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二章
118、特訓の成果?
しおりを挟むガリアが現れた瞬間、俺の頭はぼーっと何も考えられなくなっていた。
そのせいなのかガリアに見つめられると、ただ愛おしいとしか思えなくて……気がつけば俺はガリアの方へ歩き出そうとしてしまったのだ。
しかしそんな俺の前へ、ゼントが立ち塞がった。
「デオさん、その男の言葉を聞いちゃダメです!!ソイツの言ってる事は嘘ですから~」
その声にハッとした俺は、ゆっくりゼントを見る。
「ぜ、ゼント。ごめん、俺頭がボーっとしてた」
「いえ、声が届くならまだ大丈夫ですねー。本当、完全におかしくなる前にここへ来れたのは良かったです」
確かにゼントの言う通り、今の俺は少しおかしい。
だって先程と同じようにガリアを見ても、もう愛おしいとは思えなくて……俺の感情はどうなっているのかとただ混乱してしまう。
「それにしても、なんでガリアって男は二人もいるんですかね~。俺が乗り移ったガリアはガリアじゃ無いとか?」
今もガリアの姿をしているゼントは、夢の中にガリアのコピーが沢山いるなんて知らない。
だからその事を伝えようと思ったのに、それよりも早くガリアが笑い出したのだ。
「ははは!!全く、君は邪魔な事ばかりしてくれるね。そんな君へ特別に教えてあげようか、君が上手いこと入ったのは俺のコピーだよ」
「コピー?」
「そうだ。今日はたまたまその一体にデオを見てもらう日だったのだけど……どうやらセキュリティとしては甘かったようだね。それにしても君のその姿、とても不愉快だから本来の姿に戻ってもらえるかな?」
ガリアが指をパチンと鳴らすと、ゼントは元の姿に戻っていた。
「この方がいいね。でも正直その器を奪われたのは少し痛手だったけど、コピーはまだ5人もいるんだ。だから君に勝ち目はないし、ここで精神崩壊する前にデオを返してくれないか?」
「絶対に嫌です!俺はウルさんの為に引き下がるわけにはいきませんからー」
俺には、何故そこまでゼントが必死なのかわからない。
それでも今の俺は、何故かウルという人物に会わないといけない気がして、自然とその足をゼントの方へ向けてしまったのだ。
そんな俺に気がついたガリアは、首を傾げて不思議そうに言った。
「デオ、何故そちらに行くのかな?」
「いや、それは……」
「本能的に俺の方が正しいって思ったからですよね、デオさん!」
「いや、そういうわけでは……」
「大丈夫です、俺が絶対にウルさんに合わせてあげますからー」
そう言うとゼントは俺をガリアに渡さないように、手を強く握ってくれたのだ。
しかしガリアがそれで納得するわけがなかった。
「成る程ね、わかったよ。そのハッキリしない態度からみて、デオは俺に救い出して欲しいという事だね?」
「そんなわけないです!デオさんはアンタみたいなのと一緒にいたくないだけですよー」
「全く、君の言葉は一々イライラするね。しかもデオに触れているのも気に入らない。少し痛めつけてあげないと気が済まないな」
そう言うとガリアは魔法陣を描き始めたのだ。
それなのに何故かゼントはそれを無視して、俺を見つめていた。
「いいですかデオさん。俺がどんなにヘナチョコでボコボコにされても、絶対にこの手を離さないで下さいね」
そう笑うゼントにそこまでする必要はないと言いたいのに、既に魔法陣から5人のコピーガリアが現れたのを見て俺は言葉を失った。
ゼントの力では、6対1どころか1対1でも勝てるわけがない。
「全員出揃ったね。ここからは数の暴力で君の心を折ってあげるよ!」
そう言って殺気を飛ばしたガリアに、ゼントが少し怯んだのがわかってしまった。
そんな状態でまともに戦えるのか心配していると、向こう側でガリアが俺に微笑んだのが見えた。
「デオ、少し待っていてくれるかな?俺の力で彼を屈服させてくるから……勿論その後は、俺たちがどれほど愛し合っているか彼に見せつけてあげようね。そうすれば彼も俺達を引き裂こうなんて思わない筈さ」
そう言って、ガリアはゼントに向けて魔法を放った。
ゼントは俺と手を繋いでいるせいで、それを避ける事もせずに魔法をまともにくらってしまう。
それなのにゼントは笑って耐えていた。
「全然、痛くないです!」
「ははは、君はデオを庇いながらいつまで耐えられるかな?」
そしてここから、ゼントへ一方的な攻撃が始まったのだ。
ゼントは何度殴られ魔法をくらっても何故か俺の手を離そうとしなくて、でもそのせいでゼントが攻撃を受けるなんて俺は許せなかった。
「ゼント俺はいいから手を離せ!」
「嫌です。だって俺は今度こそ役に立つんです……だから絶対に離れないで下さい!」
そう言って俺の前に立つゼントに、何故かガリアがため息をついたのだ。
「全く、弱い君はいつまで経ってもどうせ役に立たないのだから、早く諦めてしまえばいいのに」
「うるさいですね、俺は絶対に屈しませんよ!」
「……仕方がない、これは攻撃するより君の精神ごと壊してしまった方が早そうだ」
そう言ってガリアは何処かで見たことのある鈴を取り出した。
その瞬間、何故か俺はゼントにその鈴の音を聞かせてはいけないと思ってしまったのだ。
「それは駄目だ!」
「……デオさん?」
「ガリア、俺はすぐにそっちに行く。だからゼントにその鈴を使わないでくれ!」
「残念だけどそれは出来ないよ。だって俺は彼がこの世界に入り込んだ時点でコレを使うと決めていたのだからね」
「そんな……」
きっと俺にはガリアを説得する事はできない。
それならゼントを説得するしかないと、俺はゼントを見た。
「ゼント、俺の事はいいから逃げるんだ……」
「いや何言ってるんですか、俺は逃げませんよ?」
「でもこのままだとゼントの精神が壊されるかもしれないんだぞ!」
「俺、さっきも言いましたよね?どんなにボコボコにされても離れないで下さいって。それに俺はまだ、特訓した成果を披露できてませんから!」
「え……?」
「ようは、精神攻撃受ける前に終わらせればいいんですよ!」
そのゼントの強気な発言に、ガリアは突然笑い出したのだ。
「ははは!何を言い出すかと思えば、君は今から本気を出すとでも言うのかい?」
「その通りですよ!俺が特訓して唯一出来た事、それは受けた攻撃をパワーに変えて放つ超強い手刀なんですっ!!」
そう言って空中に手刀するゼントの攻撃は、ガリアに全く届かない。
それを見ていたガリアは、更に笑い出したのだ。
「はははは!!君は何をしているんだ。当たらなくては意味がないだろう?」
「いえ、これが正解なんですよ!」
次の瞬間、手刀を放った部分がピシッとひび割れ始めた。
しかもそれは少しずつ広がり穴となり、まるで何処かに繋がっているように見える。
そしてその光景に驚いたのは俺だけじゃなかった。
「なんだこれは!?」
「それは見てからのお楽しみですよ!ほら、デオさんもしっかり見ててくださいね~」
そう言うのと同時に、ひび割れた穴から手が現れたのだ。
そしてゆっくりと出てきた黒髪の人物に、俺は目を見開いてしまう。
「よいせっと。流石ゼントだよ、何でも切れる手刀は夢の狭間さえも切ってしまうんだね」
「ウルさん、遅くなってすみませんー」
「いや、充分だよ。よく頑張ってくれたねゼント。それから……」
赤い瞳が俺を捉え、とても優しく笑った。
「待たせたね、デオ。遅くなってごめんよ」
その姿を見たことある筈なのに、俺はその人物が誰なのか思い出せない。
だけど俺の目からは、何故か涙が溢れていた。
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