四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第九章 在るべき姿の世界

第百三十二話 反応あり

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「……こんな事になるとは思わなかったの」

 メイラークム先生が一言。

「あの洞窟には戻れなくなっちゃったワね。アタシの携帯鍛治道具も、無事で良かったワ」

 話によると、俺達が出発してすぐに、洞窟が崩れてしまったのだという。

 洞窟は異音を立てていた訳でも、壁面から水が漏れていた訳でもなく、また先生達も大きな衝撃を与えたということも無いのに、何の前触れもなく崩れたのだと、先生達は言っていた。

 これを単なる自然現象と考えるか、山、或いは秘密そのものが攻撃を仕掛けてきていると考えるか……それは、世界のみぞ知るといったところである。

 大半の荷物は無事だったらしいが、洞窟洞窟の入り口に立てた目印となる旗や、何かあった時のために用意しておいたトラップまでは持って来れなかったらしい。

「どうしましょう、ガラテヤ様。新しい拠点、探します?」

 俺はこれからの探索について、ガラテヤ様に問う。

 ここで重要なのは、ガラテヤ様の方針。
 ジリ貧を避けるために、スピード重視の探索を進めるのか、少しでも長く滞在するために、拠点を用意して探索するのか、だ。

「……いえ。このままもう、果てを目指すことにしましょう。拠点を構えたところで、この環境じゃあ、食料にも体力にも限界があるわ。とっとと探して、とっとと帰る。それが一番よ!」

「わかりました、それで行きましょう」

 そして、ガラテヤ様が前者の方針をとると言うのであれば、俺はそれに従うまでである。
 冒険者として活動している今は、ベルメリア家から少し離れてしまっているとはいえ、今でもガラテヤ様は、ここにいるパーティメンバーの中で最も身分が高い、子爵家の娘だ。

 ガラテヤ様の判断が、その権威によって下されたものであるという前提は、身分制の社会においてつきまとう話である。
 しかし、だからこそ、ガラテヤ様の判断を受け入れてもらう上で、このマインドは非常に重要なものとなるのだ。

 前世で、「船頭多くして船山に登る」ということわざを聞いたことがある。

 このパーティにはガラテヤ様の他に、歴戦の猛者であるムーア先生、冒険者として名を馳せたケーリッジ先生、養護教諭として学生達を普段からよく見ているメイラークム先生、裏方として前線から一歩引いた目線をもつアドラさん。
 それに、革命団のリーダーを務めていたバグラディも、猟兵としての動きに慣れているファーリちゃんも、王国騎士団第七隊長の娘として父の指揮を目の前で見てきたマーズさんも、皆、リーダーたり得る人である。
 
 全員から様々な起点の意見が出るのは良いことだが、しかし方向性がとっ散らかってしまっては、それらのメリットは全て吹き飛んでしまう。

 しかし、その中でもガラテヤ様は……俺の姉ちゃんは、聡明な人だ。

 特に、俺とガラテヤ様に深く関わるであろう、この山に隠されている秘密が絡んだ状態においては。

「ず、随分と早い決定だな……」

「決まるのが早いと助かる」

「そ、そうなのか、ファーリちゃん?」

「ん……んん。これはただ、おいらが長く考えるのが嫌なだけ」

「猟兵の基準は知らないけれど、でもファーリちゃんの言う通り、拠点も、その候補になりそうな場所も無い以上、モタモタしていては、より消耗が激しくなるおそれがあるわ。まずは、山の頂上を目指すの。話はそれから、見たこと無い景色が広がっている方が果てだから、そこへ降りていくわ」

 ガラテヤ様が山の頂上を指差すと、バグラディが口から白い煙となった息を大きく吐いた。

「はぁーあ。何だかんだ、ここまでついて来ちまったなァ。オレもすっかり冒険者かよ」

「ホッホッホ。そうですな。中々見込みがありそうですぞ、のう、ケーリッジ先生?」

「ええ、そうね。本格的にスカウトしちゃおうかしら」

「ケッ、まあ、行く先も無ェんだ。楽しみにしとくかね」

 ガラテヤ様は皆を率いて先頭を歩く。
 俺はその次で、透けた体をフヨフヨと浮かせて進む。

 この山は、何かおかしい。
 しかしそれだけ、俺達が謎に近づいているのだと実感できる。

 もはやパワードスーツだけでは済まなくなってしまったが、ここまで来たら引き下がれない。

 俺達は「果て」を探し、山の頂上へと向かうのであった。
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