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二章
147、新オーナー
しおりを挟む全く怒らないサースを見て、ウルは少し申し訳なさそうに謝っていた。
「ごめんね、サース。思ったより盛り上がっちゃってさ~」
「いえいえ別に構いませんよ。それよりも私の為にこれ程の精液を準備して頂けるなんて……とても感激致しました。私は期待に応える為にすぐ付与をおこないますので、少しお待ちくださいませ」
楽しそうにバケツを持ったサースは、作業台の上で付与を始めたのだ。
少し気になってその様子を見ていると、サースは俺の精液の中にブレスレットごと手を突っ込んでいた。
その光景に、俺はコレをイルに渡すのかと少し罪悪感が芽生えてしまったのだ。
それなのに、一緒にそれを見ていたウルは羨ましそうに言った。
「良いなぁ~、デオの精液まみれのアクセサリー」
「な、何言ってるんだ?良いわけがないだろ」
「そんな事ないよ。アレをイルにあげるなんて、羨ましくて嫉妬しちゃう……だから俺の為にもう一個作ってくれないかな?」
正直、アレをもう一度やるのかと思うと少し怖い。
だけどそんなふうにお願いされたら俺は断れるわけがなくて、恥ずかしいのを誤魔化すように目を逸らしながら言った。
「わかった。ウルの誕生日にならしてもいい……」
「……あー、ごめん。俺はもう誕生日を覚えてないから、いつなのかわからないんだよね」
「え?」
驚いてその顔を見ると、ウルは特に何の感情もない笑顔を浮かべていた。
もしかしたらウルは誕生日を忘れてからもう何年、何十年と過ごしてきたのかもしれない。
それなら俺はどうにかしてウルの誕生日を祝ってやりたいと思ってしまったのだ。
「……それでも俺はウルを祝いたい。だからウルが本当の誕生日じゃなくてもいいなら、今度二人だけで誕生日会をしないか?」
「誕生日でもないのに……? まあ、俺はデオが祝ってくれるならなんでもいいよ。それにこうして約束してもらったし、今から何の付与にするか決めるの楽しみだなぁ~」
そしてウルが凄く嬉しそうに考え始めた頃、どうやら作業が終わったのかサースがこちらに戻って来たのだ。
「すみません、お待たせしました。こちらがご要望通り付与を施したブレスレットでございます」
「すみません、ありがとうございます」
俺はサースからブレスレットと受け取ると、内側に刻まれた魔導回路を見ていた。
その細分化された魔力導線の本数と細かさは異常で、こんなの普通の人では線を引くことすらできないだろう。
「これは凄い……」
「いえいえ、これは禁呪のおかげですから」
「そうかもしれませんが、それを使いこなす事自体普通は無理ですよ」
「はは、そう言って貰えたら光栄です」
褒められて凄く嬉しそうなサースに、俺は感謝を込めて大目にお代金を払いたいと思っていた。
「それでは、お代金は……」
「いえ、頂きませんよ?」
「え、でも!」
「だって、今日からこのお店はウル様のものですから」
あの時よく話を全く聞いてなかった俺は、どういう事なのかとウルを見てしまう。
「あれ、もしかしてデオ……話をあまり聞いてなかったのかな?」
「仕方がないだろ、あの状態でちゃんと聞ける方がおかしい」
「それもそうか……じゃあそれなら、改めて俺とサースについて説明してあげるね」
そう言うとウルはサースと主従契約を結ぶ予定がある事と、このお店の実権を手にした事を教えてくれたのだ。
そして、ついでに思い出したかのようにウルは言った。
「そういえば言うの忘れてたけど、このお店さっき半壊させちゃったんだよね」
「は、半壊ってどう言う事だ!?」
「……え?」
その事を知らなかったのか、流石のサースも驚いていた。
「デオの所へ早く行かないとって焦ってね、結界とか無理矢理壊してきたんだよ」
「もしかして、俺のせいでお店が……?」
ウルが来てくれた事は嬉しいけど、流石にお店を半壊するなんてサースが怒ってもおかしくない。
そう思ってサースを見たのにその顔は相変わらず笑顔で、俺の方が驚いてしまったのだ。
「……成る程、どうやってこの部屋まで辿り着いたのかと思いましたが……あの結界を壊したのですね、流石マスターです。それに先程から、下の階が少し騒がしいと思っていたのですよ」
「騒がせちゃってごめんね、後ですぐに直すから安心していいよ。それに俺の店になるなら、ついでに俺好みに変えようかと思ってるんだけど、それはいいのかな?」
「リフォームは構いませんが……もしかしてマスターは、再生魔法を使えるのですか?」
確か再生魔法は上級魔法の一つだ。
流石のウルでも使う事が出来るのだろうかと思って見ていると、ウルはアッサリ答えた。
「うん、使えるよ。でも先に俺はデオを綺麗にしてあげたいからさ、それが終わったらお店を戻してあげるから少し待っててね」
「いや、そこは先に店を直してあげた方がいいんじゃないのか……?」
「いえいえ、大丈夫です。どうかパートナー様を優先にして下さい。それに私はいい事を思い付きました」
手をポンっと叩くとサースは楽しそうに言った。
「せっかくですので、お店を再生したあと新オーナー誕生のお披露目会をする事にしましょう!勿論、パートナー様もご一緒にどうぞ」
「は?」
そして俺がウルに綺麗にしてもらってる裏で、サースは俺達の服を準備してくれたのだ。
用意されたその服はウルが黒い背広なのに対して、俺は白い背広だった。
そのせいで俺の方が目立つ気がして嫌なのに、さらにウルが俺の腰に手を回すせいで恥ずかしくて仕方がない。
そしてサースには今から式でも上げそうですね、なんて揶揄われてしまったのだ。
ようやく準備ができた俺達は、階段の上でサースによって集めれた従業員を見下ろしていた。
10人ぐらいの従業員達はまだ混乱しているのか、皆不安そうな顔をしているようだった。
そんな従業員へと、サースは笑顔で言ったのだ。
「突然ですが、本日よりこちらにいるウル様にオーナーが変わります。そしてウル様の意向でこのお店は改築されますので、よろしくお願いしますね」
ウルはサースに促されると、階段を降りながら魔法陣を展開した。
そしてさらに魔法を多重で発動すると、小さな魔法陣が店内の至る所に浮かび上がり次々とお店の形を変えていく。
その様子を従業員達はポカンと見ていた。
そして全ての再生が終わると、ウルは全員へ挨拶しのだ。
「今日からこのお店は俺の物になるので、皆よろしくね」
そして完全に階段を降りたウルは、サースと共に従業員達へ挨拶をしていた。
俺は横にいるだけで話しには参加していないけど、先程の光景を見た従業員達がウルを尊敬の眼差しで見ているのはわかった。
しかもその中にはウルに言い寄っていた女性もいて、彼女は頬を染めながらウルに熱視線を送っていたのだ。
俺はそれだけの事なのにまた嫉妬してしまい、そんな自分が嫌で俯いてしまう。
しかしウルはそんな俺にすぐ気がついたのか、頭をグッと引き寄せると突然俺の額にキスを落としたのだ。
「え、ウル……何して……?」
「皆には言っておくけど、俺の横にいる彼は俺の大事なパートナーなんだ。だから変な目で見た時点で半殺しにしちゃうかもだから、気をつけてね?」
突然殺気を放ったウルに従業員達は顔を真っ青にすると、全員コクコクと頷いていた。
「うん、皆がわかってくれて嬉しいよ。因みに俺達の仲は死んでもに引き裂けないから、それも覚えておいてね」
ウルのその言葉は完全にあの女性に向けて言っていた。その事にすぐ気がついた女性は恐怖で体を震わせ、顔を真っ白にしたのだ。
そして俺は、ウルがハッキリと言ってくれた事が凄く嬉しかった。
だから今すぐにウルとしたいなんて、俺は思ってしまったのだ。
だけどさっきアレ程ヤったのにそんな事言えるわけがないと、俺は首を振り我慢する事にした。
しかし俺のその感情はウルに筒抜けだったのか城に戻り部屋に入った瞬間、俺はベッドへと押し倒されていたのだった。
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