(新章開始)当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音

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当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている

祝福の始まり⑥

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バルコニーでのお披露目の後は、馬車に乗ってのパレードだった。

馬車がゆっくりと動き出すと、沿道に詰めかけた人々の歓声が風に乗って届いた。
子どもたちの小さな手が空に伸び、花びらや色とりどりのリボンが舞う。
僕の胸は緊張と興奮で高鳴る――これほど多くの目に、僕たちが祝福されるのは初めてだ。

「エリアス、手を振って」
マクシミリアン殿下が微笑みながら隣で言った。
殿下の眼差しはいつも通り温かく、どんな困難も僕を包み込んでくれるようだ。
その手を握り返すだけで、怖さは少しだけ和らぐ。

僕たちの馬車は二列目。
一列目には国王陛下夫妻が座し、威厳を保ちながらも、時折笑みを浮かべて民衆に手を振る。
その姿を見て、僕は王族としての責任と、家族の温かさを同時に感じた。

三列目にはアンドリア王子とレイナ様。
「エリアス、顔がこわばってるわよ、もっと微笑んで」
レイナ様がからかうように声をかけると、アンドリア王子はにやりと笑い、軽く手を振った。
二人は慣れている。
僕は思わず頬を赤くして手を振り返す。

沿道の人々の声援はひときわ大きく、精霊の光が僕の周りで舞い、花びらと混ざり合ってきらきらと輝く。
小さな子どもたちが目を輝かせて僕たちを見つめる。
僕は光の力を使って、そっと舞う花びらを子どもたちにふわりと運ぶと、歓声が一層大きくなった。

「君の光は、人々を幸せにするね」
マクシミリアン殿下が耳元で囁く。
「はい。でも……殿下と一緒だと心から安心できます」
僕は自然に笑い返す。
手を握るその感触が、どんな魔獣よりも強くて、そして大きな安心感をくれる。

馬車はゆっくりと街の広場へ向かい、沿道の人々は手を振り、花を投げ、僕たちの通過を祝う。
祝福の声、精霊の光、花びらの舞う景色――世界が僕たち二人の結びを祝ってくれているようだった。

初めての民衆との触れ合いは、想像以上に心を温め、そして力を与えてくれる。
僕たちは、この光の中で、新しい生活と、これからの戦いに向けた決意を新たにした。


それから僕たちは豪華な祝宴会場に足を踏み入れた。
シャンデリアの光がきらきらと反射し、壁一面の金糸の装飾や花々が輝いていた。
着飾った貴族たちの目は僕たち二人に注がれていて、胸の奥がちょっと高鳴る。

「さあ、エリアス、手を」
マクシミリアン殿下が手を差し伸べる。
「……はい」
小さく頷き、手を重ねると、彼の掌の温かさが心を落ち着かせる。
「君は光そのものだ。皆を照らしている」
耳元で囁かれ、思わず頬が赤くなる。

その隣で、レイナ様がアンドリア王子と楽しそうに話している。
「エリアス様、さっきからずっとマクシミリアン殿下の手、握りっぱなし」
「今日は、甘えてしまいますね……でも可愛い」
アンドリア王子が口元に笑みを浮かべる。
「まあ、結婚式だから仕方ないわね」
レイナ様の軽口に、思わず二人で吹き出す。

ダンスの時間になり、音楽が流れると、王族や貴族たちも順に輪に加わる。
「エリアス、私と一緒に、踊ろう」
マクシミリアン殿下が微笑みながら、エスコートしてくれる。
ステップを踏むたび、体の距離が自然と近くなり、殿下の腕に包まれる安心感が心地よい。
「緊張しなくていい、私がいる」
殿下の声に、体も心もふわりとほどける。

一方で、レイナ様とアンドリア王子は楽しそうに僕たちを観察している。
「やっぱりあの二人、手放しでラブラブね……」
「いいなあ、俺たちも負けてられないぞ」
軽く突っ込みを入れながらも、祝宴の場を和ませる。
時折、レイナ様が僕の方を見て、ちょっとした助言をしてくれる。
「笑顔を忘れずにね」
その言葉に従って微笑むと、周りから歓声が上がる。

踊り終えた後、広間の片隅で一息つくと、マクシミリアン殿下がそっと手を握ってくる。
「エリアス、君と一緒にいるだけで、私は幸せだ」
「僕も……マクシミリアン殿下となら、どんな困難も乗り越えられる気がします」
自然と僕たちの間に静かな誓いが生まれる。

祝宴の華やかさ、民衆の笑顔、親しい仲間たちの掛け合い――
全てが、僕たちの結婚を祝福していることを実感させ、胸に温かさを残した。
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