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三章までの間話
156、契約と付与②(ウル視点)
しおりを挟む俺の知ってる妖精には種類が2つあった。
自然界で数百年魔力を蓄えた無機物から稀に生まれる者。
そして人が進化して妖精となった者。
そのどちらも妖精には違いないが、何故か見た目は魔力に比例すると言われている。
つまり目の前にいるサースは体が妖精化してきている……という事なのかもしれない。
「一体、何故私は子供の姿に?確かに初めて進化したときも多少若返りましたが、今回は骨格まで変わっていますよね?」
「うーん。これは俺の臆測なんだけど、今のサースは妖精に近づいたのかも」
「妖精にですか?」
「うん。これは俺が昔読んだ本に書いてあったんだけど、妖精は力の強さが見た目と一致するらしい。だから今の君は妖精の中では子供ぐらいの強さって事なんじゃないかなぁ?」
おそらく妖精化が上手くいってなかったサースの魂は、主従契約を結び直した事でさらに妖精と混ざり合い、その姿が妖精へと近づいたのではないだろうか?
もしかするとこのまま魂の癒着が進行すれば、サースの見た目はどんどん妖精に変わっていくのかもしれない。
「つまり今の私は妖精の中では最弱、ということでしょうか……?」
「うーん、それはどうだろね。それにしても、サースはせっかく美少年になったのに何か不満でもあるのかい?」
「不満といいますか、なんだか別の人間に乗り移ったようで違和感がありまして……」
「それは今だけで、すぐに慣れるよ。それにさ、羽根が生えなかっただけましじゃないかな?」
「羽根は確かに……」
サースはその姿を想像したのか、苦笑いをした。
「ほら、まだよかったでしょ?」
「マスターの言う通りですね。それによく考えると悪いことばかりでもありませんし、前向きに捉えたいと思います」
「うん、ポジティブなのはいい事だね」
「ですが、一つだけ問題がありまして……この姿だと従業員に私だとわかってもらえない気がするのです」
「それぐらいなら俺がフォローしてあげるから大丈夫だよ」
「マスター……ありがとうございます」
頭を下げたサースは、俺の目にとても小さく見えていた。
なんだか心配になった俺は両手で輪を作りサースを覗き見る。そこには青く燃え盛る魂が見えていた。
……魂はサースのままだし不安定でもないね。
その事に安心した俺は、何事もなかったかのようにサースへと話しかけた。
「サース、俺はマスターとして当たり前の事をしただけだからさ、感謝なんてしなくていいよ。それよりも主従契約も終わったことだし、アクセサリーに付与をお願いしてもいいかな?」
「はい、お任せください。完全に力を取り戻した私の技術と禁術が混ざり合わされば、どんな付与でもできる気がします!」
やる気満々なサースを見て俺は何に付与しようか迷っていた。
禁呪を使った付与なんてなかなか試せるものじゃない。そう思って自分の身につけているアクセサリーを確認する。
俺が付けているのは指輪とバングルにベルト、それからピアスぐらいだった。そのどれもが既に何かしらの効果が付与されている。
だから尚更どうしようか悩んでいると、俺は今日のことをふと思い出したのだ。
……そういえばこの店で、ピアスを落としたんだっけ?
それならばと、俺はそのピアスを外しサースに差し出す。サースはそれを大事そうに受け取ると、何も言わない俺を不審に思ったのか口を開いたのだ。
「えーっと、このピアスに付与をご希望ですか?」
「……実はそのピアス、俺が本来の姿に戻らないよう一部の魔力を封じるために付けてるんだ。でも今日さ、この店に発動している魔法干渉のせいでその効果が少し落ちたみたいんなんだよね」
「えっ!?そ、それは大変申し訳ありません……」
本来ならこのピアスを外さないと本当の姿を晒す事なんて出来ない筈だった。
それなのにデオとエッチをしていたとき、一部とはいえ簡単に元の姿に戻る事ができてしまったのだ。
つまりこのピアスの効果は、今とても弱まっていると言う事だろう。
どうせ直すのなら、魔力封じを新しく付与してもらった方が早い。
「別にその事を怒ってるわけじゃないよ。せっかく腕がいい付与師に出会えたんだから、新しく魔力封じをしてもらおうと思ってるんだけど……お願いできるかな?」
「それは構いませんが……魔力封じを付与するのであれば、一度マスターの全魔力がどれ程あるのかを確認させてもらえますか?そしてその何割の力を封じ込めるのか、詳しく教えて頂かなくてはなりません」
「全魔力って事は、俺は本来の姿に戻った方がいいのかな?」
「その通りです。私は鑑定魔法が使えないため測定器を使うのですが、本来の姿になって頂いた方が早く終わると思います」
「そっかぁ……」
本当ならあの姿を人に晒すのなんて嫌だった。
だけど今の俺はデオのもとへと早く帰りたい気持ちが強すぎて、戸惑う時間すら惜しいと思ってしまったのだ。
「まあ、サースなら大丈夫かな……。それとこの部屋だと俺には狭いかもね」
「狭い、ですか……。それでしたらこの建物には屋上もありますので、そこでお願いできますか?」
「外か……うん、そこなら大丈夫かな」
今なら夜も遅いし、誰にも見られる心配はないよね……?
そう思いサースと屋上に来た俺は、早く測定を済ませてしまいたくてすぐに本来の姿へと戻っていた。
俺の姿を見たサースは流石職人というべきなのか、この姿に怖がる事はなかった。
しかも測定器を使い魔力を測定していたサースは、何故か俺に感嘆の声をあげたのだ。
「流石マスターです。素晴らしい体と、膨大な魔力をお持ちでいらっしゃいますね。それはもう芸術的で言葉では表せないです!」
「うーん、そうかな……」
「しかし1つだけ気になる事があるのですが、マスターの魔力はなんだか少し濁ってるような?あっ、申し訳ありません。別にマスターの魔力が汚いとかそう言う事ではなくてですね……」
「サース。その事ならわかってるし、別に問題はないよ。だからその話はもう二度としないでもらえるかな」
サースの言う通り、悪魔に進化した俺の魔力が穢れているのは当たり前だ。
それなのにサースを睨んでしまったのは、どうしてだろう……?
「も、申し訳ございません……余計な事を口にしました。えっと……これで丁度測定も終わりましたので、マスターは元の姿に戻っていただいて構いません。私は先に付与の準備をするため部屋に戻りますが、マスターはゆっくり来てくださっても……」
「ううん、大丈夫。人型になったらすぐにさっきの部屋に戻るよ」
俺は軽く頭を下げたサースが階段を降りて行くのを確認してため息をつく。
「はぁ……。こんな姿じゃ、俺はもう人とは呼べないのにね……」
鋭く光る爪に人間ならば存在しない鱗や角、その姿をしっかり鏡で見た事はないけど、それはきっと醜いのだろう。
俺はそれがわかっているのに、何故デオに本当の姿を見せると約束してしまったのだろう。
確かにデオは俺がどんな姿をしていても絶対に逃げないと言ってくれた。でも流石にこの姿を見たらデオだって……。
その事を考えるだけで、俺の胸は張り裂けそうだった。
それなのにどうして───。
この姿でデオを犯したいという願望だけは、俺の中から消えてくれないのだろう。
だけど今は……俺が耐えられるその時まで、この醜い姿をデオに晒すわけにはいかない。
その為に、サースにはしっかり付与をしてもらわないとね……。
そう思いながら人型に戻った俺は、ゆっくりと階段を下りたのだ。
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