99 / 177
第七章 もう一度
第九十話 剣を折られた騎士へ 前編
しおりを挟む
息が乱れた状態で意識を失ってしまったマーズさんを、ガラテヤ様はバグラディの横で寝かせる。
「……やられたのか。マーズ・バーン・ロックスティラは」
「ええ。内臓にダメージが入ったのかしら、致命傷では無いと信じたいけれど、重傷よ」
「……そうか。言っておくが、俺じゃあ何もしてやれねぇ。期待すんなよ」
「言われなくても分かってるわよ」
相変わらず、ガラテヤ様もバグラディへの当たりが強い。
「つーかよォ、いいのかァ?大切なお仲間さんを、俺なんかの側に置いていたら、殺されちまうかも知れねェぜ?」
「……そこに関しては心配いらないと踏んでいるわ。貴方はマーズを傷つけられない」
しかし一方で、バグラディのマーズさんに対する「何か」に関しては、信頼しているようであった。
「へぇ、そうかい。俺が恩返しも同盟も何もかもを無視して裏切る訳が無いなんて、そんな保証はどこにも無ぇハズだぜ?何だって、俺を切り離した革命団を簡単に捨て、作戦の情報を売ったくらいだもんなァ。えェ?」
「いいえ、貴方はここを動けない。だって」
「……ッ!い、いや、分かった。今のところは、ここで死にかけの恩人サマを見守っといてやろうじゃねェか。俺はそこまで鬼畜じゃあ無ぇよ、な?今のはお前を試しただけだ」
マーズさんが何か根拠となるらしいバグラディの様子について言いかけたところで、バグラディの方から静止が入った。
「あら、そう?」
「悪いが、俺はそこそこ以上の権力を持つ奴を未だに信用し切れない。信条がどうこうとかじゃあなくて、そういうトラウマの問題だ。だから……お前を試すことで、俺は自分の警戒を少しでも解こうとしたんだ。手間取らせて悪かったな」
そして、この答えは何か、早く会話を終わらせてしまいたいとの気持ちが含まれているようなトーンであったと、後で俺はガラテヤ様から聞くことになる。
しかし、それは少し別のお話だ。
「それはそれとして……止まらないわよ、アレは」
「……あァ。こんなのが革命団の戦闘員になっていたかもしれねェと思うと、ゾッとするぜ」
二人が見つめる先には、俺の隣から離れてロディアへ突撃するファーリちゃんがいた。
「はっ、とっ、さぁっ!」
「おぉっとっとォ。自分を大切にしてくれるお姉さんを馬鹿にされて、怒っちゃったのかな?」
「当然」
「ふぅん。へぇ」
「何?」
「うーん。おかしいなぁ。組織の皆に聞いたけど……強化人間っていうのは、何かしら人格に関わるものを少し失うらしいんだよねぇ。人間離れした力を発揮できる代わりに、何か人間的なものを失う、と。なのに、君からはそんな雰囲気を感じない。どうしてかな?どうして、マーズが馬鹿にされたくらいで怒れる?」
「……くらい、って、言った?」
ファーリちゃんの太刀筋が変わった。
正確さを犠牲に、威力と速度に重きを置いた、あの動き。
冷静そうに見えるが、おそらくファーリちゃんは大激怒しているのだろう。
「おっとっと、火に油を注ぐつもりは無かったんだよ。ただ、強化人間が怒るっていうのは、相当なことだと思ってね。それとも何かな?君の中で、それほどまでにマーズへの感情が大きかったということなのかい?」
「そんなもの、大きいに決まってる」
「あっそ。なぁんだ、強化人間の失われた感情が復活したのかと思ったよ」
「元々、おいらは試作型。何かを失ったんじゃなくて、満遍なく感情が出にくくなってる、って言った方が良いと思う」
「へぇー。あの情報って、そういうことだったんだねー」
どうやら、ファーリちゃんは試作型の強化人間であるが故に、人格の何かしらが丸々一つ失われたのではなく、様々な感情や価値観が薄くなってしまった、という代償を抱えているらしい。
確かに、ファーリちゃんが感情を大きく出しているところをあまり見たことは無い。
これは俺が知る限りではあるが、「獣道」がベルメリアの軍門に降った際と、俺が生き返った時と……そして、今くらいのものだろう。
「知ってたんだ」
「勿論さ。フラッグ革命団の残党が抱える情報は、全て持っていると思ってもらって構わないよ。ところで、何で君は裏切り者である僕に、いろいろ自分のことについて喋ってくれようとするんだい?」
「どうせ知ってると思って。それと、もう一つ」
そして、ファーリちゃんはそこまで言ったところで、全身に雷を纏う。
「な、何を……」
「おいらのことを、よく知って、覚えてもらって、心に焼きつけてもらってから……。おいらに殺されて欲しいと思ったから」
「……やられたのか。マーズ・バーン・ロックスティラは」
「ええ。内臓にダメージが入ったのかしら、致命傷では無いと信じたいけれど、重傷よ」
「……そうか。言っておくが、俺じゃあ何もしてやれねぇ。期待すんなよ」
「言われなくても分かってるわよ」
相変わらず、ガラテヤ様もバグラディへの当たりが強い。
「つーかよォ、いいのかァ?大切なお仲間さんを、俺なんかの側に置いていたら、殺されちまうかも知れねェぜ?」
「……そこに関しては心配いらないと踏んでいるわ。貴方はマーズを傷つけられない」
しかし一方で、バグラディのマーズさんに対する「何か」に関しては、信頼しているようであった。
「へぇ、そうかい。俺が恩返しも同盟も何もかもを無視して裏切る訳が無いなんて、そんな保証はどこにも無ぇハズだぜ?何だって、俺を切り離した革命団を簡単に捨て、作戦の情報を売ったくらいだもんなァ。えェ?」
「いいえ、貴方はここを動けない。だって」
「……ッ!い、いや、分かった。今のところは、ここで死にかけの恩人サマを見守っといてやろうじゃねェか。俺はそこまで鬼畜じゃあ無ぇよ、な?今のはお前を試しただけだ」
マーズさんが何か根拠となるらしいバグラディの様子について言いかけたところで、バグラディの方から静止が入った。
「あら、そう?」
「悪いが、俺はそこそこ以上の権力を持つ奴を未だに信用し切れない。信条がどうこうとかじゃあなくて、そういうトラウマの問題だ。だから……お前を試すことで、俺は自分の警戒を少しでも解こうとしたんだ。手間取らせて悪かったな」
そして、この答えは何か、早く会話を終わらせてしまいたいとの気持ちが含まれているようなトーンであったと、後で俺はガラテヤ様から聞くことになる。
しかし、それは少し別のお話だ。
「それはそれとして……止まらないわよ、アレは」
「……あァ。こんなのが革命団の戦闘員になっていたかもしれねェと思うと、ゾッとするぜ」
二人が見つめる先には、俺の隣から離れてロディアへ突撃するファーリちゃんがいた。
「はっ、とっ、さぁっ!」
「おぉっとっとォ。自分を大切にしてくれるお姉さんを馬鹿にされて、怒っちゃったのかな?」
「当然」
「ふぅん。へぇ」
「何?」
「うーん。おかしいなぁ。組織の皆に聞いたけど……強化人間っていうのは、何かしら人格に関わるものを少し失うらしいんだよねぇ。人間離れした力を発揮できる代わりに、何か人間的なものを失う、と。なのに、君からはそんな雰囲気を感じない。どうしてかな?どうして、マーズが馬鹿にされたくらいで怒れる?」
「……くらい、って、言った?」
ファーリちゃんの太刀筋が変わった。
正確さを犠牲に、威力と速度に重きを置いた、あの動き。
冷静そうに見えるが、おそらくファーリちゃんは大激怒しているのだろう。
「おっとっと、火に油を注ぐつもりは無かったんだよ。ただ、強化人間が怒るっていうのは、相当なことだと思ってね。それとも何かな?君の中で、それほどまでにマーズへの感情が大きかったということなのかい?」
「そんなもの、大きいに決まってる」
「あっそ。なぁんだ、強化人間の失われた感情が復活したのかと思ったよ」
「元々、おいらは試作型。何かを失ったんじゃなくて、満遍なく感情が出にくくなってる、って言った方が良いと思う」
「へぇー。あの情報って、そういうことだったんだねー」
どうやら、ファーリちゃんは試作型の強化人間であるが故に、人格の何かしらが丸々一つ失われたのではなく、様々な感情や価値観が薄くなってしまった、という代償を抱えているらしい。
確かに、ファーリちゃんが感情を大きく出しているところをあまり見たことは無い。
これは俺が知る限りではあるが、「獣道」がベルメリアの軍門に降った際と、俺が生き返った時と……そして、今くらいのものだろう。
「知ってたんだ」
「勿論さ。フラッグ革命団の残党が抱える情報は、全て持っていると思ってもらって構わないよ。ところで、何で君は裏切り者である僕に、いろいろ自分のことについて喋ってくれようとするんだい?」
「どうせ知ってると思って。それと、もう一つ」
そして、ファーリちゃんはそこまで言ったところで、全身に雷を纏う。
「な、何を……」
「おいらのことを、よく知って、覚えてもらって、心に焼きつけてもらってから……。おいらに殺されて欲しいと思ったから」
0
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~
夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」
その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ!
「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた!
俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる