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一章 本命じゃないくせに嫉妬はやめて!
3、旅の理由
しおりを挟む隣町に向かうための道を歩きながら、俺はため息をついていた。
それは昨日、ウルのせいで寝るのが遅くなったことが原因だった。
だから何故かまだついて来ているウルに文句を言う。
「ウルのせいで町を出るのが遅くなるところだったんだぞ……」
「え?だってデオが強情だからさ~」
「当たり前だろ、お前が一時的なお遊びで言っている事ぐらい俺でもすぐにわかる。俺はそんな不純なことはしない」
「何でさ~、気持ちいい事するのは生きる上で大事な事でしょ~!!?」
「必要じゃない。俺には戦いの方がお似合いだ」
そうだ。俺は戦うために作られたのだから、それ以外あるわけがない。
それなのに、この男は俺に言うのだ。
「勿体ないよー。こんなにも綺麗な顔してるのに」
綺麗な顔?
「それに金色に輝く髪は俺のタイプだし、その碧く透き通った瞳もすっごく綺麗だよ」
ウルの手が触り心地を確かめるように、俺の髪をそっと撫でつけた。
それだけなのに、俺は何故か恥ずかしくなってしまう。
今まで俺の事を強いと褒めてくれる人は周りに沢山いたけど、容姿を褒められたのは初めてだ。
でもそれだけなのに、なんでこの男に言われるだけでこんなにドキドキしているんだ俺は……?
「そうやって、すぐに顔が赤くなるところが特に可愛いよね~」
「俺はゴツいから可愛いわけないだろ?」
俺の弟ならともかく俺は平均身長ぐらあるし、筋肉だってかなりついているから可愛いに分類されるわけがない。
「ンフフ~。僕から見たら全人類可愛いから大丈夫!」
「それは誰でもいいってことじゃないのか?」
「あら、バレちゃった?」
やはりこの男は、ただのチャラチャラした不埒なやつだ。それなのに、俺はこんな男に何赤くなっているんだ。
だからこそしっかりと断らなくては……。
「俺にはやる事があるから、忙しいんだ」
「やる事って?」
「俺が国から追われているのは知っているだろ?」
「逃げてるだけじゃないんだ?」
「俺は罪人だ。ならばいつかは罪を償わなくてはならない」
そうではないと、俺が手にかけてしまった父上だって報われない。
「償う相手もいないのに、どうやって罪を償うの?」
何故だろう。この男には何も言っていないのはずなに、俺がしたことが全部バレている気がするのだ。
でもこいつが言うとおり、確かに償う相手はもういない。
だからこそ父が成し得なかったことを、俺は一つでも叶えたいと思っていた。
「俺は、進化がしたい。それがあの人の望みだったから……」
この世界でモンスターが進化するように、俺達人だって勿論進化できる。
だけど実際に進化できる人間は一万人に一人ぐらいであり、そんな簡単になれるものではない。
そして父上は、俺達兄弟を使って人間の上位種である竜人を作り出そうとしていた人だった。
「それで俺は竜人になるため、各地にある竜の巣をめぐる旅をする予定なんだ」
「進化!?それも竜人なんだ、いいねぇ~。ますますデオの事が欲しくなってきたよ」
「何故だろう。ウルが言うとふざけて聞こえる」
「酷いなぁ~、そんなこと言うならわかった!俺もその旅に同行するよ。それで、俺がデオをどれだけ欲しているのか伝えてあげるね」
赤い瞳がニコリと細まる。それはまるで俺を獲物として認識しているかのように見えた。
そのことに困惑しながらも、とりあえず俺達は一緒に隣国に向かう事にしたのだった。
そして陽が沈む頃、俺達はようやく隣の町へとたどり着いた。
この町を越えた向こうは、ついに隣国ホワイトダイヤ国だ。
ここは隣国と隣接しているだけあって防衛として守りが厚く、何より貿易地点として商人が多く集まっていた。そのためこの町はとても大きかった。
そしてどうやらこの町には、俺への追ってはまだ来ていないようだった。
それでも今は大人しくしているのが一番だと、俺はウルに案内された宿に泊まることをすぐに決めたのだ。そして気がつけば、ウルに流されるように二人で同じ部屋をとっていたのだった。
その後。
夜ご飯を食べ終えた俺は、出かける準備をしているウルに気がついて声をかけていた。
「ウル、どこかに出かけるのか?」
「悪いけど、俺は少し遊んでくるよ」
「遊んでくるって?」
「女の子のところだけど、デオも一緒に行く?」
「そんなの行くわけないだろ!!」
本当に最低なやつだと思いながら、俺は布団にこもる。
それなのに、ウルは明るい声でいうのだ。
「じゃあ、行ってくるよ。この部屋は一人でゆったり使ってね。多分帰ってくるのは朝になると思うからさ~」
ならば何故二人で宿をとったのかと疑問に思っている間に、ウルは部屋を出て行ってしまったのだ。
そのことに何故か俺はソワソワしてしまう。
ウルが女の人と遊んでたいとしても、俺には関係のないことだ。
俺は別にウルに言い寄られただけで、気があるわけじゃないし……。
そう思っていたはずなのに、ウルがどこに行くのか気になってしまった俺は、大人しく待つのをやめてコッソリと後をつけることにしたのだった。
そもそもウルに謎が多すぎるのが悪い。
正直な話、あんな適当な事を言うやつを俺は本当に信じても良いのか疑問に思っていたところだった。
もしかすると昨日からかわれたのも、俺が気を許すのを待つためかもしれないし……だからこそ、俺はウルを見極めなくてはいけないと思ってしまったのだ。
そして俺は今、ウルの尾行をしていた。
どんどん先に進むウルを追いかけている間に、景色は華やかになっていくのがわかる。
やはりウルはただの遊び人なだけなのではないかと、俺はウルへの認識を不埒な最低男に格下げする。
そして気がつけば、俺は花街へと入ってしまっていた。
人通りがそれなりにあるため見失わないようにと、ウルの高い身長から見える黒髪を頼りに歩いていた俺は、気がつけば見知らぬ店に入ってしまったのだ。
「いらっしゃいませ~!旦那様、本日はどの娘にされますか~?」
「え?」
「もしかして、こういうところは初めてでいらっしゃいますの~?」
「じゃあ、このワタクシがゆっくりとお教え致しますよ?」
沢山の女性に囲まれた俺は、驚きの余りウルを見失ってしまった。
でもこの店に入ったのは間違いないので何処かにいるはずだ。
「あ、あの一つ前に入った人の隣にある部屋を案内してもらえますか?」
「あら?そういう旦那様でしたか……お金を余分に頂けるのでしたらいいですけど~、喧嘩はご法度ですよ?」
「勿論わかっています」
「まぁ~真面目で可愛らしいこと!では、旦那様ご案内致しまぁ~す」
そう連れられて入った部屋は確かに華やかに飾られてはいるが、真ん中に大きなベットがあるだけの本当にそれをする為だけにあるような部屋に見えた。
「それで、旦那様が先程仰られたお方がいる部屋はあちらですよ~?実はこの部屋大部屋にも出来るので横から覗けたりするのですけども……まさか覗くのが趣味だったりします?」
「そんなわけないです」
キッパリ言うとなんだ残念と、その女性は隣の部屋に繋がる扉をほんの少しだけ開け、お役御免というばかりにベットに腰掛けた。
そして俺は、その扉の隙間からウルがいる部屋を覗く。
なんだかこれでは俺が変態のようだと後ろめたさがあったが、すでに俺の瞳はウルの姿をしっかりと捉えていた。
そこには何人もの女性に囲まれ、楽しそうにその女性を口説くウルの姿があった。
それだけなのに、何故かその姿にショックを受けている俺がそこにはいたのだった。
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