(新章開始)当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音

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凍てつく夜に、光は生まれる①

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その日、学園の中庭はいつもより明るかった。

空気が少し澄んでいて、
木々の葉はほとんど落ち、枝先だけが冬を待っていた。

「今日からレイナ様が戻られるんだって!」

朝からみんながそんなふうに話していたけれど、
僕はあまりピンと来ていなかった。
休学していたらしいけど、誰なのかよく知らなかった。

……いや、知らなかったというより、
みんなが当たり前のように口にするその名前に、
置いていかれている気がしていた。

授業が始まる直前、教室の扉が開いた。

その瞬間、空気が変わった。

冬の前の陽だまりのような光が差し込んだ気がした。

金でもなく、茶でもなく──柔らかな光をまとう髪。
きれい、という言葉だけでは足りない。
立っているだけで、場の温度がひとつ上がるようだった。

「ごきげんよう。
レイナ・オルディスと申します。
今日からまたお世話になりますわ」

声まで整っていた。

でも澄んでいるのに、冷たくない。

みんなが彼女の名前を口にしていて、笑顔になっていた。

ああ、人気者ってこういう人のことを言うんだな、
とぼんやり思った。

隣の席の生徒が僕の方を見て、
「レイナ様、初めてお会いになった?」
と言った。

「レイナ様はドラヴァールの三大公爵家のお嬢様よ。昔から殿下と仲良くて……ほんと、お似合いだよね」

その一言に、僕は頭の中が真っ白になるのを感じた。

……でも、そのときはまだ、深く考えないようにしていた。

考えてしまうと、何かが崩れてしまいそうで。


休み時間、レイナ様が僕の方に歩いてきた。 

「あなたがルヴァニエールからいらした、エリアス・アーデント様ね? 
ずっとお名前は聞いていましたわ」

にこりと微笑むその顔が、
近くで見ると驚くほど穏やかだった。

こんなに完璧な人っているんだな、
とレイナ様を見上げて思った。

隙がないというわけじゃなくて、
きっと人の痛みを知っている人の笑顔なんだなと思った。

「え、あ、こちらこそ……」

うまく言葉が出なくて、情けなく笑うと、彼女はくすっと小さく笑った。

その笑い方さえ、上品で目を奪われた。

遠くでマクシミリアン殿下の声がして、レイナ様が振り向く。

その瞬間、髪が光を弾いて、

ああ、きっと二人が並ぶと絵みたいだ──
そう思ってしまった自分が嫌だった。


僕は、また叶わない夢を見てしまった。

……手の届かない人を好きになってしまうなんて。
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