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一章 本命じゃないくせに嫉妬はやめて!
47、二人の違い(ウル視点)
しおりを挟むその後、イルの執務室に移動した俺達は向かい合って座っていた。
「それで、イルは俺に話ってなにかな?」
「なにかな?じゃない!!お前、勝手にいなくなったと思ったら、手紙だけよこしやがって!?何がデオと一緒に楽しく逃亡中だ!」
俺はデオと合流してから、何度かイルに手紙を送っていた。もとはイルを安心させたくてデオを追いかけたのだから、その行為はおかしくないはずだ。
「え?でもさ~、イルはデオの事凄く心配してたでしょ?だから教えてあげようかなぁ~っていう親切心だよ?」
そのまま、美味しく頂いちゃった事は言えないけど……。
「あぁ~、もう!羨ましい!俺も兄上と一緒に逃亡してみたかったんだぞ!」
「イルが羨ましがるところそこなんだね?」
「それと、ウル!兄上に変な事してないよな!?」
凄く疑いの目でこちらを見てくるイルに、俺はニッコリ笑顔で誤魔化す。
「兄上は優しくて誠実で真面目でかっこよくて、まるで天使のような存在なんだぞ!!もし兄上に変な事したら、ダンをけしかけてぶっ殺す!!」
「わぁ~お、それは気をつけないとねぇ~」
既に手を出してるし、デオは健気にもイルのために抱かれたと言うのに、当の本人がこれなんだもんねぇ~。俺が言うのもあれだけど素直すぎるデオの方が心配になるよ……。
でもこれは俺もバレないように気をつけないと、本当に殺されかねない。
そんな事を考えていると、真面目な顔をしたイルがこちらを見ていることに気がついた。
「それから、ウルに頼みがある」
その様子に、今のところどうやらバレてないようだから良かったのかな?と、話の続きを促す。
「……えっと、頼みって何かな?」
「今も兄上を追っているこの国の騎士達を見かけたら、これを渡して欲しい」
そう言って、イルは机の上から書類を探し出すと俺に手渡した。
「これは?」
「前国王殺害犯の捜索打ち切りの書簡だ。これで兄上はもう追われなくなる。だからきっと帰って来てくれると、思うんだけど……」
「デオはまだ帰らないと思うよ?」
「は?ウルは何か知ってるのか?」
「えぇと、デオは進化したいらしいから、まだ帰ってこないんじゃないかな?」
これはデオ自身が言ってたから間違いないと思うけど、でもそれ以前に俺がデオを帰したくない。
この王宮にデオが帰ってきたら全てバレるし、もうあんな事もできなくなっちゃうから……それだけは阻止したかった。
「兄上も進化しようとしているとは……わかった。なら俺は兄上のために手紙を書く!だから、俺が書き終わるまでそこで待ってろ!!」
そう言って、机の上に向かうイルを見て俺は確認してしまう。
やっぱりイルの気配は間違いなく進化したものだよねぇ~。
それにここに来るまでの間、色々話は聞いている。
今、兄のために一生懸命手紙を書くために机に向かうイルレインは、どうやら竜人に進化しているらしい。
そのため前国王が亡くなった後、新国王として担ぎ上げられて『竜の花嫁』なんて呼ばれてると、何処の町にいってもその噂が流れていた。
きっと噂が隣国に届くまでそんなに時間はかからないだろう。
そんな事を考えていると、イルが失敗した手紙をクシャクシャにして投げていた。
「くそー、全然上手く書けない!!」
そう憤る姿は、愛らしい。
だから見る分には全く飽きないのだけど、それなのに俺は先程からデオとの違いばかり考えてしまう。
何度考えてもイルは愛でてあげたいタイプなのに対して、デオは滅茶苦茶にして俺のところに閉じ込めておきたいと思うのだ。
それって、どっちのが好きと言えるんだろうね?
そんな悩みを抱えるまま、気がつけばお昼を過ぎていた。
「できた!!!」
その声にハッと顔を上げると、俺に手紙を差し出しすイルの姿があった。
「はい、兄上に渡す手紙」
「これは俺が渡していいものなのかな?」
「まだ兄上の周りをうろちょろするんだろ?」
少し嫌そうな顔をするイルに、俺はデオに対してやましい事はないと、進化をするかもしれないから一緒にいるだけだと伝えるために、一度咳払いをするとテンションを上げて大袈裟に言う。
「もちろんだよ。それに一緒にいたらわかっちゃうよねぇ、彼にも進化の可能性がある事に……!」
「ウルにとって進化できれば誰でもいいんじゃないのか?」
グサリと少し痛いところを刺された俺は、そんな事はないと誤魔化すためにイルの手をわざとらしく取る。
「何言ってるのかな?俺の一番は、そう!イルレイン陛下ですよ」
それがバレているからなのか、イルは物凄く微妙な顔をしてそのまま目を逸らした。
「わぉ!そんなに露骨にひかないでよ!」
「お前に陛下呼ばわりされたくないからな……」
嫌がる理由はわからなくもないけど、俺もイルと誓約をするという理由があってここまできたのだ。
それを遂行するまでは、まだ引き下がるわけにはいかない。
「でも俺とイルの契約はまだ残ってるんだからね?イルは上位種になったんだから、ちゃんと約束を守ってよ~」
もとからイルが進化したら俺と誓約するという契約を既にしているため、イルは誓約を拒めないのを知っていた。
だからデオが無理だと言ったこと自体が間違いなのであって……でもそれをわざわざ教えてあげる親切心は俺にはない。
寧ろこれでデオが手に入るなら、イルと契約していた過去の自分に感謝したいぐらいだった。
そしてイルを見ると少し嫌そうに眉を寄せた後、諦めたように頷いた。
「わかった……俺はすでに二人、パートナーとして誓約をしてるからそれでもいいなら……」
「もう、イルのハーレム男!でも、それでも許しちゃうよ。俺だって他で遊んでくるしー。主に女の子と!」
相変わらずモテモテなイルに対抗して女の子と遊ぶなんていったけど、最近は女の子よりもデオに構ってばかりな事を思い出す。
でもデオは俺が誰と遊んでても、この前みたいにどうでもいいって言うんだろうしな……。
そう思うとまた少し苛立ってきた俺は、早く誓約するために俺についての話を少しだけイルに伝えたのだった。
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