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二章
116、俺の恋人は?
しおりを挟む俺は突然現れたゼントに驚いていた。
それはゼントがガリアの姿をしていたからじゃない。ゼントがこの夢の中に何をしに来たのか、本気でわからなかったからだ。
だから気になった俺は、ついゼントに聞いてしまったのだ。
「……どうしてここに?」
「どうしてじゃないですよ!こっちはデオさんを助けるのに皆必死だったんですからねー」
「助ける……?」
俺は自分の意思でこの夢に居る筈なのに、どうして助けてもらう必要があるのだろうか?
本気でそう思っている俺に、ゼントは言うのだ。
「そうですよ、特にウルさんなんてずっと必死にデオさんの為に……」
「ゼント、待ってくれ!なんか凄く気になった名前が……」
何故か『ウル』という名前を聞いた瞬間、ゼントの話を遮ってしまう程俺の体に衝撃が走った。
でもよく考えると俺は『ウル』なんて人物は知らないし、聞いたことも無い。
それなのに脳裏では何かがチリチリと燻るように、その名前の存在が気になって仕方がないと訴えてくるのだ。
だから俺は、本能のままにゼントに尋ねていた。
「……そのウルっていうのは、一体誰なんだ?」
そう伝えた瞬間、ゼントはあり得ないほど目を見開いた。
まさかそんなにも驚かれると思っていなくて、もしかして俺がおかしいのかと首を傾げようとした。
そのタイミングで、俺はゼントに肩を掴まれたのだ。
「で、デオさん……まさかウルさんが誰なのかって俺に聞いてるんじゃないですよね!?」
「いや、そうなんだが……もしかして俺が聞くのは変だったか?」
どうやらゼントは、俺がその男を知らない事にとても焦っているように見えた。
だけど俺はその人の名前を聞いても、全く姿が思い浮かばない。
そんな俺を見たゼントは、何故か嘆き始めてしまったのだ。
「あ~、もう。こんな事ってないですよ~!!」
「ぜ、ゼント……大丈夫か?」
「大丈夫じゃないですよ~!だけど俺はこれでも冷静なつもりですから、一応確認させて下さい。……デオさんの恋人は誰ですか!?」
「…………いや、何言ってるんだ。お前だって知ってるだろ?」
「だから、それは誰なんです?」
俺はその質問に疑問を感じながらも、当たり前のように答える。
「ガリアだよ」
「はい、違いますー!」
「いや、そんなわけないだろ」
「何言ってるんですか、デオさんの恋人はウルさんじゃないですか~!?」
「だからその、ウルって誰なんだ……?」
「さっきも言ったじゃないですか、デオさんの本当の恋人ですよー!」
「は?何でそいつが俺の恋人なんだよ?」
俺にはゼントがどうしてそんな事を言うのかわからなかった。
だって俺が好きなのはガリアだと知っている筈なのに、ゼントは俺の恋人がウルだと言うのだ。
だから本当ならすぐにそれを否定しないといけないのに、何故か俺は否定する事ができなくて首を傾げてしまう。
だけど何度考えても知らない人が恋人はありえないし、やはりゼントの記憶がおかしいとしか……?
そう思ってゼントを見ると、何故か深いため息をついていた。
「はぁ~、もうこれはデオさんが何かをされたという事で間違いなさそうですねー。それなら、この夢の中で一体何があったのか俺に教えて下さい!」
「夢の中で?」
「そうですよー、デオさんはもう2週間ぐらい夢の中にいるはずです。その間にガリアって奴に一体何されて、記憶がおかしくなっちゃったんですか?」
そう言われると、確かにここに来て2週間ぐらい経っていた気がする。
最初の頃の記憶は曖昧だけど、ここでは殆どエッチな事をしていただけなのでゼントに話すのは少し恥ずかしかった。
だから言いづらくてモジモジしてしまった俺は、つい視線をそらしてしまう。
「あー、今のでエッチな事を沢山していたのはわかりましたから、俺は気にしないんでその細かい内容を教えて下さいよ」
「え!?こ、細かい内容……えっと、鈴をつけられたり、腸まで伸びる長い棒に貫かれたり……そういえば最近はシチュエーションに拘っていたから、俺の姿を女性や子供の姿に変えてエッチとかもしたかな……」
自分で話していて、不思議な事を言っているのはわかる。だけどここは夢の世界だから何でもありなのか、あの時の俺は本当に女性の体になっていたのだ。
そのせいでガリアに想像妊娠と想像出産をさせられてとても大変だったけど、何とも言えない幸せがあったのも事実だった。
しかも今度は獣姦してみたいなんて言うのだから、ガリアはやはり変態だよな……。
なんてフフっと笑ってしまい、ゼントに凄い変な顔をされてしまったのだ。
「ああ、もう絶対におかしいですねー。だってそんなプレイ、普段のデオさんなら許可しないと思うんですけど?それにエッチな話を嬉しそうに話す姿なんて、デオさんが俺に見せてくれる訳がないですから!こんなデオさんは解釈違いですし、デオさん自身もおかしいと思わないんですか?」
「……そう言われたら、そんな気もする」
確かに以前の俺なら絶対に拒否している筈だし、エッチな話を嬉しそうに話す事もなかったはずだ。
でもそれはガリアの話だから……つい嬉しく語ってしまったのだろうか?
「もしかしてガリアとずっといたから、俺が変わったとか……?」
「ああ、もうこれ絶対に洗脳入ってますねー。なのでデオさん、お願いだから目を覚まして下さい!」
肩に手を置いたままのゼントは、そのまま俺を前後に激しく揺すり始めた。
「ちょ、ちょっとゼント、肩を揺らすな!」
「揺らせばウルさんの事思い出すかもしれないじゃないですか!それに俺はウルさんが来る前にデオさんを直したいんです。でもどうしたらいいのか全くわからないですからー!?」
「いや、だからウルって誰なんだよ?」
「だからデオさんの恋人ですってばー!ほら思い出して下さい。俺と初めて会ったその日の夜に、ウルさんとデオさんは俺の前でラブラブエッチを見せてくれたじゃないですか!?」
「……え?待った、待ってくれっ!!!」
突然叫んだ俺にビックリしたのか、ゼントはようやく肩を揺するのを止めてくれたのだ。
「何ですか~、あ!もしかしてウルさんの事、思い出しましたか?」
「いや、思い出してない……でも今の話はおかしいだろ。だって俺の記憶だとゼントの前でエッチな事をした時、俺の相手をしていたのはガリアだった筈、なんだけど……」
そうゼントに言ってから、俺は急に不安になってしまった。
だって、何かがおかしい。
俺の中ではこれが正しい記憶の筈なのに、どうして俺はこんなにも違和感を感じているんだ……?
その理由がわからなくて、俺は自分の記憶が少しずつ信じられなくなっていた。
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