(新章開始)当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音

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淡き春の夢③

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それから僕には王太子妃教育というのが始まって、また学園を休みがちになった。

でも新しく学ぶのは楽しい。
いつか、王太子妃になれたら……。
そう考えると勉強するのがもっと楽しくなる。

殿下のお役に立てるように務めた。


今日は久しぶりに学園に行く。

しばらく王太子妃教育をがんばり、ひと段落ついたので学園に通えることに。

そういえば殿下は僕の一つ下の学年なので、学園ではお見かけしたことない、僕があんまり通っていなかったから仕方ないんだけどね。

今日はお見かけできたらいいな、と楽しみに思った。 

ランチは食堂でとることになっている。
食堂はいくつかあるけど、僕は級友たちと一緒に一番大きな食堂でみんなと同じものを食べた。

王族も通う学園なので、食事も良質で、僕はこうやってみんなと食べるのが楽しみ。
他愛もない話をしながら今日もおいしくいただきました。

それから中庭でお茶をしたり、図書館に行ったり。
各々自由に過ごすんだけど、今日の僕は中庭を少し歩くことにしたんだ。
……どこかで、殿下をお見かけできるんじゃないかと思って。

僕がのんびり中庭を歩いていると、

「エリアス」

声の聞こえた方を振り向くと、学園の制服をお召しなった殿下。 

「……殿下」

僕はびっくりして、殿下の方に眼を向けると、殿下もさわやかスマイルを見せてくれる。 

殿下は急いでいるようで、 

「また王宮で会おう」 
そう言い、殿下は去っていかれた。

僕は胸の高鳴りを感じて、教室まで歩いて行った。


次に殿下とお会いしたのは王宮でのお茶会。
王太子妃候補となってから交流の名の元ら開かれるようになって、こうして王宮の中庭に出向く。 

ここは殿下のプライベートの中庭だそうで、庭木がきれいに整えられて上品なたくさんの花々が咲いている。 

「エリアス、ようこそ」

ガゼボに用意されたアフタヌーンティーのお菓子に目を奪われてると殿下が見えられた。

さすが王宮のお菓子はおいしそうだな、なんて間抜けな顔してたから、驚いてドキッとした。 

「で、殿下、ご無沙汰しております」

「そう畏まらずともよい。紅茶でよいか」

そう言って殿下は紅茶を淹れてくれた。
従者が、だけれども。
いつも殿下のおそばにいる歳も近いくらいの男でセリスというらしい。

「セリス様、ありがとうございます」

「セリスで結構です、エリアス様。グラバール産の茶葉でございます」

セリスから紅茶をいただき、香りを確認して口を付ける。
甘い香りとフルーティーな味わい。
グラバールはこのルヴァニエール王国の南方地域で、そこの紅茶は品質もとても良い。

「とても美味しいです」 

殿下も紅茶を嗜み、和やかにティータイムを過ごした。

「エリアスは最近は学園に登校もしているんだな」

「はい。今は王太子妃教育があり、毎日は行けてませんが、先日は久しぶりで。殿下にお会いできて嬉しかったです」

思わず嬉しいなんて言ってしまい、顔が赤くなるのが自分でもわかる。 
僕は紅茶を口にして、クールダウン。

殿下の方を見上げると、何故か少し困ったような顔をしてたような気がした。 

「……殿下?」

「いや、いいんだ。学年も違うし学園で見かけたので少し驚いたんだ」

そう言った殿下はいつものスマイルを見せた。
お茶会は津々がなく終わり、殿下と薔薇の咲いている庭を歩く。

王宮の薔薇園は、春の終わりの陽を受けて眩しかった。 

白や紅の花々が風に揺れて、甘い香りがひときわ濃い。

殿下は、そんな景色の中にいてもなお、一際光を纏っていた。
柔らかな金の髪が光を返し、微笑むたびに空気が明るくなるようで……僕は、つい息を忘れて見惚れてしまう。

「この白薔薇、君に似合いそうだ」

殿下はふと立ち止まり、一輪を手折って僕に差し出した。

棘のない、完璧な花弁。
純白に輝くその花が、殿下の掌にあるだけで神聖なもののように見えた。

「僕、に……ですか?」

「君は白が好きだっただろう?」

穏やかな声だった。
胸の奥がじんと熱くなる。
僕のことを覚えてくださっていた……そんな些細なことが、どうしようもなく嬉しかった。

「ありがとうございます。大切にいたします」

「うん。棘がないから、扱いやすいと思う」 

そう言って笑う殿下の横顔が、あまりにも優しかった。
その微笑みだけで、世界が光に満ちたように思えてしまったのだ。


僕はその日、白薔薇を胸に抱いて帰った。
薔薇の香りを吸い込みながら、何度も殿下の笑顔を思い出した。
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