いでででっで!!!」
「お兄さん、ごめんね~。彼は俺のだから……お兄さんが気軽に触れていい人間じゃないんだよ?」
俺の前にはいつのまにか、ウルが立っていた。
早すぎて全く見えなかった……でも、なんでウルはこんなに怒ってるんだ?
「相手が、いたとはしらなかった!くっ、もう手を出すつもりはないっ、だから離してくれ!!」
「そう?なら離してあげる。目を離した俺も悪かったしね~。でもごめんね、指折れちゃったかもしれないから、これで治してね~」
その男は薬を受け取ると、すぐにその場からいなくなったのだった。
そしてこの場には、いまだに殺気をバンバンと溢れ出させているウルと、俺だけが残ったのだった。
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