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二章
123、夢の終わり(ウル視点)
しおりを挟む『おお、ようやく繋がった!』
『お二人なら、やってくれると思ってましたよ』
通信魔法からは、既にダンとルーディアの声が聞こえていた。
だから俺は、少し離れたところから二人へと返事をしたのだ。
「二人とも、待たせて悪かったね。すでに解析は終わってるから、すぐに資料を送るよ」
『はい、よろしくお願いします!』
俺は解析データを送る為、すぐに魔法陣を描こうとした。
それなのに、俺の邪魔をするように突然光弾が飛んできたのだ。
「おっと、危ないなぁ。俺の邪魔をしないでくれるかな?」
それを避けながら、俺は光弾を飛ばしてきたガリアを見る。
ガリアは今起きている出来事に混乱しているのか、俺に向かって叫んでいた。
「一体お前は何をした!?何故夢の中で通信ができるというのだ!!」
「うーん、それは俺が天才だからじゃないかな?」
「なっ、ふざけた事を言うな!!」
ガリアは再び、怒りに任せ光弾を放つ。
俺はそれを避けながら今度こそ魔法陣を描き切ると、ガリアの魔力に関する解析結果を魔法文書を使って二人の前に提示した。
それを見たルーディアは、解析結果の細かさに感嘆の声をあげていた。
『まさかこれほど詳細に書いて頂いてるなんて、とても素晴らしいです。これならすぐに準備できそうですよ!』
『ウル、悪いがもう少し持ち堪えてくれ!』
そして二人は画面から離れ、最終調整に入ったようだった。
ここまできたら後は魔力を抽出し、腕輪の魔石へ書き込めるかどうかだ。
俺はその時間を稼ぐ為、ガリアともう少し遊ぶ必要がありそうだと思っていた。
───その時だった。
突然、俺の体から力が抜けたのだ。
膝から崩れ落ちた俺は、その原因がガリアにある事をすぐに理解した。
「これは、驚いた……君は俺に一体何をしたのかな?」
「はははは……流石にこれ以上、俺もコケにされたく無いからね。だからどれほど卑怯だと言われようが、俺はこの世界の力を全て使いお前のステータスを弄らせてもらった」
「ステータスを……?」
俺はどうにか動く指で、自分のステータスを確認して驚いた。
俺の全数値は最低ランクになり、しかも麻痺状態にされていたのだ。
「これでお前を簡単に捻り潰せるよ。そして俺はここでお前を葬り去り、必ずデオを取り戻してみせる!!」
そう叫ぶガリアは、先程の光弾とは違い真っ黒な弾をいくつも生み出していた。
その禍々しい魔力に、これは触れるだけでまずい物だと俺はすぐに理解した。
そしてそれに気がついたのはデオも一緒だったのだろう。
俺の耳へ、デオの荒げた声が聞こえてきたのだ。
「やめろ、ガリア!!その魔法は駄目だ!お願いだから、その人を壊さないでくれ!!」
その声は余りにも必死すぎて俺は自分の事よりも、デオがあそこから出てしまわないか心配で仕方がなかった。
「デオさんダメです。ウルさんは絶対ここを出るなって言ってましたから!」
「で、でも!このままだと……」
「大丈夫です。ウルさんを信じて下さい!」
どうやらゼントが、なんとかデオを引き止めているようだった。
その事にホッとしていると、前からガリアの笑い声が聞こえてきたのだ。
「はははは!!どうだこの美しい闇色、これは俺の最強魔法【闇夜の漆黒弾】だ。この魔法に触れた者は音も光もない世界へと閉じ込められ、確実に精神は壊れる」
そう説明されたところで、動けない俺はその魔法を避ける事はできない。
だけど何故だろう。今の俺はその魔法を見ても全く恐怖を感じていなかった。
だって俺は、ダンとルーディアなら間に合うと信じていたから。
「お前の余裕な顔が恐怖に歪み、少しずつおかしくなっていく様子を見るのが楽しみだよ!!」
そしてガリアは闇夜の漆黒弾を放った。
それは俺の方へと一直線に飛んできたのだ。
「ウル!!!」
「ウルさん!!」
その光景に二人が俺の名を叫んでいた。
それと同時に、画面の向こうからも大声が聞こえてきたのだ。
『ウル、出来ましたよ!!すぐに腕輪をデオルライド様に装着します』
『一応言っておくが、マジックアイテムが起動したらその効果で夢の世界は崩壊する。だから全員衝撃に備えろよ!』
『マジックアイテム【マジカルガーディアン】を起動します!!』
ルーディアが叫んだその瞬間、この世界に大きな亀裂が走った。
そして俺の目前まで来ていた漆黒弾も、綺麗に消え去てしまったのだ。
「何だ、これはどういう事だ!?」
その事に一番動揺していたのはガリアだった。
それもガリアの焦る姿は面白くて、俺は笑いを堪えられない。
「くくくっ、いいねぇ……俺は君のそういう顔が見たかったんだよ。だから、そんな君にいい事を教えてあげるね。さっきデオに装着した【マジカルガーディアン】の効果で、君とセルロウの魔力は二度とデオに干渉できないようにさせてもらったよ。だから君はもう、デオへ夢を見せる事も出来ないわけだ」
「馬鹿な!?そんな事ありえるはずがない!俺とデオは誓約で魔力が繋がっているというのに、お前は何を言ってるんだ!?」
「そう思うなら何度でも試してみるといい。これは誓約に関係なく、君の魔力全てを遮断するのだからね」
「……俺は、そんな事は絶対に信じない」
そう言いながらガリアは俺を睨みつけていた。
しかもそんな俺達を裂くように、偶然目の前に亀裂が走ったのだ。
俺は歪むガリアを見て、この世界も終わりが近い事を悟っていた。
だから俺は、ガリアが消える前に言ったのだ。
「次に会うときは、必ず俺が君を殺してあげる。だから現実で君の方から会いに来てくれるのを待ってるよ」
ニヤリと笑った俺を見て、何故かガリアは狂ったように笑い出したのだ。
「あははははははははははっ!!!」
「何がおかしいのかな?それとも本当に頭がおかしくなったのかい?」
「はははははっ!俺は正気だよ。ただ何も知らずに勝ち誇っているお前がおかしくてな。きっとお前は今のデオの状態を知らないからそんな事が言えるのだ!」
「デオの状態……?」
「ああ、教えてやるよ!今のデオは───」
その瞬間、この世界はガラスが割れる音とともに完全に崩れ落ちた。
そのせいで話はまだ途中だというのに、目の前のガリアも消えてしまったのだ。
「デオが一体どうしたというのさ!!?」
そう叫びながら、俺は飛び起きていた。
「あれ……ここは?」
「おう、起きたかウル。ここは夢じゃなくて、現実の研究室だぜ!」
確かにダンの言う通り、ここは研究室だった。
そして俺は、ようやく夢から覚めた事をゆっくり実感していた。
そんな俺を見てルーディアは少し心配そうに話しかけてきたのだ。
「おはようございます。何かうなされていましたが……大丈夫ですか?」
「ああ、うなされて……」
どうやら叫んだ内容を俺は口に出していなかったようだ。
それにしても、ガリアが最後に言ってた事は一体……?
「って、そうだ!!デオ、デオはどうなったんだい!?」
「ウルが元気なのはわかりましたから、少し落ち着いて下さい!それにデオルライド様ならウルの横で、すでに起き上がっているじゃないですか?」
「え……?」
俺は急いでデオの姿を確認した。
確かにデオは俺の横で、不思議そうな顔をして自分の両手を見つめていた。
「デオ!」
名前を呼ぶと、その青い瞳が俺を見た。
「う、ウル……?」
ここは現実なのに、デオが動いて俺の名を呼んでくれる。
それだけの事が嬉しくて、俺はデオをもう二度と離したくないと強く強く抱きしめたのだった。
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