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春告げの宴⑩
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春の光が、王城の高い天窓から静かに降り注いでいる。
風がやさしくカーテンを揺らして花々の香りを運んでくれる。
季節の気配さえ、祝福のように感じられた。
婚姻の儀が行われるのは、王城の奥深く――“聖精の間”。
女神の時代から続く聖域で、
大地と空の精霊が眠ると伝えられる場所だ。
大理石の床に刻まれた紋章が、淡い光を帯びて脈動している。
その上に立つと、まるで大地が呼吸しているようだった。
ゆるやかな音楽が流れ、扉が開く。
マクシミリアン殿下が歩み出た。
白金の礼服に光の粒が降りかかり、
まるで殿下自身が精霊に選ばれたように見えた。
その姿に、胸が締めつけられる。
何度も見た横顔なのに――今日は、少し遠く見える。
けれど、その視線がまっすぐこちらを向いた瞬間、
世界の音がすべて消えた。
司祭が、柔らかな声で詩文を唱える。
「風の精霊よ、光の精霊よ。
いま、ふたつの魂がひとつに結ばれん。
大地がその歩みを支え、
水が心を潤し、火が想いを燃やし、
空が永遠の誓いを見守らんことを。」
その言葉とともに、空間がふわりと明るくなった。
光の粒――精霊たちが、姿を現してくれた。
髪に、肩に、衣の裾に、柔らかな光が触れる。
くすぐったいような温もりに、
僕は思わず小さく笑みをこぼした。
――ようこそ。
――見ているよ。
――あなたの選んだ道を祝福する。
精霊たちの声が、心の奥で囁く。
そのひとつひとつが、背中を押してくれる。
大丈夫、怖くない。
この人と歩む未来を、信じられる。
マクシミリアン殿下が一歩、前へ進む。
手を取られた瞬間、温もりが指先から全身に広がった。
彼の手は、確かに――生きている。
王太子としてではなく、ひとりの人として。
マクシミリアン殿下が誓いの言葉を口にした。
「風が道を導くように、炎が灯を守るように、
我はこの命をもって、君を護る。」
その声が、まっすぐに心を打つ。
僕も、静かに息を吸い、答える。
「水が大地を潤し、光が闇を照らすように、
我はこの想いをもって、あなたを支える。」
光が僕たちを包み込んで、眩いほどの輝きの中で、
精霊たちが輪を描き、花のように散っていく。
その一粒一粒が、祝福の歌のように舞い上がる。
王と王妃が見守る中、司祭が告げた。
「精霊たちは見届けた。その加護は静かに彼らを包み、世界は新たな調和を得た。
この誓い、永遠に続かんことを。」
マクシミリアン殿下がそっと微笑んで、
僕の手をもう一度、強く握った。
春の光が二人の頬を照らし、
窓の外で、花びらがひとひら、風に舞った。
その瞬間、
世界のすべてが祝福に満ちていると感じた。
――あの日、ただ祈ることしかできなかった自分が、
いま、誰かと共に未来を誓っている。
こんなにもあたたかい。
光の粒が舞うたび、精霊たちが微笑んでいるように見えた。
そして僕は静かに目を閉じた。
――この幸せを、永遠に守りたい。
春の風が頬を撫でて、
花と光と精霊の祝福が、僕たちを包んでいた。
式が終わると、花の香りに満ちた風が吹き抜けた。
精霊たちの光がまだ空に漂っていて、金糸のようにきらめきながら、祝福の余韻を残している。
「……終わったね」
小さく息を吐くと、隣に立つ殿下がわずかに微笑んだ。
光を受けて艶やかな黒髪が柔らかく揺れる。
その横顔を見ているだけで、胸の奥が温かくなる。
「終わりじゃない、今日から始まる」
穏やかで、けれど迷いのない声だった。
殿下は一歩、近づいてきて──ゆっくりと僕の手を取る。
指先まで包み込むような、大きくて温かい手。
それだけで、どんな不安も溶けていくようだった。
「……マクシミィ」
殿下が微笑む。
そのまま、肩を引き寄せられて──胸の中に抱きしめられた。
「これからは、夫として呼んでくれ」
耳元で囁かれた低い声に、心臓が跳ねた。
殿下の腕の中は、剣の鍛錬で刻まれた筋肉の硬さと、体温のやさしさが共にあって。
そのすべてが、まるで“守る”という意思そのものだった。
「……マクシミィ」
そう呼んだ瞬間、彼の腕に力がこもる。
顔を上げたエリアスの頬に、殿下の手が触れた。
まっすぐに見つめ合う。
真摯で、強く、けれどどこまでも優しいその瞳に、自分だけが映っている。
「どんなときも、君を離さない。精霊の加護が消えようとも、俺が君を守る」
──その言葉が、どんな祝福の光よりも眩しかった。
僕はただ、こくりと頷いた。
涙がこぼれそうになるのを、必死に堪えて。
春の光が僕たちを包み、花びらが舞い降りる。
マクシミリアンの胸に耳を当てると、彼の鼓動が聞こえた。
穏やかで力強いその音に合わせて、僕の心も静かに波打っていた。
──この人となら、きっとどんな未来も怖くない。
そう思った瞬間、精霊たちの光がふたりのまわりでふわりと弾け、
新たな誓いを、春風が祝福した。
春の光が降り注ぐ祭壇の中心に立つマクシミリアン殿下は、凛としていて、誰よりも美しかった。
王太子としての威厳と、ただ一人の人を見つめる優しさがあって、そのどちらもを宿した横顔を見つめていると、僕は胸の奥が熱かった。
──ああ、やっとここまで来られたんだ。
数え切れないほどの迷いと、届かないと思っていた想い。
それでも手を伸ばし続けた先に、いま、彼がいる。
マクシミリアン殿下が振り返り、微笑む。
「共に歩もう、エリアス」
「……はい。殿下」
ふたりの声が重なった瞬間、
光が弾け、花が舞った。
光の中で、二人の未来が優しく重なっていった。
風がやさしくカーテンを揺らして花々の香りを運んでくれる。
季節の気配さえ、祝福のように感じられた。
婚姻の儀が行われるのは、王城の奥深く――“聖精の間”。
女神の時代から続く聖域で、
大地と空の精霊が眠ると伝えられる場所だ。
大理石の床に刻まれた紋章が、淡い光を帯びて脈動している。
その上に立つと、まるで大地が呼吸しているようだった。
ゆるやかな音楽が流れ、扉が開く。
マクシミリアン殿下が歩み出た。
白金の礼服に光の粒が降りかかり、
まるで殿下自身が精霊に選ばれたように見えた。
その姿に、胸が締めつけられる。
何度も見た横顔なのに――今日は、少し遠く見える。
けれど、その視線がまっすぐこちらを向いた瞬間、
世界の音がすべて消えた。
司祭が、柔らかな声で詩文を唱える。
「風の精霊よ、光の精霊よ。
いま、ふたつの魂がひとつに結ばれん。
大地がその歩みを支え、
水が心を潤し、火が想いを燃やし、
空が永遠の誓いを見守らんことを。」
その言葉とともに、空間がふわりと明るくなった。
光の粒――精霊たちが、姿を現してくれた。
髪に、肩に、衣の裾に、柔らかな光が触れる。
くすぐったいような温もりに、
僕は思わず小さく笑みをこぼした。
――ようこそ。
――見ているよ。
――あなたの選んだ道を祝福する。
精霊たちの声が、心の奥で囁く。
そのひとつひとつが、背中を押してくれる。
大丈夫、怖くない。
この人と歩む未来を、信じられる。
マクシミリアン殿下が一歩、前へ進む。
手を取られた瞬間、温もりが指先から全身に広がった。
彼の手は、確かに――生きている。
王太子としてではなく、ひとりの人として。
マクシミリアン殿下が誓いの言葉を口にした。
「風が道を導くように、炎が灯を守るように、
我はこの命をもって、君を護る。」
その声が、まっすぐに心を打つ。
僕も、静かに息を吸い、答える。
「水が大地を潤し、光が闇を照らすように、
我はこの想いをもって、あなたを支える。」
光が僕たちを包み込んで、眩いほどの輝きの中で、
精霊たちが輪を描き、花のように散っていく。
その一粒一粒が、祝福の歌のように舞い上がる。
王と王妃が見守る中、司祭が告げた。
「精霊たちは見届けた。その加護は静かに彼らを包み、世界は新たな調和を得た。
この誓い、永遠に続かんことを。」
マクシミリアン殿下がそっと微笑んで、
僕の手をもう一度、強く握った。
春の光が二人の頬を照らし、
窓の外で、花びらがひとひら、風に舞った。
その瞬間、
世界のすべてが祝福に満ちていると感じた。
――あの日、ただ祈ることしかできなかった自分が、
いま、誰かと共に未来を誓っている。
こんなにもあたたかい。
光の粒が舞うたび、精霊たちが微笑んでいるように見えた。
そして僕は静かに目を閉じた。
――この幸せを、永遠に守りたい。
春の風が頬を撫でて、
花と光と精霊の祝福が、僕たちを包んでいた。
式が終わると、花の香りに満ちた風が吹き抜けた。
精霊たちの光がまだ空に漂っていて、金糸のようにきらめきながら、祝福の余韻を残している。
「……終わったね」
小さく息を吐くと、隣に立つ殿下がわずかに微笑んだ。
光を受けて艶やかな黒髪が柔らかく揺れる。
その横顔を見ているだけで、胸の奥が温かくなる。
「終わりじゃない、今日から始まる」
穏やかで、けれど迷いのない声だった。
殿下は一歩、近づいてきて──ゆっくりと僕の手を取る。
指先まで包み込むような、大きくて温かい手。
それだけで、どんな不安も溶けていくようだった。
「……マクシミィ」
殿下が微笑む。
そのまま、肩を引き寄せられて──胸の中に抱きしめられた。
「これからは、夫として呼んでくれ」
耳元で囁かれた低い声に、心臓が跳ねた。
殿下の腕の中は、剣の鍛錬で刻まれた筋肉の硬さと、体温のやさしさが共にあって。
そのすべてが、まるで“守る”という意思そのものだった。
「……マクシミィ」
そう呼んだ瞬間、彼の腕に力がこもる。
顔を上げたエリアスの頬に、殿下の手が触れた。
まっすぐに見つめ合う。
真摯で、強く、けれどどこまでも優しいその瞳に、自分だけが映っている。
「どんなときも、君を離さない。精霊の加護が消えようとも、俺が君を守る」
──その言葉が、どんな祝福の光よりも眩しかった。
僕はただ、こくりと頷いた。
涙がこぼれそうになるのを、必死に堪えて。
春の光が僕たちを包み、花びらが舞い降りる。
マクシミリアンの胸に耳を当てると、彼の鼓動が聞こえた。
穏やかで力強いその音に合わせて、僕の心も静かに波打っていた。
──この人となら、きっとどんな未来も怖くない。
そう思った瞬間、精霊たちの光がふたりのまわりでふわりと弾け、
新たな誓いを、春風が祝福した。
春の光が降り注ぐ祭壇の中心に立つマクシミリアン殿下は、凛としていて、誰よりも美しかった。
王太子としての威厳と、ただ一人の人を見つめる優しさがあって、そのどちらもを宿した横顔を見つめていると、僕は胸の奥が熱かった。
──ああ、やっとここまで来られたんだ。
数え切れないほどの迷いと、届かないと思っていた想い。
それでも手を伸ばし続けた先に、いま、彼がいる。
マクシミリアン殿下が振り返り、微笑む。
「共に歩もう、エリアス」
「……はい。殿下」
ふたりの声が重なった瞬間、
光が弾け、花が舞った。
光の中で、二人の未来が優しく重なっていった。
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