四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第九章 在るべき姿の世界

第百三十六話 マルコシアス

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「アドラさん……!?」

「そうそう、賢明な判断だよ。僕は別に、この世界を滅ぼす気なんて無いんだから」

「ロディア!テメー、アドラさんに何をしやがったッ!よくもガラテヤ様からもらった剣を!」

 俺はガラテヤ様からもらった刀を折られた怒りを抑えることができず、ロディアに飛びかかろうとする。

「無駄ヨ!アタシはもう、あの悪魔に従う以外に……生きる方法を見出せない。ジィンちゃん。アナタ達を返したら、一緒にここまで辿り着いた仲なんだから。楽に殺してあげるワ」

「邪魔しないでください!あいつに従うしか生きる方法が無いって……何を言っているんですか!ロディアにやられたんですか?それとも血迷ったんですか!」

「さーぁね。でも僕に言わせてみれば、ハニーヤを狂死させ、アンドレアをあそこまで追い詰めた『壁』を観ても、割と正気な君達の方が血迷ってるけどね」

「うるさい!」

 しかし、アドラさんに邪魔されてしまい、俺の攻撃がアドラさんに当たることは無かった。

 一方、妙ぬことを口走るロディアへ、アドラさんと俺の次に突っ込んでいったのは、騎士の娘、マーズ・バーン・ロックスティラ。

「貴様、何が目的だッ!裏切ったかと思えば、ジィンの父親を取り込み!かと思えば、この世界を滅ぼす気は無いだと!?戯言を!」

「戯言なんかじゃあないよ。僕はただ、この世界を維持して……たまーに、人間を何人か取り込めれば良いだけ。この世界の維持と、最低限の食料以外は要求しないよ」

「だったら何故!私達の邪魔をする!?何故私達の側に味方として現れた!何故私達に攻撃してくる!」

「簡単だよ。っていうか、さっき言った僕の目的を安定して成し続けるためには、君達が邪魔だから、こうして戦っているまでさ」

「人間を喰らおうとする悪魔に、味方などするものか!」

「……本当の目的はそっちじゃあないんだけどなー。ま、いいや。とにかく、君達全員が死ねば、この世界は安泰。僕の餌場は完成するってことだよ」

「ふざけるなッ!」

 マーズさんが振り下ろす剣は、全てロディアの流れるようなステップで躱されてしまっている。

 俺の父親……ジノア・セラムを取り込み、依代とした悪魔の姿を見せることもなく、軽々マーズさんを手玉に取る様子は、「マルコシアス」と名のつく悪魔に相応しいものであった。

「それそれっ。僕の闇魔術……食らってみなよ。はっ!やあっ!」

 ロディアの杖から飛び出す闇の弾丸は、人の頭蓋骨のような形となって飛んでいく。

「舐めるなッ!【オーガー・エッジ】!」

 マーズさんはそれを一振りのうちに砕き、更に剣を立てて防御する態勢に入った。

「【雷電飛矢サンダーボルト・アロー】!」

 その背後からロディアへ飛ぶは、雷を纏った一本の矢。

「【デモンセスタス】。弾け」

 洞窟の中でたくさんのゴブリンを一度に葬り去った、ケーリッジ先生の矢は、闇の魔術で生成した拳に弾かれてしまう。

「流石にこれじゃあ効かないか。でも、まだまだ本気はこれからなんだから!……さあ、マーズさん。加勢するわ!」

 しかし、パワードスーツを身に纏ったケーリッジ先生は、さも今の攻撃が足止めでしか無かったかのように、肩を鳴らした。

「おいらもこっちで一緒に戦う。アドラさんはジィンお兄ちゃん達が食い止めてくれてるから、大丈夫」

「ありがとう。援護は任せた、ケーリッジ先生。よし、ファーリちゃん。共にかかるぞッ!」

 マーズさん、ファーリちゃん、ケーリッジ先生を相手に、ロディアは一歩も引く姿勢を見せない。
 それ程までの、圧倒的な自信。

 悪魔マルコシアスは、全くもって自らの行動に引け目など感じていなかったのである。
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