(新章開始)当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音

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春告げの宴⑧

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翌日、国王陛下の前に呼ばれた。

王城の奥深く――
普段は立ち入ることさえ許されないという「聖謁の間」。

白い大理石の床は鏡のように光を返し、
天窓からは柔らかな光が降り注いでいる。
静寂の中、わずかに衣擦れの音だけが響いた。

僕は、なぜここに呼ばれたのかを知らないまま、
ただ、殿下の少し後ろに立っていた。

胸がざわめく。

国王陛下も王妃様も揃われている――まるで、儀式のようだ。

国王陛下の前に立つ神官が、一歩進み出た。

深く頭を垂れ、ゆるやかに両手を掲げる。

「古(いにしえ)よりこの地を護りし精霊たちよ――
風を運び、水を潤し、大地を照らすものよ。
今ここに、ひとつの魂が汝らに呼応する。
その名はエリアス・アーデント。
汝らの息吹を受け継ぎ、
王国に新たなる調和をもたらす者なり。
光を見よ、加護を示せ。
その歩みに祝福あれ。」

詩のような言葉が響くたび、
空気が震えた。

風が静かに吹き抜け、
天窓からの光がひとすじ、まるで呼応するように強まる。

やがてそれは幾千もの粒となり、
俺の周囲を包み込んだ。

柔らかく、あたたかい。 

頬を撫でる光はまるで呼吸のようで、
精霊たちの囁きが心に染み込んでくる。

――あなたの道を、見ているよ。

――恐れずに。光はあなたと共にある。 

胸の奥がじんわりと熱くなり、
知らぬうちに目を閉じていた。

怖さも、不安も、不思議と薄れていく。
僕は、この光に包まれて、
はじめて“自分が選ばれた”ことを実感した。

そして――これからのすべてを、殿下と共に歩むと決めた。

光がゆるやかに収まるころ、
国王陛下の声が響く。

「この加護、まことに確かなるもの。
王家に新たな縁を結ぶ証として、
我はここに、二人の結びを認めよう。」

マクシミリアン殿下が静かに歩み寄り、
僕の手を取る。

その掌の熱が、すべての現実を告げていた。

「エリアス。
 ――共に、この光の中を歩もう」

その声を聞いた瞬間、胸の奥がふっと解けた。

精霊の光が再び舞い、祝福のように二人を包む。

それは言葉ではなく、祈りのようだった。 

恐れではなく、希望を。
不安ではなく、愛を――。

この瞬間、俺はようやく確かに感じた。

殿下の隣こそが、自分の居場所なのだと。
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