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一章 本命じゃないくせに嫉妬はやめて!
59、もどかしい(ウル視点)
しおりを挟む俺は相手を脅すために強気な態度を崩さなかった。
でも実はこのときの俺は余裕なふりをしていただけで、あと一撃をくらわせる事のできる魔力しか残っていなかったのだ。
次で終わらせなければ勝てない。そう思い、今まで以上の魔力を手に集める。
俺が使える最大級の魔法はただ一つ。
─── 業火の黒翼。
これは追尾型の魔法で、名前の通り黒い翼を持つ鳥が相手を黒い炎で燃やしつくすまで追いかける、というものだ。
しかし男はこの魔法が危険なものだと気がついたのか、俺からさらに距離をとる。
「おっと、その魔法は危ないな。追尾がつく前におさらばさせてもらうよ?」
「ふーん、この魔法見たことあるんだ?」
追尾での不意打ち狙いのつもりだったのに、知られているのなら上手く追尾をかわされてしまうかもしれない。
そして男はすでに転移の準備をしているようだった。どうやら現在の魔力だけではすぐに飛べないのか、右手で魔法陣を描いていた。
「俺もそれを使えない訳じゃない。でも得意な魔法以外は発動にとても時間がかかるから使いたくないだけさ。それにお前も魔力切れしかけているようだね。普段より魔法の展開に時間がかかっているように見える。だから俺はその間に転移させてもらう事にしようかな!」
「駄目だよ?君は絶対に逃がさないから……この俺が消し炭にしてあげるからね!!」
魔力が弱ってる俺は、確かに魔法の発動にいつもより時間がかかってしまい、その事に苛立っていた。
はやく、はやくはやく魔法を発動させるんだ……!
あいつをはやく殺さないと、アイツをすぐ目の前で殺さないと───。
デオと一生誓約できないかもしれない……そんなのは嫌だ!!
俺は左手に軽く魔力を乗せながら親指と人差し指で輪をつくり、その隙間から男を覗く事で魔力の波長を観察した。それを今から発動する魔法へと記憶させて追尾の準備を終わらせる。
そして標準を合わせ、右手で魔法陣を描いていた。
あとは増幅させた魔力を放つだけ……。
よし、完成した!
そう思ったのに男が突然笑い出した。
視線を向けると、横には転移穴が空いていた。
どうやら穴を開けないと転移できないため、時間がかかっていたようだ。
「ハハハハハハ!!!!残念残念、どうやら間に合わなかったようだね?」
「いや、まだだ……!行け、黒鳥!!!これで君は死ぬんだ!!!!」
俺の手から黒鳥が放たれる。
その鳥は男のもとへ一直線に飛び立つ。
「ハハハ、無駄だよ!この勝負はどうあがいても俺の勝ちなんだから!!でも今度はその悔しそうな顔をもっと歪めにまた会いにいくよ!それとデオ、絶対に迎えに行くから待っていてよね!!ハハハ!!!」
「待て、逃げるなよ!!!俺は、絶対にお前を殺してやる!!!!」
そう叫んだのも虚しく、黒鳥が当たる前に男は笑い声を上げたままその穴の中へと姿を消していた。
そしてその穴もすぐに閉じてしまう。
黒鳥は標的がいなくなった後もその姿を追いかけるようにどこかへ飛び立っていった。
一応転移した場所まで追いかけるつもりなのだろう。だけど俺の魔力が届く範囲に、あの男がわざわざ残る可能性は少ない。
そう考えていると、後ろで大人しく待っていたデオが今にも消え入りそうな声を出した。
「あ、う、ウル……あの、俺、俺は……」
今にも泣きそうな顔をして、結界の中で震えているデオを見た俺は、あの男を殺すまでデオと誓約できない事が信じられなかった。
でもそれ以上に、今の傷ついたデオを優しく包み込んであげたかった。
「デオ、大丈夫。今は何も言わなくていいよ……それに疲れてるよね?だから宿に戻ったら俺が綺麗にしてあげる」
優しく笑いかけた俺に、デオは涙を流しコクリと頷いてくれた。そんなデオを優しく抱き上げ、デオにいまだについている鈴やベルトを全て外す。
そのアイテムを改めて見て、あの男がいい趣味をしてるのが余計に腹立たしかった。そう思い、そのアイテム達を俺はポケットにしまったのだ。
そして俺は倒れている騎士達のもとへと歩き出していた。
多分こいつらが、イルの言っていたいまだにデオを追いかけているという騎士達の事だろう。本来ならもう捜索中止のため、帰国していないとおかしい。
でも隣国に来てしまったために、情報が届いていなかったと言うことかな?
しかしどうしてこの騎士達が皆倒れ、あの男とデオのヤっているところを見せられていたのかはわからないが、あの男の趣味だろうか?
そう思い、騎士達のもとに辿り着いた俺は改めて確認する。
そこにはどうやら先ほどの鈴の効果で興奮して、少しおかしくなっている獣達がいた。
俺は指を鳴らして状態異常を治してあげる。
すると男達は我にかえり、頭を抱えるものやひたすら唸りはじめるものがいて、正常なのは一人だけのようだった。
俺はその男のところに立ち止まりそいつを見下す。
「ぐ、ぐく……で、デオルライドさま……も、もうしわけ、ありません……」
「謝っているけどさぁ、君達はデオに何かしたのかな?」
「う、ウル!彼らは被害者だ!!それに俺は何もされてない!だから、見逃して欲しい……」
「ふーん、まあ別に何かをするつもりはないよ。君達にはこの書簡を渡しに来ただけだからね?」
「書簡、ですか……?」
俺はイルに預かっている書簡を騎士達の前に落としてから言った。
「はい、これ。前国王殺害犯の捜索打ち切りの書簡だよ?」
「……そ、そんな……?」
その事に騎士は信じられないという顔をしていた。
そして一番近くにいた男は震える手で書簡を開き、内容を読んでは涙を流し始めたのだ。
「現国王陛下、イルレイン陛下から直々の書簡だからね。君達は今すぐに国にかえるといい。あとそれからひとつ頼みたいんだけどさ、王宮にいるダンという男にこの紙を渡して貰えるかな?」
俺は真っ白な紙を取り出して、魔力を流し文字を念写する。
そこにはデオについての事と、男を探して欲しい事、イルには絶対に言わないで欲しい事を書き記しておいた。
紙を受け取った騎士は、唸りながらも何とか声を発したのだ。
「……しかし我々は、デオルライド様に……なんという事を……」
「いいかい、今日のことは絶対に誰にも言ったらダメだよ?もし誰かに話でもしたら、俺は君達全員を1人づつ殺しに行かないといけなくなっちゃうからさ……!」
ニタリと笑う俺の顔を見た騎士はゴクリと喉を鳴らしていた。
脅しはこれぐらいで大丈夫かな。
でもしっかり釘は刺しておかないと、だってこの騎士達の中にデオの事を好きだと言う男が何人かいる気がするんだよね、俺の感だけど……。
「わかってると思うけど、君たちはもう二度とデオの前には現れたら駄目だよ。破ったら、わかってるよね……?」
そして俺は騎士達をその場に放置して、デオを抱えたままゆっくりと町に向けて歩き出した。
もちろん落ちているデオの服は回収して、着てもらった。
服を着ていてもこんな色っぽい姿のデオを人に晒したくなかったのに、転移が使えないのがとても不便すぎる。
それにもっと強くならなくちゃね……と、さらに自分を鍛えるための方法を考え始めていたのだった。
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