四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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終章 ガラテヤの騎士、ジィン

第百六十五話 たった一人の騎士は

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 庭で止まっていたガラテヤ様の母であるロジーナ様は意識を取り戻し、俺達の方を見て目を丸くした。

「……ハッ!ガラテヤ、ジィン!いつ帰ったのだ!?それに、そちらは……?」

 この世界の俺達以外は、クダリ仙人によって「天国」となって停止していたのだ。
 ロジーナ様からすれば、目の前に人が、それも自身の娘とその騎士に加えて、見慣れない三人が、突然目の前に現れたことになる。

 その反応も無理はないだろう。

「ただいま帰りましたわ、お母様」

「俺も帰りました。色々あって混乱していらっしゃるかもしれませんが、それは後でゆっくりお話しします」

「あ、ああ……。と、とりあえずだ。おかえり……?……ええ……?」

 武術だけではなく、頭の切れも抜群な名将と名高いロジーナ様ではあるが、このブッ飛んだ現状を理解するには及ばず、絶賛読み込み中Now Loadingといった様子である。

「それと……こちらの方々を紹介いたしますわ。こちらの女の子がファーリちゃん、こちらがメイラークム先生、そしてこちらがケーリッジ先生」

「よろしく、ガラテヤお姉ちゃんのお母さん」

「初めまして!元冒険者のケーリッジです!」

「おお、元『獣道』の者達から聞いていたファーリちゃんは君か!それに、そちらの女性は冒険者ケーリッジ殿か!」

「お初に……いえ、以前に会ったことはあるかもしれませんわね。私、サニラ・メイラークムという者です。メイラークム家とのお付き合い、いつも感謝しておりますわ」

「ああ。サニラちゃんは久しぶりだな!以前、君がまだ幼い頃に顔を出しに行ったから始めましてではないな。君は忘れてしまったかもしれないが、あの愛くるしい少女が……良い女になったな、サニラちゃん」

「勿体無いお言葉です、ロジーナ様」

 ロジーナ様は幼いメイラークム先生に会っていたようであった。

 これは後から聞いた話だが、まだ赤子であったメイラークム先生を少女がいたと、一時期話題になっていた人物がいたそうな。
 それがロジーナ様である。

「忘れちゃいけない仲間達もいます。……ここには居ませんが、元王国騎士団のムーア先生と、元フラッグ革命団のバグラディ・ガレア、そして……ガラテヤ様の親友だった、マーズ・バーン・ロックスティラという仲間もいました。それに、武器屋のアドラさんも……皆、俺達と一緒に戦った仲間でした」

 俺達は生き残った仲間達と、道半ばで息絶え、そして亡骸を残すことさえできなかった仲間達を一人一人紹介する。

「……払った犠牲は少なくなかった、ということか。彼らのことは悼むべきなのだろうが……まずは、大きなことを成し遂げて生き残ったのであろう君達を迎え入れるべきだろうと、私は考えているよ。彼らには、後で墓と花を用意しよう。彼らの為したことが、ベルメリア家の名とともに刻まれるように」

「よろしくお願いしますわ、お母様」

 それを聞いたロジーナ様は、メイドと執事を集めて準備を頼み、ガラテヤ様の右手を左手で握る。

「何はともあれ、だ。……まずは宴といこうか。ランドルフ!集められるだけの者を集めろ!兵士も召使いも全員だ!墓の用意をしている者達にも、最低限の準備が終わり次第来るようにいっておいてくれ!リズとカトリーナとバルバラも呼ぶんだ!」

「ヘイヘイ。やれやれ。何が悲しくて愛娘とオレのをエラい目に合わせたガキとのラブラブ凱旋パーティーを手配してやらにゃならねェんだか」

「ラ・ン・ド・ル・フ?」

「お・と・う・さ・ま?」

「わ、わーった、わーったよ!今すぐ呼びに行きますよっと!ヘーイヘイ。……ま、頑張れや」

 ランドルフさんは槍を置き、トボトボと屋敷の裏側へ去っていく。

 ベルメリア家の騎士団長であるランドルフさんと、ベルメリア領主であるロジーナ様。

 俺とガラテヤ様の在り方が自分達のそれと似ていると感じているのだろうか、或いはロジーナ様の尻に敷かれている自身と俺を重ねたのか、気に入らないといった様子でありながら、少し心配そうな目をこちらに向けているランドルフ様の後ろ姿は、少し哀愁を漂わせているようだった。

「あっ、ロジーナ様、少しよろしくて」

「サニラちゃん?何だ、何が」

 そんなランドルフさんを尻目に、メイラークム先生とロジーナ様は俺達から少し離れて、何やらコソコソと話を始めた。

 そして話が終わるや否や、ロジーナ様は俺達を急いで大広間へと案内し始める。

 俺達は、そのままロジーナ様に続いて屋敷の中へ。

 屋敷の様子は俺とガラテヤ様が出発する前とあまり変わらず、しかし唯一違う点があるとすれば、召使い達が忙しそうに駆け回っていることであった。

「ガラテヤ様、ジィン様!お帰りなさいませ!」

「サニラ様も、お仲間のファーリ様とアン様とも、ようこそいらっしゃいました」

 すれ違う執事やメイドは多くないが、皆、にこやかに挨拶をしてくれる。

 皆で一列に並び、大広間へ向かっている途中も、忙しそうに走る彼らは、しかし何かを控えているかのように笑顔であった。

「……何か企んでるわね、これは」

 ガラテヤ様が一言。

「同感ですね。でも何で分かるんですか?」

 そしてそれは、俺も薄々察していたところである。

「顔よ。手紙一つも無しに末っ子と騎士が仲間を連れて帰ってきたんだから、内心は皆、迷惑しているハズなのに。私達に無理をしていないように見せるつもりなのかもしれないけど、わざわざここまで笑顔で走り回る必要なんてあるのかしら?」

「……ロジーナ様が宴って言ってましたから……それの準備で忙しいんですかね?それで、宴の時は使用人達も混ざってパーティーだからご機嫌……とか?」

 しかしその推測は、大広間に用意されたソファーで駄弁って小一時間が経った時に、思わぬ方向へ裏切られたのだった。

 すっかり整えられた大広間には、巨大なプレゼントボックスを手にした執事長とメイド長。

「ジィン様、ガラテヤ様、ご婚約おめでとうございまーーーす!!!」

 そして俺達は、流されるままに大広間の最奥に位置する壇上へ誘導され、皆から祝福の言葉を浴びるように受け取ったのであった。
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