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凍てつく夜に、光は生まれる②
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昼休みの中庭は、いつもよりざわざわしていた。
木漏れ日の下で、いくつかの小さな集まりの輪ができていて、 そのどこにも笑い声があった。
僕はその中に入る勇気がなくて、
少し離れたベンチに座って本を開いていたけれど、文字はまったく頭に入ってこなかった。
少し先で、誰かが名前を呼ぶ声がした。
「レイナ!」
その声を聞いた瞬間、胸が跳ねた。
マクシミリアン殿下の声だ。
思わず顔を上げると、噴水のそばで殿下が手を振っていた。
隣にアンドリア殿下もいる。
そして、レイナ様がゆっくりと二人へ歩み寄っていく。
まるで、この中庭で三人の周りだけ空気が違って見えた。
温かい雰囲気なのに、僕の胸の奥はひどく寒かった。
「お帰り、レイナ。もう体調は大丈夫なのか?」
「ええ、殿下。おかげさまで。
……アンドリア様がたくさんお見舞いに来てくださいましたから」
「そんな大したことじゃないよ。
兄上がうるさく言うからね」
アンドリア殿下が軽く笑うと、レイナ様も嬉しそうに笑ってらした。
その笑顔を見たマクシミリアン殿下の目が、ほんの少し柔らかくなる。
その一瞬の表情を、僕は見てしまった。
胸がざわざわして、目をそらした。
僕は見てはいけないものを見たような気がした。
……近くのクラスメイトがひそひそと話しているのが耳に入った。
「やっぱり婚約者同士って絵になるわね」
「ほんと。小さいころから決まってるんだもの。殿下とレイナ様」
――ああ、そうなんだ。
頭の中で、言葉がゆっくりと沈んでいった。
何かを壊すような音がしなかったのは、
その衝撃があまりにも静かだったからかもしれない。
僕は何を期待していたんだろう。
優しくしてもらって、名前を呼ばれて、笑いかけられて。
それだけで、まるで特別みたいに錯覚していた。
気づいたら、本を持つ手が少し震えていた。
目から涙が流れた。
文字が滲んで、何も読めなくなっていた。
「エリアス、どうした?」
声をかけられて顔を上げると、アンドリア殿下が立っていた。
彼はいつも通りの穏やかな笑顔で、悪意なんて欠片もない。
「昼食、一緒にどう?」
「……いえ、今日は少し、用事があって」
自分でも驚くほど小さな声で答えると、
アンドリア殿下は首をかしげたけど、
それ以上は何も言わなかった。
そのあと、マクシミリアン殿下の方をちらりと見た。
僕を探すように視線を彷徨わせている。
けれど、僕はその目が合う前に立ち上がって、背を向けた。
足音が遠のいていく。
風が冷たくて、季節がひとつ進んだ気がした。
どうして、僕はまた同じことをしているんだろう。
想いが届かない人を、好きになって。
気がつけば、あの日のことを思い出していた。
──アンドリュー殿下とジュリアン様。
ふたりが微笑み合う姿を見て、僕は息ができなかった。
あの痛みを、二度と味わいたくないと思ったのに。
なのに、どうして僕は、また同じ場所に立っているんだろう。
どうして、届かない人ばかり好きになってしまうんだろう。
二人の笑顔の向こうで、僕はまたひとりだった。
誰も責められない。
ただ、自分が馬鹿なんだ。
空が眩しくて、本当に泣きそうだった。
木漏れ日の下で、いくつかの小さな集まりの輪ができていて、 そのどこにも笑い声があった。
僕はその中に入る勇気がなくて、
少し離れたベンチに座って本を開いていたけれど、文字はまったく頭に入ってこなかった。
少し先で、誰かが名前を呼ぶ声がした。
「レイナ!」
その声を聞いた瞬間、胸が跳ねた。
マクシミリアン殿下の声だ。
思わず顔を上げると、噴水のそばで殿下が手を振っていた。
隣にアンドリア殿下もいる。
そして、レイナ様がゆっくりと二人へ歩み寄っていく。
まるで、この中庭で三人の周りだけ空気が違って見えた。
温かい雰囲気なのに、僕の胸の奥はひどく寒かった。
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「ええ、殿下。おかげさまで。
……アンドリア様がたくさんお見舞いに来てくださいましたから」
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その笑顔を見たマクシミリアン殿下の目が、ほんの少し柔らかくなる。
その一瞬の表情を、僕は見てしまった。
胸がざわざわして、目をそらした。
僕は見てはいけないものを見たような気がした。
……近くのクラスメイトがひそひそと話しているのが耳に入った。
「やっぱり婚約者同士って絵になるわね」
「ほんと。小さいころから決まってるんだもの。殿下とレイナ様」
――ああ、そうなんだ。
頭の中で、言葉がゆっくりと沈んでいった。
何かを壊すような音がしなかったのは、
その衝撃があまりにも静かだったからかもしれない。
僕は何を期待していたんだろう。
優しくしてもらって、名前を呼ばれて、笑いかけられて。
それだけで、まるで特別みたいに錯覚していた。
気づいたら、本を持つ手が少し震えていた。
目から涙が流れた。
文字が滲んで、何も読めなくなっていた。
「エリアス、どうした?」
声をかけられて顔を上げると、アンドリア殿下が立っていた。
彼はいつも通りの穏やかな笑顔で、悪意なんて欠片もない。
「昼食、一緒にどう?」
「……いえ、今日は少し、用事があって」
自分でも驚くほど小さな声で答えると、
アンドリア殿下は首をかしげたけど、
それ以上は何も言わなかった。
そのあと、マクシミリアン殿下の方をちらりと見た。
僕を探すように視線を彷徨わせている。
けれど、僕はその目が合う前に立ち上がって、背を向けた。
足音が遠のいていく。
風が冷たくて、季節がひとつ進んだ気がした。
どうして、僕はまた同じことをしているんだろう。
想いが届かない人を、好きになって。
気がつけば、あの日のことを思い出していた。
──アンドリュー殿下とジュリアン様。
ふたりが微笑み合う姿を見て、僕は息ができなかった。
あの痛みを、二度と味わいたくないと思ったのに。
なのに、どうして僕は、また同じ場所に立っているんだろう。
どうして、届かない人ばかり好きになってしまうんだろう。
二人の笑顔の向こうで、僕はまたひとりだった。
誰も責められない。
ただ、自分が馬鹿なんだ。
空が眩しくて、本当に泣きそうだった。
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