四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

文字の大きさ
90 / 177
第七章 もう一度

第八十一話 少女の過去

しおりを挟む
「おいらも、強化人間なんだと思う」

 衝撃の一言が、ファーリちゃんの口から飛び出す。

 しかし俺も含めた三人とも、取り乱すことは無かった。

「詳しく聞かせてくれ」

「ん。……おいら、首が取れても動くケウキと戦った時、ちょっと無理してた。前から雷の魔法で動きを速くして戦うのが普通だったけど、まさか無理したら、あんなに雷をバチバチ出しながら動けるなんて思ってなくて」

「今までとは見違えるほど強かったわよ」

「……それで、無理しようと思って全身の魔力を解放したら、思い出した。おいらが『獣道』の皆に拾ってもらう前の記憶」

 言われてみれば、ファーリちゃんの過去について「仲間に育ててもらった」以上のことを聞いたことは無かったような。

 猟兵に拾われる前は強化人間を作るどこかしらの組織に飼われていたと、そういうことだろうか。

「その前の記憶っていうのが……」

「そう。……全部は思い出せないけど、昔……暗い部屋で、この力を使わされた記憶を思い出したの。硬い紐と石で縛りつけられて、何回も、何回も、鞭で叩かれながら……魔力がすっからかんになるまで力を使わされた」

「……えげつないことを」

「そいつらが今のフラッグ革命団員なのか、そことは別の強化人間を作って売るのが専門の人だったのかは分からないけど、とにかく、おいらは……昔に作られた強化人間だったんだと思う」

 ファーリちゃんは他の強化人間よりも若い。
 そして、フラッグ革命団の強化人間が残していた貴重な「ガキ共の実験で得た成果を元に、比較的安定した手段と魔法で肉体を強化したのよォ」という言葉。

 それがいつの話かは分からないが、その「何とか無事だった非検体」だったのだろう。

「強化人間に関わってる奴ってのはどいつもこいつも……」

「皆、真面目で酷い人だった。だからおいら、右も左も分からなかったけど、頑張って逃げて来たんだ。何回も力を使わされる内に、使い方を覚えてきて……その力を使ってきて、何とか暗い場所から逃げ出して、そこを『獣道』の皆に拾ってもらったの。その時に無理したせいで、しばらく意識も無いまま寝たきりになっちゃって……。それからケウキとの戦いまで、強化人間として飼われてた時の記憶を忘れてたみたい」

 猟兵達に拾われたのが「何かのきっかけが無ければ思い出せない程に昔のこと」なのか、「心を守るために本能が封じていた記憶」なのかは分からないが、前者の場合は、それこそ「試作型」の可能性も考えられる。

 いずれにせよ、ファーリちゃんは想像の数十倍から数百倍は壮絶な過去を持っていたということだけは間違いないだろう。

「ありがとう、全部話してくれて。辛かったでしょう?」

「うん。辛かった。思い出すだけでも、全身が針で刺されてるみたいに痛くなる。……でも思い出したことは、いつか話さなきゃいけなかったと思うから」

「……決めた」

 おもむろに立ち上がるマーズさん。

「どうしたの、マーズお姉ちゃん」

「ファーリちゃん。もし、遠い将来にパーティが解散することになったとしても、困ったらいつでも私のところに来い」

「仲間にこんなことを言うのは違うかもしれないけど……同情してくれなくても良いのに」

「いいや、これは私の、心からの願いだ。……私は生涯、君の味方であることを誓おう。君さえ良ければ、だが」

 そう言うと、再び膝をついてファーリちゃんの左手を握る。

「わっ。これは、うーんと。……騎士様?」

「ああ。君さえ良ければ、今日から私は君の騎士だ。どうかな、ファーリちゃん」

「んと。じゃ、じゃあ、これからよろしく。マーズお姉ちゃん」

 そして、ファーリちゃんは少し慌てた様子を見せながらも、その頭に右手を置いた。

「はうっ!ご、ご主人様……ファーリちゃんが、ご主人様……」

 マーズさんは何故か息を荒げながら、その左手にそっと口づけをする。

「マーズさん?」

「ハァ、ハァ……大丈夫だ。これで契約成立……ハァ、騎士……私がファーリちゃんの騎士……ゲホッゲホォ!」

「マーズ、自分の部屋に戻りなさい。これ以上荒ぶる前に」

「そ、そうだな……そうしよう、それが良い……じゃあまた明日、会おう……ぶはっ」

「じゃあ、一旦解散にして各々の部屋に戻ろうか。俺も部屋に帰るよ。また明日、エントランスで」

「ん。また明日」

 その夜は、ガラテヤ様がマーズさんの肩を持って行って終わった。

 翌日。
 枕を鼻血まみれにした状態のマーズさんが部屋で見つかったのは、言うまでも無い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

処理中です...