四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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終章 ガラテヤの騎士、ジィン

第百六十三話 風牙の一振り

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 反撃開始。

 風牙流は、魔力をマトモに扱えなかった幼い頃の俺が、平安時代の記憶を頼りに使った剣術。

「【雀蜂すずめばち】!」

「【ファランクス】!」

 人間のリミッターを解除して戦う術であるため、身体への負荷が尋常ではなく、後の時代には廃れてしまった。

 達人であれば、特に気にならない程度まで負担を抑えることはできるが、俺はそれができるようになる程、長く生きることはできなかった。

 故に俺は、この世界では魔力を使って、技量をカバーしていたのだ。

「【駆ける風】!」

 ゴブリンに襲われていたガラテヤ様を助けに入った時は、まだ技量も、ましてや肉体も、成長過程にあった。
 故に、技を数回使っただけでも、霊の魔力を使った際のように、動けなくなってしまっていた。

「回避か……それなら!」

 しかし、今は違う。
 俺は魔力の助けを受けながらも、風牙流を磨き、そして身体も成長させていた。

 一か八かであったが、経験も肉体も、俺を裏切らなかったようだ。

「【土蜘蛛つちぐも】!」

「【神の奇跡・切断モーセ】!」

 俺はクダリ仙人の攻撃を風に乗って回避し、空間を切断する一撃でさえも、『土蜘蛛』で風の刃を飛ばしながら、同時に回避できてしまった。

 勿論、魔力を使うに及ぶ火力は出ない。
 そして、達人の領域までは到達出来なかったのか、身体にかかる負荷は、マシにこそなっているものの、それは疲れという形で出始めている。

 それでも、今の俺はこの場において唯一、物怪の類にも抗い得る剣術を使うことができる人間だ。

 厳密にはガラテヤ様の魂無しでは生きることができないが、それでも、彼女の使い魔として。

 俺は、彼女を守る。

「今まで、随分と数奇な運命を辿らせてもらったモンですよ、神様」

「そうデショ!君が何度も転生したのだって、君が愛する姉と、そして、ガラテヤ・モネ・ベルメリアと出会えたことも!全て私のおかげだろう!ならば、恩返しをしてやろうという気にもならないものかな!」

「途中までなってたけどやめました!恩知らずだろうが何だろうが、この世界で生きる方が大切なので!」

「浅はかな……!」

「それに俺、よくよく思い出してみればソドム出身ですし」

「都合の良いことを言うネ」

 クダリ仙人は再び、空間を切り裂く手刀を繰り出そうとする。

「ま、そういう訳なので!いい加減諦めてくださいッ!」

 しかし、俺が四方八方から飛ばした風の刃は、クダリ仙人の体勢を崩して、奇跡の発動を妨害する。

「くっ……ならば!下るべき裁きで、君を永遠の死に招待してあげよう!神に必殺技を出させた名誉を胸に、死んでいくと良いヨ!」

「やれるモンならやってみろッ!神様!」

 俺は刀を構え、風を纏う。

 そしてクダリ仙人は天高くへ浮かび上がり、頭上に燃えている硫黄の塊を生成して、こちらへ投げつけた。

「さらば、我が使徒よ!【神の軌跡・硫黄シン】!」

 街一つをも飲み込まんとするそれが、ベルメリア邸へと落下を始める。

「終わり……じゃ、無いんでしょう?ジィン」

「ええ、勿論です」

 それでも、俺は全く怖くなかった。

 かつて一度死んだ日に飛び散ってしまった、しかしガラテヤ様が形を留めてくれている、霞のような魂の欠片を削り、自らの風を増幅させる。

 それはやがて魂の焔となり、俺の身体は、霊の力を乗せた風となった。

「無駄だよ!どれだけしぶとかろうと、どれだけ本気だろうと、何ならどれだけ人殺しに向いていようと、君は人間だ!神である私が大激怒した時に下した裁きの業から逃れることが!できるワケ!無いからネ!」

「ハァァァァァァァ……。………………それでも、俺はあんたを殺す。永遠の命を持つあんたに死が与えられるかは分からないけど、せめてこの世界からは退去してもらう」

「ここに来て冗談とは、笑えないなぁ」

「笑ってみせますよ、あんたを……いや、お前を倒して!……風牙の太刀、その真髄……!【曲威裂くるいざきしん】!」

 魂の炎と風に任せて身体を回転させ、硫黄の塊へ飛び込む。

 しかし、不思議と熱くも痛くも無かった。

 それは燃え盛る硫黄を全て斬り裂き、降り落ちる破片を焼き尽くしていたのだ。

 この世界に来て以降、最大最強の一撃。

「う、嘘デショ、え、そんな、まさか、な、そ、そんな、ことが……!ハァ……!?」

 そして俺が回転を失い、空高くから自由落下を始める時には。

「さようなら、俺の神様」

「あ……。う、おォォォォォォォ……!!!何故、何故……!神よ……私の本体よ……!何故、君は……私を、見捨てて……!!!」

 クダリ仙人の全身は粉々になり、塵さえも魂の炎に焼き尽くされていた。
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