四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

文字の大きさ
174 / 177
終章 ガラテヤの騎士、ジィン

第百六十四話 神をも下す無双の騎士

しおりを挟む
 俺の身体は空までもを斬るように落下を始める。

 地面を見ると、立ち上がったファーリちゃんの、メイラークム先生の、片脚を引きずるケーリッジ先生の、そして両手を広げるガラテヤ様の姿があった。

 俺を受け止めてくれようとしているのだろうか。

 しかし、この高さから落ちてくる人間を受け止めれば、四人であっても無傷では済まないだろう。

 当たりどころが悪ければ、死んでしまうことだってあり得ない話ではない。

 ……やめてくれ。

 俺は、皆に生きて欲しかったんだ。

 俺も勿論生きたかった。

 でも、クダリ仙人はそうさせる気が無かった、そうみたいだったから。

 あの状態にあるクダリ仙人に攻撃を当てるには、俺も高くへ飛ぶしか無かった。

 俺が無理をすれば飛べるとバレてしまったら、クダリ仙人は宇宙からビームを撃ってくるかも知れなかったんだから。

 俺がここまでして、ガラテヤ様と共に生きることを諦めてまで、選択したんだから……。

 危ないことは、もうしないでくれ……。

「ジィン!」

「ガラテヤ様……?」

 まだまだ俺は天高く。

 この距離で声が聞こえるハズは無い。

 身体の内側から聞こえる声は、おそらく魂を介したものなのだろう。

「飛び込んで来なさい、ジィン!」

 俺は無言で、滑空の体勢をとる。

 スカイダイビングのようにはいかないが、「駆ける風」を使って、何とか落下を安定させた。

 しかし途中で、魂に違和感を覚える。

「……ガラテヤ様!?何を!」

 ガラテヤ様の魂が、みるみる擦り減っていくのだ。

 俺を受け止めようとするガラテヤ様の姿が歪む。

 その身体から、風が溢れているのだ。

 俺はかつて、ベルメリア邸を出る前に、ガラテヤ様に武道の手解きをしたことがある。

 心臓を抜き取る物騒な技である「殺抜」を覚えたのも、彼女が風の魔力を使うようになったのも、元は俺が、この世界で使い易いように風牙流をアレンジしたものを軽く教えたからなのだが……。

 俺と魂を重ねたためか、或いは風と霊の力を使う内に、風牙流の真髄を見出したのか。

 いずれにせよ、彼女は至ったのだろう。

 俺が手を加えていない、本来の風牙流へ。

 しかし、ガラテヤ様は明らかに無理をしている。

 本来の方法で風の力を引き出すことに慣れ切っていない状態で、明らかに大きな何かをしようとしていることは目に見えていた。

 このままでは、死んでしまうかもしれないと思う程だ。

 そうであるのに、ガラテヤ様は一切の迷い無く、魂を削り続けている。

 死ぬ寸前まで魂を削って風の力を最大限に引き出そうとしているのだろうか。

 一歩間違えれば、ガラテヤ様が生きていなければ生きられない俺も共倒れだというのに。

 それでも、ガラテヤ様に迷いは無かった。

 そして。

「【|嶺流貫レールガン・広域】!」

 ガラテヤ様の必殺技ともいえる「嶺流貫レールガン」の威力を落とし、俺の周りを囲むように、文字通りのエアバックを作り出す。

 落下の勢いが少しずつ緩やかになっていき、俺の身体はフワフワと、少しずつ地面へと近づいていった。

 このまま風に身を任せ、ゆっくりと落ちていくところであったが。

 ガラテヤ様の背後に、人影が見えた。

 厳密には、ドロドロとした、黒いヤニと膿を混ぜたような液体が人の形を模しているものだ。

 そこは、クダリ仙人の灰が散り、そして落ちていた場所。

 土塊に紛れてまで世界を固定してやろうという執念。
 しぶといだの何だのという言葉を、そのままクダリ仙人に返してやりたいものである。

 しかしガラテヤ様は、それに気づかず俺を受け止めようとしている。

「クソッ……!ナナシちゃん、最後に力を貸してくれ……!」

 緩やかに落ちる身体をくねらせ、抜刀。

 そして、鎮みゆく霊の力を再び解放し、刀に纏わせた。

「ジィン?何をしているの、ジィン?」

「【深魑槍フカチヤリ】!」

 風と、そして霊の力を帯び、ナナシちゃんの刀は飛んでいく。

「グォェェェッ!」

 それはガラテヤ様の背後を一帯を黒い襲撃者ごと焼き尽くし、人の形をした神の残滓は、業火に包まれて崩れていく。

「なっ……!?」

 そして、燃え滓さえ残らずに霧散したモノに突き刺さっていた刀に驚いているガラテヤ様の、しかしそれでもブレない風に包まれながら、俺は四人の仲間に囲まれ、その中心に受け止められた。

「……ただいま、戻りました」

 俺は敬礼をし、ガラテヤ様の前に立つ。

「おかえり、ジィン……」

 そして、地面に倒れ込むガラテヤ様を受け止めた。

「ぐすっ、ぐすっ。……おかえり、ジィンお兄ちゃん」

「本当によく、頑張ったわね。ありがとう、ジィン君。治療なら任せて頂戴」

「これで、終わったのよね……!無事で嬉しいよ、ジィン君!」

 ファーリちゃんも、メイラークム先生も、ケーリッジ先生も、涙を流して俺を迎えてくれている。

 払った犠牲は大きいが、この世界の時は、徐々に進み出し、霊力も在るべきところへ還り始めている。

 こんなに嬉しいことは、他にあるものだろうか。

「……ごめんなさい、ジィン。私、ちょっと限界かも」

「大丈夫です。こうすれば」

 無理をしたせいか、魂が霞がかっているガラテヤ様に、今度は俺の方から唇を、そして魂を重ね、薄れゆくガラテヤ様の魂を、俺の砕けかけている魂で繋いだ。

「……ふふっ。ここで死んでも仕方ないと思ってたのに。私は、どうなっちゃったのかしら」

「これで文字通り、俺とガラテヤ様は互いの魂を共有している状態になりました。もう、ガラテヤ様に依存するだけの俺じゃ無いってことですよ」

「ジィン……。今の言葉、意味だと……受け取って良いのよね?」

「ええ。勿論ですとも」

 俺の腕から立ち上がるガラテヤ様は頬を染め、右手で奪い取るように左手を繋いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

処理中です...