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第九章 在るべき姿の世界
第百三十三話 垂直で、星空のような
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チミテリア山、山頂。
フィオレリア王国最北端、世界の果てに最も近い山の頂は、あと少しのところまで迫っていた。
まともに登山をしたことが無いメンバーもいる中で、まだチミテリア山自体がそこまで厳しい山ではなかったということが幸いしたのだろうか。
ケーリッジ先生とムーア先生の指導に加え、メイラークム先生のケアもあり、薬による多少のゴリ押し感は否めないが、何とか全員無事にここまで辿り着いている。
アドラさんは頭痛と目眩に悩まされてダウンしかかっているが、それでも根性だけでついて来たと言っている。
「ファ、ファーリちゃん……ちょっと、いいかしらン……?」
「ん、アドラさん。無理しちゃダメ」
「そ、そうなのヨ……正直、アタシがついていけるのも、いつまでか分からないワ。だから、持って来た素材、受け取っといてチョーダイ。アナタが多分、この道具を一番上手く使えるワ」
ファーリちゃんと、その側にいたマーズさんへ即席の道具とその素材を渡したアドラさんは、体勢を立て直して再び山を登り始める。
ボロボロになりながらも足を止めないアドラさん。
ガラテヤ様には、メイラークム先生とケーリッジ先生同伴の元を組んで、拠点探し班という名のとしての下山を勧められていたが、「ここまで来た以上は引き下がれないワ」と言って断っているそうな。
ここまで、山頂へ向かうことを止めないというのも珍しい。
アドラさんの好奇心が旺盛なのか、はたまた何かに気づいているのか。
どちらにせよ、彼の動向には注意しておこう。
ゆっくりと歩くこと一時間。
俺達は、とうとう辿り着いた。
ここまで長かった。
皆で王都を出て、街で情報を集め、麓でのトラブルを乗り越え。
山頂はもう、目の前である。
パワードスーツ入手から考えれば、その地は更に長い。
吹雪が一気に強くなり、一寸とは言わずとも一メートルもない距離しか離れていないものでさえ、白い闇に包まれているような、そんな感覚になる。
焦って俺達を阻むかのように、わざとらしく天気は荒れ、ところどころから異音がするようになる。
「ハァ、ハァ……山頂はまだかァ……!」
「も、もう少し、ヨ……!多分……!」
「騎士団の訓練が……生温く感じる……!」
「おいら、も……!猟兵の、頃の、訓練の方が……!楽……!」
「ホ、ホッホッホ……まさか、この歳になって、ここまでの冒険をすることになろうとは!思ってもみませんでしたな、ホッホッホ……!」
体毛は凍り、気体だったはずの吐息も瞬時に細氷と化す。
それでも俺達は進み続け、やっとのことで、そこを踏みしめた。
「ここが、山頂……か」
「現役時代に夢見た、世界の果て……。左手も左脚も、すごく動かしにくいし……特にメイラークム先生には、いっつも力を借りてたけど……私……登れたんだ……」
「ええ。……どう?久しぶりに現役時代の新鮮な気分は思い出せたかしら、ケーリッジ先生?」
「そ、そうねっ。ありがとう、メイラークム先生」
「……ところで、これは何でしょう。ガラテヤ様」
「ええ、ホント不思議。私がどうにかなっちゃったのかと思った。何となく、こういう系の……『陰謀論が本当だった』みたいな秘密があっても、おかしくないとは思っていたけど」
山頂に着いたと喜ぶまでは良かった。
しかし、問題はそこ以外なのだ。
ヒントはすぐ近くにあった。
明らかにハニーヤのものであろう人骨と、その遺品らしきものが入った箱……だったものが、辺りの雪に埋められていたからである。
そして、目の前にそり立つ……「壁」……?
崖のような壁のような、ゲームでよくある、エリアの限界に設置されている、いわゆる壁。
それのようなものを、発見してしまったのだ。
フィオレリア王国最北端、世界の果てに最も近い山の頂は、あと少しのところまで迫っていた。
まともに登山をしたことが無いメンバーもいる中で、まだチミテリア山自体がそこまで厳しい山ではなかったということが幸いしたのだろうか。
ケーリッジ先生とムーア先生の指導に加え、メイラークム先生のケアもあり、薬による多少のゴリ押し感は否めないが、何とか全員無事にここまで辿り着いている。
アドラさんは頭痛と目眩に悩まされてダウンしかかっているが、それでも根性だけでついて来たと言っている。
「ファ、ファーリちゃん……ちょっと、いいかしらン……?」
「ん、アドラさん。無理しちゃダメ」
「そ、そうなのヨ……正直、アタシがついていけるのも、いつまでか分からないワ。だから、持って来た素材、受け取っといてチョーダイ。アナタが多分、この道具を一番上手く使えるワ」
ファーリちゃんと、その側にいたマーズさんへ即席の道具とその素材を渡したアドラさんは、体勢を立て直して再び山を登り始める。
ボロボロになりながらも足を止めないアドラさん。
ガラテヤ様には、メイラークム先生とケーリッジ先生同伴の元を組んで、拠点探し班という名のとしての下山を勧められていたが、「ここまで来た以上は引き下がれないワ」と言って断っているそうな。
ここまで、山頂へ向かうことを止めないというのも珍しい。
アドラさんの好奇心が旺盛なのか、はたまた何かに気づいているのか。
どちらにせよ、彼の動向には注意しておこう。
ゆっくりと歩くこと一時間。
俺達は、とうとう辿り着いた。
ここまで長かった。
皆で王都を出て、街で情報を集め、麓でのトラブルを乗り越え。
山頂はもう、目の前である。
パワードスーツ入手から考えれば、その地は更に長い。
吹雪が一気に強くなり、一寸とは言わずとも一メートルもない距離しか離れていないものでさえ、白い闇に包まれているような、そんな感覚になる。
焦って俺達を阻むかのように、わざとらしく天気は荒れ、ところどころから異音がするようになる。
「ハァ、ハァ……山頂はまだかァ……!」
「も、もう少し、ヨ……!多分……!」
「騎士団の訓練が……生温く感じる……!」
「おいら、も……!猟兵の、頃の、訓練の方が……!楽……!」
「ホ、ホッホッホ……まさか、この歳になって、ここまでの冒険をすることになろうとは!思ってもみませんでしたな、ホッホッホ……!」
体毛は凍り、気体だったはずの吐息も瞬時に細氷と化す。
それでも俺達は進み続け、やっとのことで、そこを踏みしめた。
「ここが、山頂……か」
「現役時代に夢見た、世界の果て……。左手も左脚も、すごく動かしにくいし……特にメイラークム先生には、いっつも力を借りてたけど……私……登れたんだ……」
「ええ。……どう?久しぶりに現役時代の新鮮な気分は思い出せたかしら、ケーリッジ先生?」
「そ、そうねっ。ありがとう、メイラークム先生」
「……ところで、これは何でしょう。ガラテヤ様」
「ええ、ホント不思議。私がどうにかなっちゃったのかと思った。何となく、こういう系の……『陰謀論が本当だった』みたいな秘密があっても、おかしくないとは思っていたけど」
山頂に着いたと喜ぶまでは良かった。
しかし、問題はそこ以外なのだ。
ヒントはすぐ近くにあった。
明らかにハニーヤのものであろう人骨と、その遺品らしきものが入った箱……だったものが、辺りの雪に埋められていたからである。
そして、目の前にそり立つ……「壁」……?
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それのようなものを、発見してしまったのだ。
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