巻き込まれ体質の俺が一番守りたかったのは君で、君が守りたかったのは……

悠木 源基

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第2章 前世の記憶と現在

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 前世はこの世界とは比べられないくらい、文化が進んでいた。
 
 誰も攻撃魔力なんて持ち合わせていなかったが、科学の力でどの国でも、他国の一つや二つぶっ飛ばすくらいの爆弾を持っていた。
 そして癒し魔力で手足を生やしてもらえなくても、高性能のモデルスーツを着れば、例え四肢のどこかを無くしても、日常生活は難なく過ごせた。
 
 まあ、生やしてもらえるのなら、そっちの方がいいに決まっているが。
 
 高度な文化と豊かな生活に恵まれていたのに、何故か人々は絶えず不安、恐怖に苛まれ、自らせいを絶つ者が多かった。
 
 
 まあ、俺が死んだのは、自殺なんかじゃなく、コンビニ強盗に襲われたせいだが。
 
 
 俺の国は他国と比べ治安が良かったから、当然一般庶民は防衛の為の装備なんかしていなかった。まあ、俺の場合は運が悪かったとしか言いようがない。
 
 しかし、あの当時の俺は、中間子として姉や弟に振り回され、両親に上手く使われるお人好しだったので、人生に嫌気がさしていたのも事実。
 だから俺は、それほど生きることには執着していなかったんだ。
 
 ただ、最後に目にした、幼馴染みの泣き顔だけは心残りだが・・・・
 
 俺は大学生だった二十歳の誕生日に、バイト先のコンビニで強盗に襲われ、三ヶ月後に意識が戻らないまま人生を終えたのだ。
 
 
 ✽✽✽
 
 
 そして、この世界に転生したのだ。代々軍人の家柄のジェイド伯爵家の次男として。
 
 上に兄と姉、下に弟と妹がいるまたしても中間子だった。しかも、上下ともに数が増えていた! 
 
 十歳の時、末っ子の妹が生まれた朝に、突然俺は前世の記憶を思い出し、思わず、「ゲッ!!!」と叫び、周りの顰蹙を買った。
 
 前世を思い出した当時の俺は、中間子として、やはり面倒くさい立ち位置にいた。
 とはいえ、一応貴族の子供だったので、前世のように共働きの親に代わって飯を作ることも、姉に命令されて買い物に行かされる事も、ヒッキーな弟の相手をさせられる事もなかった。
 
 この世界では中間子として、周りの様子を伺う能力だけはそこそこあったので、まあ、要領よくとまではいかないが、今の俺はそれなりに日々をこなしている。
 
 俺ん、ジェイド伯爵家は、貴族社会での立ち位地は、前世でいう、中間管理職? 的なポジションだろう。
 軍人といっても執務系なので、戦争が起きても前線へは行かずに済む。
 
 我がジェイド伯爵家は、何故か代々魔力持ちがあまり出ない家系なので、この地味な役職に定着したんだろう。
 その代わりに、代々の方はそこそこいいし、真面目で堅物が多いらしい。祖父も、父も、兄貴もそうだ。
 
 
 ところがなんと現在の我が家は、その父親と兄貴以外は皆魔力持ちだ。これは今までになかった事態である。
 というのも俺の母親が、例の癒しの公爵家の出だったからである。
 姉と妹、そして内緒にしているが、俺もその血を引き継いでいる。
 そして、弟は運悪く、父方の祖母の攻撃魔力の血を中途半端に継いでしまった。
 
 実を言うと、こちらも周りには内緒にしているのだが、俺はそこそこ強い攻撃魔力も持っている。
 ところが、弟が持っている攻撃魔力は微々たるもので、戦場において役に立つレベルじゃない。
 せいぜいその場しのぎが出来る程度だ。だからそんな力で驕ってしまったら、却って危険だから、いっそない方がましだ。
 
 それなのに弟は、一家の中で唯一攻撃魔力を使えると、鼻高々で偉そうにしている。
 家族に白い目で見られても、自分は妬まれているんだと思って、むしろ、家族を憐れんでいる。
 
 
 こういう空気が読めないだけじゃなく、身の程知らずの奴って、ホントどうしようもない。いつの世でもこういう人間いるよなあ。
 とにかく俺はこの弟のせいで、幼い頃から散々な目に合わされているのだ。
 
 まあ、そうは言っても自分の弟だから、かわいいとは思っている。だ!
 
 今俺は、目の前にいる弟を見て唖然として立ち尽くしている。
 
 皇太子殿下と公爵令嬢の破滅フラグ……それを立てようとしている面子めんつの中に、俺の姉と弟が含まれているのだ。敵同士として。
 ホント参るよなあ。
 

 俺の兄貴は、皇太子殿下の幼馴染みで同級生だ。そして側近の一人なのだが、とにかく生真面目で堅い軍人気質なので、まるっきり出世欲がなく、どこの派閥にも属していない。
 
 人畜無害な兄の弟だということもあって、俺も皇太子殿下や弟殿下とも顔馴染みだ。弟キャラポジションでとても可愛がられている。
 だから今までは、勢力争いには無縁の立場で、俺はいつ何処においても、ただ静観していたのだ。 
 
 
 それなのに、こんな婚約破棄フラグが立ちそうな切羽詰まったこの状態に、どうして俺は居合わせてしまったのだろうか。
 
 頭痛がしてきた。
 
 よりにもよって姉と弟が、敵対する立ち位置で反目し合っているのだから、逃げるに逃げられないではないか!
 俺は苦境に立たされた。
 
 ところがである。
 突如、このところずっと抑えていた中間子としての俺のお節介の血が、またもやムズムズと湧き上がってしまった。
 
 本当に失敗した。勝手に体が動いてしまった!
 
 あとちょっとうまくやれば、事態は改善される!
 あとちょっとだけ、冷静になって人の話を聞けば、誤解が解ける!
 あとちょっとだけ、なんて思ってしまったのが運の尽きだった!
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