164 / 177
終章 ガラテヤの騎士、ジィン
第百五十四話 ただいま
しおりを挟む
あれから、何十日経ったことか。
一週間やそこらで王都へ来た時のことが、もはや懐かしく感じる。
道中で保存食は底を尽き、人間同様に動きが止まっている魔物や動物を狩って食べることもあった。
そして、辿り着くはベルメリア子爵邸。
全てが薄気味悪く止まった世界で、俺達だけが動いているのは、ベルメリア領でも変わらないようだ。
「みんなも、固まってる」
屋敷へ着く少し前に、かつてファーリちゃんを育てていた猟兵連中の面々を見たが、まさに出撃準備をしているといった様子のまま、動きが止まっていた。
「ファーリちゃん……。改めてだけど、一刻も早く、解決しないとな」
「うん。ジィンお兄ちゃん。これは、おいら達だけの問題じゃないと思う。『獣道』のみんなも大ピンチ。だから……おいらも……!」
ファーリちゃんは拳を握りしめる。
もうすぐ光の柱、その下へ辿り着く。
近づけば近づくほど、光は間違いなく、視界の中で大きくなっていくベルメリア邸から出ているのだと思い知らされる。
「……大丈夫ですかな、ジィン様」
後ろから、ムーア先生が声をかけてきた。
「な、何がですか」
「身体が震えていますぞ」
「なっ……ああ、何だか……ほぼ実家みたいな家が、とんでもないことになってると考えると……緊張するんですよ」
「ふぅむ、ジィン様にもあるのですな、そんなことが」
「ありますよ。若い頃しか過ごしてないせいですかね」
「ホッホッホ。そんなことは無いんじゃあないですかな?」
「どうしてそう思うんです?」
「私も、実は緊張しきっているのです。ジィン様と私、生きてきたと感じる年数はほぼ同じでありましょう」
「ま、まあそうですけど」
「戦場において、相手の気迫に圧倒されないように、鍛錬は積んできたハズです。しかし、こちらを向いていない巨大な魔物を前に、私には目を向けてさえいないというのに、圧倒的な圧力感じるような……そんな緊迫感が、あるのです」
「……やっぱりわかります?この感じ」
「そうですな。他の皆様も……」
「ジィン、何か……変じゃないかしら?
「あっ、ガラテヤ様も気づきましたか」
殺気とは違う、別の何か。
しかし確実に気迫であると断言できるそれに、俺達は全員、心の臓を手の内に収められているような感覚を覚えていた。
意識すればする程、鼓動が全身を駆け巡るように騒がしくなる。
俺とガラテヤ様、そして俺達の始まり。
有無を言わさず導かれたかのような帰郷に。
それは決して、心が落ち着くようなものではない。
光の柱、その元に見えるは、ベルメリア邸。
「……み、皆!」
久しぶりに姿を見た、ベルメリア子爵家の皆も、世界に起こった異変の例外では無い。
ガラテヤ様の父であり、ベルメリア領の騎士団長を勤めているランドルフ様は、訓練場で兵士達の訓練をしている最中。
長女のリズ様と次女のカトリーナ様は、二人で魔術の本を開きながら。
長男のバルバラ様は、自らの槍を磨いたまま。
そして領主であり、ガラテヤ様の母であるロジーナ様は異変を一足先に察知したのか、槍を抱えていた。
止まってしまった家族を前に、絶望がガラテヤ様を襲う。
「ガラテヤ様……」
膝をついて息を荒くしているガラテヤ様は、ゆっくりと上へ首を向け、こちらへ視線をやる。
「ジィン。光は屋敷の中よ。行きましょう」
「……ええ、分かりました。勝手に家に入ってくる不届き者を、ブッ倒しに行きましょう」
ガラテヤ様は、一瞬で額から脂汗を垂らしていた。
きっと彼女は、精神的に相当な無理をしている。
前世の記憶がもたらすのは、精神の成熟だけではなく、トラウマも然りである。
ガラテヤ様は前世で俺を目の前で失ったことを、酷く悲しんでいると言っていた。
今まさに、動きを固められている家族の姿が目の前にあるのだ。
「そうね。また、理不尽に家族を失うのは御免蒙るわ」
屋敷の扉を開け、光の元へ。
入ってすぐ、大広間の階段から立ち上がっている光、その元に立っていたのは。
「やあ、久しぶりだネ。ジィン君」
「……光の柱を見た時から、そんな感じはしてましたけど。何故あなたが、こんなことを」
かつて、神の別人格を名乗った、中性的な子供のような、老人のような……人間とも天使ともつかぬ何か。
クダリ仙人、その人であった。
一週間やそこらで王都へ来た時のことが、もはや懐かしく感じる。
道中で保存食は底を尽き、人間同様に動きが止まっている魔物や動物を狩って食べることもあった。
そして、辿り着くはベルメリア子爵邸。
全てが薄気味悪く止まった世界で、俺達だけが動いているのは、ベルメリア領でも変わらないようだ。
「みんなも、固まってる」
屋敷へ着く少し前に、かつてファーリちゃんを育てていた猟兵連中の面々を見たが、まさに出撃準備をしているといった様子のまま、動きが止まっていた。
「ファーリちゃん……。改めてだけど、一刻も早く、解決しないとな」
「うん。ジィンお兄ちゃん。これは、おいら達だけの問題じゃないと思う。『獣道』のみんなも大ピンチ。だから……おいらも……!」
ファーリちゃんは拳を握りしめる。
もうすぐ光の柱、その下へ辿り着く。
近づけば近づくほど、光は間違いなく、視界の中で大きくなっていくベルメリア邸から出ているのだと思い知らされる。
「……大丈夫ですかな、ジィン様」
後ろから、ムーア先生が声をかけてきた。
「な、何がですか」
「身体が震えていますぞ」
「なっ……ああ、何だか……ほぼ実家みたいな家が、とんでもないことになってると考えると……緊張するんですよ」
「ふぅむ、ジィン様にもあるのですな、そんなことが」
「ありますよ。若い頃しか過ごしてないせいですかね」
「ホッホッホ。そんなことは無いんじゃあないですかな?」
「どうしてそう思うんです?」
「私も、実は緊張しきっているのです。ジィン様と私、生きてきたと感じる年数はほぼ同じでありましょう」
「ま、まあそうですけど」
「戦場において、相手の気迫に圧倒されないように、鍛錬は積んできたハズです。しかし、こちらを向いていない巨大な魔物を前に、私には目を向けてさえいないというのに、圧倒的な圧力感じるような……そんな緊迫感が、あるのです」
「……やっぱりわかります?この感じ」
「そうですな。他の皆様も……」
「ジィン、何か……変じゃないかしら?
「あっ、ガラテヤ様も気づきましたか」
殺気とは違う、別の何か。
しかし確実に気迫であると断言できるそれに、俺達は全員、心の臓を手の内に収められているような感覚を覚えていた。
意識すればする程、鼓動が全身を駆け巡るように騒がしくなる。
俺とガラテヤ様、そして俺達の始まり。
有無を言わさず導かれたかのような帰郷に。
それは決して、心が落ち着くようなものではない。
光の柱、その元に見えるは、ベルメリア邸。
「……み、皆!」
久しぶりに姿を見た、ベルメリア子爵家の皆も、世界に起こった異変の例外では無い。
ガラテヤ様の父であり、ベルメリア領の騎士団長を勤めているランドルフ様は、訓練場で兵士達の訓練をしている最中。
長女のリズ様と次女のカトリーナ様は、二人で魔術の本を開きながら。
長男のバルバラ様は、自らの槍を磨いたまま。
そして領主であり、ガラテヤ様の母であるロジーナ様は異変を一足先に察知したのか、槍を抱えていた。
止まってしまった家族を前に、絶望がガラテヤ様を襲う。
「ガラテヤ様……」
膝をついて息を荒くしているガラテヤ様は、ゆっくりと上へ首を向け、こちらへ視線をやる。
「ジィン。光は屋敷の中よ。行きましょう」
「……ええ、分かりました。勝手に家に入ってくる不届き者を、ブッ倒しに行きましょう」
ガラテヤ様は、一瞬で額から脂汗を垂らしていた。
きっと彼女は、精神的に相当な無理をしている。
前世の記憶がもたらすのは、精神の成熟だけではなく、トラウマも然りである。
ガラテヤ様は前世で俺を目の前で失ったことを、酷く悲しんでいると言っていた。
今まさに、動きを固められている家族の姿が目の前にあるのだ。
「そうね。また、理不尽に家族を失うのは御免蒙るわ」
屋敷の扉を開け、光の元へ。
入ってすぐ、大広間の階段から立ち上がっている光、その元に立っていたのは。
「やあ、久しぶりだネ。ジィン君」
「……光の柱を見た時から、そんな感じはしてましたけど。何故あなたが、こんなことを」
かつて、神の別人格を名乗った、中性的な子供のような、老人のような……人間とも天使ともつかぬ何か。
クダリ仙人、その人であった。
0
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる