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四 斎藤一之章:My heart
誠義(四)
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白い鳩《はと》がオレの前に舞い降りてきた。鳥の目がそろそろ利かなくなる夕刻。七町四方の土塁に囲まれた古い城跡は大きな木が枝を広げて立ち並ぶから、なおさら暗い。
この城跡は、徳川幕府の成立よりも前、会津を治めていた上《うえ》杉《すぎ》景《かげ》勝《かつ》が建てようとしたものだという。城の位置は鶴ヶ城の北西のかた一里強。阿賀川の水運を利用して、大きな市を開くのにちょうどいい場所だ。
上杉の城は完成しなかった。日本掌握が目前だった徳川家康が、上杉の勝手な築城を口実に兵を繰り出したためだ。これがきっかけで、関ヶ原の戦が勃発。やがて天下は徳川宗家によって統治されることとなる。
そんな由来のある城だと知ったのは、鶴ヶ城を出て翌日だ。オレが率いる新撰組の分隊、計十三人は、土塁の南辺に拠《よ》って建つ無人の古寺、如来堂を隠れ処《が》に定めた。そのことを鳩の手紙に書いて飛ばしたら、時尾が上杉の城の話を教えてくれた。
鳩の脚に括《くく》り付けられた手紙をほどく。如来堂の縁に腰掛けて、手紙を開いた。安堵したのか甘えたいのか、鳩はオレの膝の上に収まって動かない。
「あんたは温かいな」
鳩に語り掛けると、鳩はくるくると喉を鳴らした。この鳩、飯は食っているんだろうか? 時尾が与えてやっただろうか? 城に食糧は乏しいはずだが、一羽の鳩にくれてやる米粒くらいは目をつぶってもらえるんだろうか?
時尾の書く文字は、一目で時尾だとわかる。端正で柔らかい。文字の並びがまっすぐで、読みやすいが、いくぶん堅苦しい。
もともと時尾は、容保公の姉君、照姫の祐筆として、文字も文章も書き慣れている。品があって巧みな文面からは、時尾の声が聞こえてきそうだ。
その後、お怪我などなさってねぇですか?
敵の宿営への奇襲という危険なことばかりやっておられるなんて、いくら斎藤さまたちが歴戦の強者でも心配です。隠れ処は敵に見付かっていねぇかし?
九月に入り、朝夕が肌寒くなってきました。新撰組の皆さまは江戸や上《かみ》方《がた》のお生まれだべし? 会津の晩秋は冷え込みます。暖かくしてお過ごしくなんしょ。それから、会津は霧がよく出ます。慣れねぇと、戸惑っつまうべし。くれぐれもお気を付けて。
お城には毎日、藩境で戦っておられた人たちが戻ってきています。守備の体勢が整ってきました。
防衛総督には、彼岸獅子で入城を果たした山川大蔵さまが就任されました。山川さまはお若ぇけんじょ、鉄砲や大砲にもお詳しいので、とても頼りになります。
本当のことを申し上げると、山川さまはわたしや八重さんの幼友達で、小《ちん》ちぇころは悪さをされて泣かされたり、八重さんが仕返しをしたりの仲だったなし。家老の家のお坊ちゃんっずっても、こっだ偉ぇお人になっつまうなんて、思いも掛けねぇことでした。
八重さんは鉄砲を担《かつ》いで、再編された白虎隊と一緒に、夜警に精を出しています。山川さまも八重さんの鉄砲の腕は前々から認めておられるので、八重さんの出陣に許可を出されたのです。
斎藤さまは川崎尚之《の》助《すけ》さまをご存じかし? 川崎さまは八重さんの旦那さまで、日新館の蘭学の先生です。大砲を使った戦術にも通じていらっしゃって、防衛戦線の参謀として活躍されています。
八重さんと川崎さま、お二人ともお強ぇのです。おっかねぇ夫婦だべし。
わたしは近ごろ初めて、八重さんから鉄砲や大砲のことを教わりました。いちばん簡単な鉄砲の撃ち方と、今までさわるのも怖かった大砲の弾の扱い方を覚えました。
敵に大砲を撃ち込まれたら、弾が破裂しねぇうちに、濡らした布をかぶせて導火線の火を消します。白河の戦のとき、斎藤さまも稲荷山で弾の火を消して爆発を止めたべした。あれと同じ仕事を、わたしたち女《おな》子《ご》勢がやっています。
火の消し方をお殿さまや照姫さまの前でご披露したのは、八重さんでした。敵が撃ち込んだ弾をみんなの前で解体して、何が危険なのか、何《な》如《じょ》すれば危険でなくなるか、説明したのです。仕組みがわかったら、一寸《つぅと》、安心できるべし。
火消をした弾は溶かして、鉄砲の弾に造り替えます。弾造りも女子の仕事です。子供《こめら》は明るいうちにお城の土塁を駆け回って、敵が撃ち込んだ鉄砲の弾を拾ってきます。拾った弾は鉄砲に込めて敵へ撃ち返すのだと、八重さんが言っていました。
今の八重さんは、姿も振る舞いも、まるで男だなし。八重さんの弟は伏見の戦で亡くなっただけんじょ、八重さんは弟の形見の軍服を着込んでいます。わたしは八重さんから、髪が邪魔だから切ってくれと頼まれて、ばっさりと切ってあげました。
本当は切りたくねかった。八重さんの髪、綺麗だもの。けんじょ、髪はそのうち伸びます。今は髪など惜しんでいられねえ、忍ばねばなんねえ、と改めて心に刻みました。
わたしは八重さんの手助けもしながら、大抵は大広間で照姫さまのお手伝いをしています。大広間は今、怪我人の手当の場です。わたしは環の力を使って、特に傷のひでぇ人を診ています。
力が足りません。怪我をする人が多くて、わたしひとりでは、本当に一寸《つぅと》ずつしか術を使ってあげられねぇのです。死なせねぇように、手足を切らずに済むように、寝たきりにならねぇようにと、ぎりぎりの治療だけをするのが精一杯。
悔しくて情けなくて不甲斐なくて、落ち込むことばかりです。愚痴を書いつまって申し訳ありません。
落ち込むけんじょ、さすけねぇですよ。お城ではみんな励まし合っています。
弥曽さんとも、近ごろよくお話しします。お城の中で斎藤さまのことをいちばんよく知っているのは、きっとわたしだから。弥曽さんが斎藤さまをお慕いしていることは、お城の女子ならみんな知っています。照姫さままでご存じです。
わたしは斎藤さまのおっしゃるとおり、鳩さんのことは弥曽さんに隠しています。お手紙もこっそり書いています。けんじょ、心苦しくて後ろめたく感じます。
会津藩はもう前のとおりには戻らねぇべと思います。
斎藤さまは、白河の戦で総督を務められた西郷頼母《も》さまを覚えておられるべし。西郷さまは白河の敗戦の責を負って、お城を出ていかれました。西郷さまのご家族やご親戚は二十名ほど自害なさいました。ご立派ですが、寂しくもあります。
西郷さまと同じく家老であられた田中土佐さまと神《じん》保《ぼ》内《く》蔵《ら》之《の》助《すけ》さまは、敵が城下に侵入した日、互いに互いの腹を切って、ご一緒に逝っつまわれました。什《じゅう》の掟《おきて》を唱えていたころからの竹馬の友だったそうです。
八月の最後に、佐川官兵衛さま率いる部隊が大きな戦闘をなさいました。ここでもたくさんの人が亡くなりました。
けんじょも、悲しい話ばかりではねぇですよ。勝ち戦もあるんだなし。佐川さまはお城の西側、川原町口の郭門のあたりに陣取って、お米や野菜を運ぶための道を確保なさっています。佐川さまたちのおかげで、お城のみんなは飢えずに済んでいます。
子供《こめら》は、こだに大変な中でも元気で、心意気では決して負けていねぇことを敵に示すために、凧揚げなどしてみせています。斎藤さまもご覧になったかし? 会津の凧は、鬼が食い付いた兜《かぶと》をかぶる唐人の絵図が、おっかねぇけんじょも勇ましいのです。
日に日に敵の包囲が厳しくなっているのは、お城にいても感じられます。飛んでくる大砲の弾の数が増えました。一日に何十発も撃ち込まれます。弾の火消しが間に合わねぇときもあります。毎日、大砲のせいで怪我人が出ます。
川崎さまがおっしゃるには、こちらから撃ち返すことはできねぇそうです。お城の大砲では射程が足りねぇのだと。
斎藤さま、敵の大砲の位置がわかったら、お教えくなんしょ。敵の数、大砲の数、お味方の降参や敗北、わかったらわかっただけお教えくなんしょ。
できる限り知りてぇのです。どんなおっかねぇお知らせでも、何も知らねぇよりずっと安心できるのです。
もちろん、敵と戦うことも敵の様子を探ることも大変なお仕事だべし。くれぐれも無理をなさらねぇでくなんしょ。どうぞご無事で生きていてくなんしょ。
お手紙をお待ちしています。一言だけでも構いません。
慶応四年九月四日 高木時尾
斎藤一さま
無理をするなはオレの台詞だ。
飛び込んできた砲弾に布をかぶせて火を消す? 仕損じたら、触れられる近さで砲弾が爆発するわけだ。万に一つも助からない。そんな危険を、女が自ら進んで引き受けるとは。
環の術を使うのだって負担が大きい。環を持たない者には、不可思議な環の力は無限に使えるように見えるかもしれない。しかし、その実、環は術者の気を食らう。無理を押して術を使い続ければ、命さえ削られる。
「人の心配ばっかりしてんじゃねぇよ。手《て》前《めえ》の身を大事にしろ」
土方さんだったら、あの小粋な語り口で時尾に言って聞かせるんだろう。真似をして、ただ一人でつぶやいてみる。時尾が作った袖章に触れる。膝の上の鳩は、さっさと眠りに就いている。
この城跡は、徳川幕府の成立よりも前、会津を治めていた上《うえ》杉《すぎ》景《かげ》勝《かつ》が建てようとしたものだという。城の位置は鶴ヶ城の北西のかた一里強。阿賀川の水運を利用して、大きな市を開くのにちょうどいい場所だ。
上杉の城は完成しなかった。日本掌握が目前だった徳川家康が、上杉の勝手な築城を口実に兵を繰り出したためだ。これがきっかけで、関ヶ原の戦が勃発。やがて天下は徳川宗家によって統治されることとなる。
そんな由来のある城だと知ったのは、鶴ヶ城を出て翌日だ。オレが率いる新撰組の分隊、計十三人は、土塁の南辺に拠《よ》って建つ無人の古寺、如来堂を隠れ処《が》に定めた。そのことを鳩の手紙に書いて飛ばしたら、時尾が上杉の城の話を教えてくれた。
鳩の脚に括《くく》り付けられた手紙をほどく。如来堂の縁に腰掛けて、手紙を開いた。安堵したのか甘えたいのか、鳩はオレの膝の上に収まって動かない。
「あんたは温かいな」
鳩に語り掛けると、鳩はくるくると喉を鳴らした。この鳩、飯は食っているんだろうか? 時尾が与えてやっただろうか? 城に食糧は乏しいはずだが、一羽の鳩にくれてやる米粒くらいは目をつぶってもらえるんだろうか?
時尾の書く文字は、一目で時尾だとわかる。端正で柔らかい。文字の並びがまっすぐで、読みやすいが、いくぶん堅苦しい。
もともと時尾は、容保公の姉君、照姫の祐筆として、文字も文章も書き慣れている。品があって巧みな文面からは、時尾の声が聞こえてきそうだ。
その後、お怪我などなさってねぇですか?
敵の宿営への奇襲という危険なことばかりやっておられるなんて、いくら斎藤さまたちが歴戦の強者でも心配です。隠れ処は敵に見付かっていねぇかし?
九月に入り、朝夕が肌寒くなってきました。新撰組の皆さまは江戸や上《かみ》方《がた》のお生まれだべし? 会津の晩秋は冷え込みます。暖かくしてお過ごしくなんしょ。それから、会津は霧がよく出ます。慣れねぇと、戸惑っつまうべし。くれぐれもお気を付けて。
お城には毎日、藩境で戦っておられた人たちが戻ってきています。守備の体勢が整ってきました。
防衛総督には、彼岸獅子で入城を果たした山川大蔵さまが就任されました。山川さまはお若ぇけんじょ、鉄砲や大砲にもお詳しいので、とても頼りになります。
本当のことを申し上げると、山川さまはわたしや八重さんの幼友達で、小《ちん》ちぇころは悪さをされて泣かされたり、八重さんが仕返しをしたりの仲だったなし。家老の家のお坊ちゃんっずっても、こっだ偉ぇお人になっつまうなんて、思いも掛けねぇことでした。
八重さんは鉄砲を担《かつ》いで、再編された白虎隊と一緒に、夜警に精を出しています。山川さまも八重さんの鉄砲の腕は前々から認めておられるので、八重さんの出陣に許可を出されたのです。
斎藤さまは川崎尚之《の》助《すけ》さまをご存じかし? 川崎さまは八重さんの旦那さまで、日新館の蘭学の先生です。大砲を使った戦術にも通じていらっしゃって、防衛戦線の参謀として活躍されています。
八重さんと川崎さま、お二人ともお強ぇのです。おっかねぇ夫婦だべし。
わたしは近ごろ初めて、八重さんから鉄砲や大砲のことを教わりました。いちばん簡単な鉄砲の撃ち方と、今までさわるのも怖かった大砲の弾の扱い方を覚えました。
敵に大砲を撃ち込まれたら、弾が破裂しねぇうちに、濡らした布をかぶせて導火線の火を消します。白河の戦のとき、斎藤さまも稲荷山で弾の火を消して爆発を止めたべした。あれと同じ仕事を、わたしたち女《おな》子《ご》勢がやっています。
火の消し方をお殿さまや照姫さまの前でご披露したのは、八重さんでした。敵が撃ち込んだ弾をみんなの前で解体して、何が危険なのか、何《な》如《じょ》すれば危険でなくなるか、説明したのです。仕組みがわかったら、一寸《つぅと》、安心できるべし。
火消をした弾は溶かして、鉄砲の弾に造り替えます。弾造りも女子の仕事です。子供《こめら》は明るいうちにお城の土塁を駆け回って、敵が撃ち込んだ鉄砲の弾を拾ってきます。拾った弾は鉄砲に込めて敵へ撃ち返すのだと、八重さんが言っていました。
今の八重さんは、姿も振る舞いも、まるで男だなし。八重さんの弟は伏見の戦で亡くなっただけんじょ、八重さんは弟の形見の軍服を着込んでいます。わたしは八重さんから、髪が邪魔だから切ってくれと頼まれて、ばっさりと切ってあげました。
本当は切りたくねかった。八重さんの髪、綺麗だもの。けんじょ、髪はそのうち伸びます。今は髪など惜しんでいられねえ、忍ばねばなんねえ、と改めて心に刻みました。
わたしは八重さんの手助けもしながら、大抵は大広間で照姫さまのお手伝いをしています。大広間は今、怪我人の手当の場です。わたしは環の力を使って、特に傷のひでぇ人を診ています。
力が足りません。怪我をする人が多くて、わたしひとりでは、本当に一寸《つぅと》ずつしか術を使ってあげられねぇのです。死なせねぇように、手足を切らずに済むように、寝たきりにならねぇようにと、ぎりぎりの治療だけをするのが精一杯。
悔しくて情けなくて不甲斐なくて、落ち込むことばかりです。愚痴を書いつまって申し訳ありません。
落ち込むけんじょ、さすけねぇですよ。お城ではみんな励まし合っています。
弥曽さんとも、近ごろよくお話しします。お城の中で斎藤さまのことをいちばんよく知っているのは、きっとわたしだから。弥曽さんが斎藤さまをお慕いしていることは、お城の女子ならみんな知っています。照姫さままでご存じです。
わたしは斎藤さまのおっしゃるとおり、鳩さんのことは弥曽さんに隠しています。お手紙もこっそり書いています。けんじょ、心苦しくて後ろめたく感じます。
会津藩はもう前のとおりには戻らねぇべと思います。
斎藤さまは、白河の戦で総督を務められた西郷頼母《も》さまを覚えておられるべし。西郷さまは白河の敗戦の責を負って、お城を出ていかれました。西郷さまのご家族やご親戚は二十名ほど自害なさいました。ご立派ですが、寂しくもあります。
西郷さまと同じく家老であられた田中土佐さまと神《じん》保《ぼ》内《く》蔵《ら》之《の》助《すけ》さまは、敵が城下に侵入した日、互いに互いの腹を切って、ご一緒に逝っつまわれました。什《じゅう》の掟《おきて》を唱えていたころからの竹馬の友だったそうです。
八月の最後に、佐川官兵衛さま率いる部隊が大きな戦闘をなさいました。ここでもたくさんの人が亡くなりました。
けんじょも、悲しい話ばかりではねぇですよ。勝ち戦もあるんだなし。佐川さまはお城の西側、川原町口の郭門のあたりに陣取って、お米や野菜を運ぶための道を確保なさっています。佐川さまたちのおかげで、お城のみんなは飢えずに済んでいます。
子供《こめら》は、こだに大変な中でも元気で、心意気では決して負けていねぇことを敵に示すために、凧揚げなどしてみせています。斎藤さまもご覧になったかし? 会津の凧は、鬼が食い付いた兜《かぶと》をかぶる唐人の絵図が、おっかねぇけんじょも勇ましいのです。
日に日に敵の包囲が厳しくなっているのは、お城にいても感じられます。飛んでくる大砲の弾の数が増えました。一日に何十発も撃ち込まれます。弾の火消しが間に合わねぇときもあります。毎日、大砲のせいで怪我人が出ます。
川崎さまがおっしゃるには、こちらから撃ち返すことはできねぇそうです。お城の大砲では射程が足りねぇのだと。
斎藤さま、敵の大砲の位置がわかったら、お教えくなんしょ。敵の数、大砲の数、お味方の降参や敗北、わかったらわかっただけお教えくなんしょ。
できる限り知りてぇのです。どんなおっかねぇお知らせでも、何も知らねぇよりずっと安心できるのです。
もちろん、敵と戦うことも敵の様子を探ることも大変なお仕事だべし。くれぐれも無理をなさらねぇでくなんしょ。どうぞご無事で生きていてくなんしょ。
お手紙をお待ちしています。一言だけでも構いません。
慶応四年九月四日 高木時尾
斎藤一さま
無理をするなはオレの台詞だ。
飛び込んできた砲弾に布をかぶせて火を消す? 仕損じたら、触れられる近さで砲弾が爆発するわけだ。万に一つも助からない。そんな危険を、女が自ら進んで引き受けるとは。
環の術を使うのだって負担が大きい。環を持たない者には、不可思議な環の力は無限に使えるように見えるかもしれない。しかし、その実、環は術者の気を食らう。無理を押して術を使い続ければ、命さえ削られる。
「人の心配ばっかりしてんじゃねぇよ。手《て》前《めえ》の身を大事にしろ」
土方さんだったら、あの小粋な語り口で時尾に言って聞かせるんだろう。真似をして、ただ一人でつぶやいてみる。時尾が作った袖章に触れる。膝の上の鳩は、さっさと眠りに就いている。
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