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エピローグ
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―アーデント家へ―
春の陽射しが窓からこぼれ、馬車の中にやわらかな光を落としていた。
窓の外には、懐かしいアーデント領の丘が広がっている。
どこまでも続く青緑の野、風に揺れる木々の音――
幼いころから慣れ親しんだ景色が、胸の奥をくすぐる。
「……懐かしいなぁ。まだ一年も経ってないのに、やっぱり安心する景色だ」
僕が微笑みながら指を伸ばすと、隣に座るマクシミリアン殿下が穏やかに視線を向けた。
「エリアスが生まれ育った場所なんだな。……美しい国だな」
「うん。殿下――じゃなくて、マクシミィにも見せたかったんだ」
「ふふ……それは光栄だ」
僕が楽しげに語るたび、殿下の表情もほころんでいく。
少し緊張を隠しながらも、殿下の瞳にはやさしい光が宿っていた。
その手がそっと僕の指先を包む。
ほんのわずかに、力を込めて。
「君が嬉しそうにしてくれるなら、それで十分だ」
殿下の思いが、あたたかな手から伝わってくるようだった。
アーデント家の門が見えた瞬間は、胸の奥がぎゅっと詰まった。
家の前には、父さまと母さま、そして兄さまが待っていた。
みんなの顔が懐かしくて、そしてみんな少し涙ぐんでいる。
「……エリアス!」
母さまが駆け寄り、僕をぎゅっと抱きしめた。
「よく帰ってきましたね……!」
「母さま、ただいま帰りました……」
「あなたが無事で、幸せそうで、それが一番です」
その横で、父さまと兄さまがマクシミリアン殿下を見つめる。
穏やかながらも、威厳と強さを宿した視線。
「王太子殿下、息子を幸せにしてくださると聞きました。……どうか、約束を」
マクシミリアン殿下は真っすぐに姿勢を正し、深く一礼する。
「はい。必ず。この命に代えても、エリアスを愛し、守り抜くと誓います」
凛とした声に、空気が静まり返る。
その真摯な言葉に、エリアスの胸がじんと熱くなった。
父はゆっくりと頷き、
「ならば、息子をあなたに託しましょう」
と穏やかに微笑んだ。
母さまは涙を拭いながら、
「本当に幸せそうね、エリアス……」
と、そっと頬を撫でた。
「うん。僕、幸せだよ。心から」
そう答える声は、どこまでも柔らかく響いた。
その夜、僕は小さな封書を開いた。
差出人は――アンドリュー王太子。
“婚儀の報を聞いた。心から祝福する。
エリアス、君と隣に立てるマクシミリアンが羨ましい。
どうか、彼を支え、彼と共に歩んでほしい。
いつかまた、穏やかな日々の中で会えることを願って。”
僕は手紙を胸に当て、静かに目を閉じた。
過去の痛みは、もう遠い記憶のように感じられる。
それでも、あの時間があったからこそ、今があるんだと思えた。
バルコニーに出ると、マクシミリアン殿下が待っていた。
夕陽に染まる空の下で穏やかに微笑んでいる。
「家族に会えて、よかったな」
「うん。みんな、すごく優しかった」
「そうだな。君を愛している人たちだからな」
そう言って、マクシミリアン殿下が手を伸ばし、僕の頬を包んだ。
「私も、同じように君を愛していくよ」
その言葉に、胸が満たされていく。
殿下は僕の唇にそっと口付けた。
春の風が二人の間を抜けて、
庭の白花をやさしく揺らした。
――ここが、僕の帰る場所。
故郷も、家族も、そして彼も。
全部が繋がって、いま、ひとつになる。
春は再び訪れる。
けれど、
この春だけは──僕たちだけの永遠だった。
(完)
春の陽射しが窓からこぼれ、馬車の中にやわらかな光を落としていた。
窓の外には、懐かしいアーデント領の丘が広がっている。
どこまでも続く青緑の野、風に揺れる木々の音――
幼いころから慣れ親しんだ景色が、胸の奥をくすぐる。
「……懐かしいなぁ。まだ一年も経ってないのに、やっぱり安心する景色だ」
僕が微笑みながら指を伸ばすと、隣に座るマクシミリアン殿下が穏やかに視線を向けた。
「エリアスが生まれ育った場所なんだな。……美しい国だな」
「うん。殿下――じゃなくて、マクシミィにも見せたかったんだ」
「ふふ……それは光栄だ」
僕が楽しげに語るたび、殿下の表情もほころんでいく。
少し緊張を隠しながらも、殿下の瞳にはやさしい光が宿っていた。
その手がそっと僕の指先を包む。
ほんのわずかに、力を込めて。
「君が嬉しそうにしてくれるなら、それで十分だ」
殿下の思いが、あたたかな手から伝わってくるようだった。
アーデント家の門が見えた瞬間は、胸の奥がぎゅっと詰まった。
家の前には、父さまと母さま、そして兄さまが待っていた。
みんなの顔が懐かしくて、そしてみんな少し涙ぐんでいる。
「……エリアス!」
母さまが駆け寄り、僕をぎゅっと抱きしめた。
「よく帰ってきましたね……!」
「母さま、ただいま帰りました……」
「あなたが無事で、幸せそうで、それが一番です」
その横で、父さまと兄さまがマクシミリアン殿下を見つめる。
穏やかながらも、威厳と強さを宿した視線。
「王太子殿下、息子を幸せにしてくださると聞きました。……どうか、約束を」
マクシミリアン殿下は真っすぐに姿勢を正し、深く一礼する。
「はい。必ず。この命に代えても、エリアスを愛し、守り抜くと誓います」
凛とした声に、空気が静まり返る。
その真摯な言葉に、エリアスの胸がじんと熱くなった。
父はゆっくりと頷き、
「ならば、息子をあなたに託しましょう」
と穏やかに微笑んだ。
母さまは涙を拭いながら、
「本当に幸せそうね、エリアス……」
と、そっと頬を撫でた。
「うん。僕、幸せだよ。心から」
そう答える声は、どこまでも柔らかく響いた。
その夜、僕は小さな封書を開いた。
差出人は――アンドリュー王太子。
“婚儀の報を聞いた。心から祝福する。
エリアス、君と隣に立てるマクシミリアンが羨ましい。
どうか、彼を支え、彼と共に歩んでほしい。
いつかまた、穏やかな日々の中で会えることを願って。”
僕は手紙を胸に当て、静かに目を閉じた。
過去の痛みは、もう遠い記憶のように感じられる。
それでも、あの時間があったからこそ、今があるんだと思えた。
バルコニーに出ると、マクシミリアン殿下が待っていた。
夕陽に染まる空の下で穏やかに微笑んでいる。
「家族に会えて、よかったな」
「うん。みんな、すごく優しかった」
「そうだな。君を愛している人たちだからな」
そう言って、マクシミリアン殿下が手を伸ばし、僕の頬を包んだ。
「私も、同じように君を愛していくよ」
その言葉に、胸が満たされていく。
殿下は僕の唇にそっと口付けた。
春の風が二人の間を抜けて、
庭の白花をやさしく揺らした。
――ここが、僕の帰る場所。
故郷も、家族も、そして彼も。
全部が繋がって、いま、ひとつになる。
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けれど、
この春だけは──僕たちだけの永遠だった。
(完)
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