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二章
85、弱点
しおりを挟む目を開けるとそこはいつもと変わらない天井で、俺は少しホッとしてしまう。
「デオも起きたかな?」
「ウル……っん!」
顔を上げるとそこにはウルがいて、そう言えば繋がったまま寝ていたのだという事を思い出す。
「このまま、少しだけしてもいい?」
「……ウル?」
少し弱々しく言うウルを見て、もしかして最後にガリアが叫んだ名前が原因なのだろうかと、あの名前は何なのか気になってしまう。
「してもいいけど、その後にちゃんと色々説明してくれるんだよな?」
「デオが気になる事は全て教えてあげるよ?俺はデオに隠し事はしたくないからね」
「なら、ウルの気がすむまで付き合ってやる」
そう言ってウルは俺を優しく抱いた。
それはいつもみたいにがっつくようなものではなくて、ただ何かを求めるだけのものだった。
「ねえ、デオは俺から離れていかないでね」
「何度も言ってるだろ、俺はずっとウルといるから」
そして優しく抱かれた後、俺はウルに抱きしめられて横になっていた。
そして何度も何度もしつこいぐらい、ウルは俺にキスを落とす。
「ありがとう、デオ。こんな弱った姿、デオ以外には見せられないね……でも、もう大丈夫だから」
「本当に?」
「もちろん本当だよ。それにさっきのはさ、俺の本名を呼ばれて少し動揺してしまったのが原因なんだよね」
「やっぱり、あの名前はウルの事だったんだな」
確かガリアは『ウルランディス』と呼んでいたはずだ。でも本名を呼ばれるだけであんなにも取り乱すなんて、この名前には何かあるのだろうか?
「言って無かったけど、俺達上位種にとって本名というのは枷になるんだ。その名を知られていると名前を使った契約で無理矢理縛られたり、さっきみたいに名前を呼ぶ事で直接攻撃を受けたりするんだよ」
「え……ウルは攻撃されていたのか?」
「うん、あれは中々の精神攻撃だったよ……。その内容はさ、過去の自分が故郷を追い出される前に色んな人に恨まれながら、その名を呼ばれてる姿だったんだよね」
成る程、それでウルは後退っていたのか……。
それはウルにとってトラウマのような物なのだろう。だからあまり詮索したくはないし、ウルが教えてくれるまで俺は待ちたかった。
そう思って俺はウルを強く抱きしめると、何故か逆に優しく背中を撫でられてしまった。
「でも、もう大丈夫だから安心して? デオに慰めてもらったから元気になったよ」
「本当か?」
「ふふ、本当だよ。でも心配なら、デオから俺にキスしてくれるかな?してくれたら、俺はもっと元気になれるんだけとな~」
「……むぅ……し、仕方ないな……」
俺は少し顔を赤くして恥ずかしがりながら、ウルの唇に俺の唇を押し当てた。
「そんなんじゃ、足りないよ?」
「んんっ!」
そう言ってウルは俺の口を無理矢理開くと、舌を絡め取った。
そして暫く深い口付を交わしたのだ。
「うん。これで完全復活したよ!デオのおかげだね~」
「全く、ウルのバカ……」
俺は恥ずかしくて顔を赤くしながら、そう呟いていた。
でもウルを元気にしてあげられた事は嬉しかった。
「俺はバカでいいよ?こんな可愛いデオが沢山見れるならね」
「も、もう可愛いって言うな!」
「ふふ、そう言われるだけでゾクゾクしちゃうもんね?」
「誰のせいだよ……全く。今はそんなことより本名の事だ」
これ以上揶揄われる前にと、俺は話を戻す。
すると、ウルは少し深刻な顔をして言った。
「本名の事ね……実はあの男に俺の本名がバレているということは、弱点がバレてるって事と同じなんだよね」
「それって、凄くやばい事なんじゃないのか?」
「そうなんだけど……それ以前に、奴が本名を知っている意味がわからない。あの名前を知っているのは今は3人しか居ないはずだからね」
「3人……?」
名前を教えているということは、相手に弱点を曝け出す事と同じ筈だ。つまりその3人はウルが絶対的に信頼をしている人達と言うことだろう。
「でもその3人が、俺の名前を誰かに漏らすとは思えないんだよね。だとすればガリアは同じ故郷の人物とか?でも俺はあんな男を見た事がないんだよね~」
「……ウルが見覚ないなら仕方ない。それに今はどれだけ考えても情報が少な過ぎる」
「そうだね。それにガリアを見つけるまでは当分会う事は無いだろうし……」
「そうだ、それなんたけど……もしかして俺はもう悪夢を見なくてすむってことなのか?」
そういえば夢の中で、ウルはもうこの夢は作れないみたいな事を言っていた気がするのだ。
「いや、俺は魔法陣に細工はしてきたけど完璧に壊した訳じゃないから……アレはハッタリみたいなものだったんだよ」
「そ、そんな……」
「それでも、一月か二月は猶予があるはずだから、その間に本格的にガリアを探し出そう」
「わかった。ウルが作ってくれた時間だから、俺も頑張る」
不安は残っているけどウルのおかげで猶予ができたのだ。この時間を大事に使っていかないと。
「でも、これからは寝不足に悩まされなくなるんだから、いっぱいエッチな事しようね?」
「何言ってるんだ、もう時間はないんだからそんな事ばかりしてられないんだぞ?」
「でも、デオはしてあげないと我慢できなくなって他の誰かとしちゃうかもしれないでしょ?」
「そんなことはない!俺はウルとしかしたくない」
もう他の誰かとするんなんて、俺は考えたくもなかった。
でも開発されたこの体が我慢できるのかと言われたらよくわからなくて、少し不安になってしまう。
「それならさ、エッチがしたくなったらデオから誘ってくれないかな?」
「え?」
「出来ないなら、俺は外でデオの事沢山可愛いって言っちゃうよ?」
「わ、わかった……わかったから可愛いって絶対に言うなよ?」
俺に上手くウルを誘う事なんて出来るのかわからないけど、頑張ってみよう。
そう意気込んで、俺は後一つ気になっていた事を聞くことにした。
「そういえば夢の中で、ガリアが俺の精液を被って魔力を得たと言っていたのは、何だったんだ?」
「ああ、あれはね。誓約している者同士は粘液を通して魔力をやりとりできるんだよ」
「粘液……?」
「互いの魔力を与え合う事でさらに長生き出来るとも言われているんだ」
なる程、ただの人が誓約すると少し長生きできるようになると言うのは、そこから来ているのだろう。
「じゃあ、今の俺はガリアと沢山すれば長生きできるって事?」
「簡単に言えばそうなるけど……俺はガリアとはして欲しくないよ?だからガリアとの誓約を早く解除して、デオに俺のを沢山注いであげたいな~」
「その言い方やめろ……恥ずかしい」
でもそんな日が早く来たらいいのに、なんて俺は思ってしまったのだ。
「さあ、もう疑問は全部なくなったかな?」
「今のところは……」
「じゃあ、今度こそちゃんと寝ようか。起きたらここを出る準備をしないといけないからね」
「ここを出る?」
「ああ、あの男を探すために拠点を変える事にするんだよ。詳しい事は起きた後で……」
そう言ってウルに頭を撫でられた俺は、気がつけば深い深い本当の眠りへと落ちていたのだった。
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