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色づく思い②
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馬車を降りると、森の中で空気の色が違った。
秋の風が赤や金の葉をゆらしていた。
フィールドワークが始まる。
まずは魔力の発生の鉱脈を探す。
それから魔力の流れを観測するのが今回の課題。
とはいえ実際のところ、空気が澄んでて気持ちいいし、半分は遠足みたい。
でも僕は、浮かれすぎないように気をつけている。
だって、隣には――
「気をつけて歩けよ、エリアス。地面が湿ってる」
マクシミリアン殿下が、軽くぼくの腕を取った。
手袋越しなのに、びっくりするほど熱が伝わってくる。
「は、はい……ありがとうございます」
「ふふ、兄上が女子みたいな扱いをしてる」
後ろからアンドリア殿下のからかう声が飛んできて、
マクシミリアン殿下が小さく咳払いする。
「アンドリア、余計な口を挟むな」
「はいはい~。どうぞごゆっくり」
(…どうぞごゆっくり、って……!)
耳がまた熱くなる。
そんなぼくを見て、殿下が少しだけ笑った。
その笑い方が、いつもより柔らかくて――心臓が変な音を立てた。
洞窟のような横穴に入っていく。
暗くて足元がおぼつかない。
隣を歩く殿下の腕を掴んでしまう。
薄明るくなっている所へ目指して進むと、魔力の発生する鉱脈が見えてきた。
剥き出しになった鉱脈から青白い光が生まれて、細い糸のようになって流れていく。
僕はその一筋に手を伸ばして触れてみる。
冷たい、はずなのに、僕の手の中に吸収されたそれは淡い光になって僕の手を覆った。
体が温かくなっている気がした。
「……きれい」
僕は何か力が纏った感じがして、マクシミリアン殿下の腕に触れた。
「……エリアス、これは」
僕の手からマクシミリアン殿下にも何か伝ったようだった。
「……これが魔力なんですね」
「ああぁ……」
自然の魔力は、人の魔力と違って澄んでいる。
なんだか不思議な力を取り込んだみたいになって、その魔力の流れていく方向に沿って歩き出した。
洞窟から抜けても、深い森で日の光があまり届いていない。
ふっと胸がざわついた瞬間、光の筋が強く揺れた。
森の奥から、枝が折れるような音がして――
「っ、なに……!?」
「下がれ!」
マクシミリアン殿下の声と同時に、木陰から黒い影が飛び出してきた。
魔力に引き寄せられた、小型の魔獣だ。
牙をむいて、こちらに突っ込んでくる。
思わず足がすくんだ。
でも――その瞬間、紅い光が弾けた。
殿下の剣が空を裂くように振るわれ、紅い炎が弧を描いて放たれた。
魔獣は悲鳴を上げ、炎に包まれて倒れる。
風が巻き起こって、枯れ葉が舞った。
……時間が止まったみたいだった。
「で、殿下……!」
「大丈夫か?」
ぼくを見下ろす殿下の瞳は、真剣で、それでいてどこか優しい。
その視線に捕まえられて、胸の奥がぐらりと揺れる。
「け、怪我はありません」
「怖かったな。無事で、よかった……」
殿下がそっと手を伸ばして、ぼくの肩に触れた。
その瞬間、体の奥に残っていた恐怖が、すっと溶けていく。
「君の纏った魔力は美しかった。
私も何か力が纏った気がしたんだ」
「殿下……」
心の奥で何かがじんわりと温まっていく。
アンドリア殿下が後ろで
「兄上、カッコつけすぎ」
とか言っていたけど、
正直、頭に入ってこなかった。
秋の風が赤や金の葉をゆらしていた。
フィールドワークが始まる。
まずは魔力の発生の鉱脈を探す。
それから魔力の流れを観測するのが今回の課題。
とはいえ実際のところ、空気が澄んでて気持ちいいし、半分は遠足みたい。
でも僕は、浮かれすぎないように気をつけている。
だって、隣には――
「気をつけて歩けよ、エリアス。地面が湿ってる」
マクシミリアン殿下が、軽くぼくの腕を取った。
手袋越しなのに、びっくりするほど熱が伝わってくる。
「は、はい……ありがとうございます」
「ふふ、兄上が女子みたいな扱いをしてる」
後ろからアンドリア殿下のからかう声が飛んできて、
マクシミリアン殿下が小さく咳払いする。
「アンドリア、余計な口を挟むな」
「はいはい~。どうぞごゆっくり」
(…どうぞごゆっくり、って……!)
耳がまた熱くなる。
そんなぼくを見て、殿下が少しだけ笑った。
その笑い方が、いつもより柔らかくて――心臓が変な音を立てた。
洞窟のような横穴に入っていく。
暗くて足元がおぼつかない。
隣を歩く殿下の腕を掴んでしまう。
薄明るくなっている所へ目指して進むと、魔力の発生する鉱脈が見えてきた。
剥き出しになった鉱脈から青白い光が生まれて、細い糸のようになって流れていく。
僕はその一筋に手を伸ばして触れてみる。
冷たい、はずなのに、僕の手の中に吸収されたそれは淡い光になって僕の手を覆った。
体が温かくなっている気がした。
「……きれい」
僕は何か力が纏った感じがして、マクシミリアン殿下の腕に触れた。
「……エリアス、これは」
僕の手からマクシミリアン殿下にも何か伝ったようだった。
「……これが魔力なんですね」
「ああぁ……」
自然の魔力は、人の魔力と違って澄んでいる。
なんだか不思議な力を取り込んだみたいになって、その魔力の流れていく方向に沿って歩き出した。
洞窟から抜けても、深い森で日の光があまり届いていない。
ふっと胸がざわついた瞬間、光の筋が強く揺れた。
森の奥から、枝が折れるような音がして――
「っ、なに……!?」
「下がれ!」
マクシミリアン殿下の声と同時に、木陰から黒い影が飛び出してきた。
魔力に引き寄せられた、小型の魔獣だ。
牙をむいて、こちらに突っ込んでくる。
思わず足がすくんだ。
でも――その瞬間、紅い光が弾けた。
殿下の剣が空を裂くように振るわれ、紅い炎が弧を描いて放たれた。
魔獣は悲鳴を上げ、炎に包まれて倒れる。
風が巻き起こって、枯れ葉が舞った。
……時間が止まったみたいだった。
「で、殿下……!」
「大丈夫か?」
ぼくを見下ろす殿下の瞳は、真剣で、それでいてどこか優しい。
その視線に捕まえられて、胸の奥がぐらりと揺れる。
「け、怪我はありません」
「怖かったな。無事で、よかった……」
殿下がそっと手を伸ばして、ぼくの肩に触れた。
その瞬間、体の奥に残っていた恐怖が、すっと溶けていく。
「君の纏った魔力は美しかった。
私も何か力が纏った気がしたんだ」
「殿下……」
心の奥で何かがじんわりと温まっていく。
アンドリア殿下が後ろで
「兄上、カッコつけすぎ」
とか言っていたけど、
正直、頭に入ってこなかった。
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