おじろよんぱく、何者?

月芝

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131 第二の試練

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 コンセントから尻尾プラグを抜いたとたんに沈黙したロボットアニマル(大)。三つ首がうな垂れ、口を閉じ、瞳からも光が消えた。
 どうやら電源はコード式だったらしい。
 しかし造りは超未来型なのに、根っこの部分がうちの事務所にある中古のボロ掃除機といっしょとは……。

「やりましたね、四伯おじさん。おじさんはやれば出来る子だとわたしは信じていましたよ」

 手の平を返して調子のいいことをほざくタヌキ娘にはしかめっ面を向け、おれは動かなくなったネコ面メカケルベロスや、施設の内部をあらためて観察する。
 そして遅まきながら、あの人工湖が存在している理由に気がついた。
 大量の水は、この地下施設を維持したり巨大アニマルロボットを動かすのに必要な電力を確保するためのものだったんだ。おそらくはどこかに独自の発電所があるのだろう。
 だとすれば翁は自分の死期を悟ってからここを造ったわけじゃない。こんな規模のシロモノ、あとからこっそりだなんて不可能。磨瑠房楼や付近一帯を開発する当初から、密かに計画に組み込まれてあったんだ。
 おいおい、まじで秘密基地説が濃厚になってきたじゃないか。
 もしかして猫守翁の立身出世、成功の裏にも聚楽第の連中が一枚噛んでいるのかも。だとしたら関係者うんぬんどころの話じゃなくなってくる。バリバリの主要人物! 政財界を巻き込んでの大スキャンダルになりかねない。
 マズイな。一刻も早くここから抜け出さないと本当にシャレにならなくなるぞ。

  ◇

 第一の試練をクリアしたところで壁の一部が動きだす。
 隠し通路が出現。奥はゆるやかに曲がっているなだらかな下り坂。
 進んだ先には、またしてもスチール製の扉と第二の試練の門との看板がかかげられている。
 芽衣と顔を見合わせうなづき合ってから、おれはドアノブを回した。
 中は先ほどと同じくだだっ広いスペース。
 そして中央には腕組みにて仁王立ちしている銀の巨人。
 煌めくシルバーメタリックのボディは筋骨隆々。ゴリラを彷彿とさせる逞しい胸板と太い腕。ただしそんな腕が四本もある。そして首から上はネコ面。
 プロレスラーがネコの覆面をかぶったようなアニマルロボット(中)。
 その存在を確認してから、おれと芽衣はいったん首を引っ込めてそっとドアを閉じる。

「またヘンテコなのがいやがる」
「今度のはちょっと気持ち悪いです」

 ネコ面のメカケルベロスは、敵ながらもなんだかんだでちょっとかっこよかった。基本のフォルムにネコらしさがふんだんに残っていたせいであろう。
 一方であの四本腕のゴリラ型は、なんだか見ているだけでうなじのあたりがゾワゾワしてくる。生理的に受けつけないというか、変態ちっくなフォルムがちょっと……。

「うーん。トラとかジャガーの覆面レスラーは超カッコいいのに、なぜネコ頭になるととたんにダメなんだろう」
「ですよねえ。組み合わせの問題でしょうか。トラとプロレスラーは強い者同士じゃないですか。でもネコとプロレスラーは対局に位置していますからね。ギャップ萌えといっても限度があります。狙いすぎてかえってハズしたというか。あざといのはバレたらいっきに興ざめして嫌悪感へと裏返りますから」

 三十路半ばのおっさんばかりでなく現役女子高生からも酷評されるアニマルロボット(中)。
 デザインって難しいなぁ。
 という意見にて話がまとまったところで、おれはふたたび扉の向こうに首を出す。「すみませーん。第二の試練ってどんなのですか?」とたずねる。
 するとブゥンという起動音がして、ネコ面の銀の巨人がこっちをジロリ。

「ふんっ! ここまで来れたということはヤツを倒したのか。冴えない見た目に反してなかなかやるようだな。だがあまり調子に乗るなよ。なにせヤツは三天王の中では最弱の旧型。キサマはそれをいまから身を持って知ることになるだろう。ガハハハハハッ」

 アニマルロボット(中)が表情を変えることなく、無機質なマシンボイスで高笑い。
 ロボットから蔑まれるおっさん。地味にへこんだものの、引き換えにいくつかの情報を得る。

 その一、三天王ということは、少なくともあと一体、ロボットがいるっぽい。
 その二、強弱を口にしている時点で、試練の内容はガンガンバトルらしい。
 その三、あれほど苦戦したネコ面メカケルベロスがじつは旧式。

「まぁ、でも楽勝ですよ、四伯おじさん。だってすでにネタはバレているんですから」
「だといいんだがなぁ」

 またコンセントを引っこ抜けばいいと楽観視している芽衣だが、おれはどうにもイヤな予感がしてしようがない。
 そしてそういった悪い予感ほど、よく当たるもの。
 いざ、第二の試練というかガンガンバトルの第二ラウンドが始まってすぐに判明する驚愕の事実!

「げっ、コードがどこにも見当たらねえ!」
「うそ、充電式なの?」

 動揺するおれたちにネコ面の銀の巨人が勝ち誇る。

「ガハハハハ、どうだ恐れ入ったか。旧型は攻撃力を重視するあまり絶えず電源との接続を必要とされたが、新型は過剰な武装を廃し肉弾戦に特化することで、コードという鎖から解き放たれて自由を得たのだ。さぁ、覚悟するがよい」

 言うなりネコ面の銀の巨人が猛然と駆け出す。


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