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当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている
祝福の始まり⑦
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結婚の祝宴から数日。
王都はまだ、祝福の余韻に包まれていた。
街のあちこちに掲げられた花飾りが風に揺れ、人々は微笑みながら新しい王太子夫妻の名を口にしていた。
けれど、その中心にいるはずの僕は、少しだけ緊張していた。
今日から——殿下と同じ宮で暮らすから。
新居となるのは、紅炎宮(こうえんきゅう)。
王族の中でも特に王太子の住まう宮として新たに整えられた場所で、
真紅の屋根瓦と白い石造りの回廊が印象的な、美しい宮殿だ。
“紅炎”の名は、マクシミリアン殿下の二つ名にちなんで国王陛下が贈られたものだという。
——朝。
僕は光明宮での最後の祈りを終え、マルクとレイナ様に見送られながら紅炎宮へ向かった。
春の風が柔らかく頬を撫で、遠くで鳥が歌っている。
門をくぐると、光の粒がふわりと舞った。
精霊たちが、祝福しているのがわかる。
その光景を見て、マクシミリアン殿下が微笑んだ。
「気に入ってもらえるといいが。君のために、庭も光の精霊が好むよう造らせたんだ。」
「……本当に、殿下が?」
「もちろん。君がここで心安らかに過ごせるように、と思ってね。」
その言葉に胸が熱くなる。
マクシミリアン殿下の言葉にはいつも、まっすぐな優しさがあった。
そしてそれが、僕の不安を静かに溶かしていく。
案内された部屋は、明るく静かな空間だった。
大きな窓から光が差し込み、床には柔らかな絨毯。
ベランダの外には、白い花が咲く庭が広がっている。
風が吹くたび、花弁が舞い上がり、まるで光そのもののようにきらめいた。
「ここが……僕の、部屋……」
僕が小さく呟くと、背後からマクシミリアン殿下が笑う。
「“私たちの部屋”だろう?」
顔が一気に熱くなる。
振り返ると、殿下はいつものように落ち着いた笑みを浮かべているが、
その瞳の奥には、どこか甘い光が宿っていた。
「怖くないか?」
「……すこしだけ。でも、殿下がいらっしゃいます……」
「ならいい」
マクシミリアン殿下は僕の手を取り、指先に口づけを落とした。
「ここで、君と新しい日々を始められる。それだけで十分だ。」
僕の胸に、温かな光が広がる。
この宮はまだ静かで、少し広すぎる気もするけれど——
殿下と歩く一歩一歩が、きっとこの場所を「家」に変えていくのだと思えた。
庭の外では、春風に乗って鐘の音が響いていた。
新しい暮らしの始まりを祝福するように、紅炎宮は光に包まれていた。
その夜。
新しい宮は静かだった。
壁も天井も白く、風が通るたびに小さな音を立てる。
昼間の祝宴のざわめきが嘘のように、夜の紅炎宮は息を潜めている。
僕は大きな寝台の端に腰を下ろし、窓の外の月を見上げた。
こんなにも広い宮に、今夜から自分は住むのだと思うと、胸の奥がふわふわと落ち着かない。
「……ちょっと、広すぎる気がします」
思わず小さく呟いたとき、背後から穏やかな声が届いた。
「怖い?」
振り向くと、マクシミリアン殿下が立っていた。
夜着姿の彼は、昼の威厳を脱いで、どこか柔らかい表情をしていた。
髪をほどいた姿は、まるで月明かりの中に溶け込むようで——思わず見惚れてしまう。
「……少しだけ。
こんなに静かな夜、久しぶりで」
マクシミリアン殿下が近づいてきて、僕の隣に腰を下ろした。
その距離は、昼間よりもずっと近い。
体温が触れ合いそうなほどで、鼓動が早くなる。
「紅炎宮は、昔は儀礼用に使われていた。でも今夜からは君の家だ。
……落ち着くまで、そばにいるよ」
その言葉に、心が少しほどける。
小さく笑って、そっとマクシミリアン殿下の肩にもたれた。
「本当に……? 僕、甘えてばかりです」
「甘えてほしいんだ。君がそうしてくれるのが嬉しい」
マクシミリアン殿下が笑いながら、僕の髪を指先で梳いた。
その仕草があまりに優しくて、胸がきゅっと締めつけられる。
「ねえ、マクシミ」
「うん?」
「……舞踏会、楽しかったです。
手を取ってくれたとき、すごく安心しました」
「君が笑ってくれたら、それだけで十分だよ。
エリアスは舞台の上で輝いていた。
誰よりも、美しかった」
マクシミリアン殿下の声が低く落ちて、耳の奥に響いた。
思わず頬が熱くなる。
「そんなふうに言われたら……照れてしまいます」
殿下も笑って、ひととき、穏やかな時間が流れる。
精霊たちが僕たちの夜を見守ってくれている。
「君を抱いてもいいだろうか」
マクシミリアン殿下の目は真剣だ。
「はい……」
僕は殿下の顔を見上げて、
「マクシミィ、僕を抱いてください」
僕の言葉に、殿下の目が優しく、そして、雄の目になって、笑った。
そのまま唇が触れる。
「君を愛してる、エリアス……」
僕は小さく頷いて、彼の胸元に顔を埋めた。
心臓の音が穏やかに響いて、やがて眠気がそっと忍び寄る。
——ここが、私の居場所なんだ。
そう思っていると、殿下は顎をすくって唇を落とす。長い長いキス。
殿下の手が背中を撫でても、口付けが終わらない。
殿下に抱かれるんだ……
これから何が起こるのかの不安と、殿下への愛おしさでいっぱいだった。
紅炎宮の外では、風が薔薇の花を揺らし、月光が窓辺を照らしていた。
新しい夫婦の夜は、静かに、幸福に、更けていった。
王都はまだ、祝福の余韻に包まれていた。
街のあちこちに掲げられた花飾りが風に揺れ、人々は微笑みながら新しい王太子夫妻の名を口にしていた。
けれど、その中心にいるはずの僕は、少しだけ緊張していた。
今日から——殿下と同じ宮で暮らすから。
新居となるのは、紅炎宮(こうえんきゅう)。
王族の中でも特に王太子の住まう宮として新たに整えられた場所で、
真紅の屋根瓦と白い石造りの回廊が印象的な、美しい宮殿だ。
“紅炎”の名は、マクシミリアン殿下の二つ名にちなんで国王陛下が贈られたものだという。
——朝。
僕は光明宮での最後の祈りを終え、マルクとレイナ様に見送られながら紅炎宮へ向かった。
春の風が柔らかく頬を撫で、遠くで鳥が歌っている。
門をくぐると、光の粒がふわりと舞った。
精霊たちが、祝福しているのがわかる。
その光景を見て、マクシミリアン殿下が微笑んだ。
「気に入ってもらえるといいが。君のために、庭も光の精霊が好むよう造らせたんだ。」
「……本当に、殿下が?」
「もちろん。君がここで心安らかに過ごせるように、と思ってね。」
その言葉に胸が熱くなる。
マクシミリアン殿下の言葉にはいつも、まっすぐな優しさがあった。
そしてそれが、僕の不安を静かに溶かしていく。
案内された部屋は、明るく静かな空間だった。
大きな窓から光が差し込み、床には柔らかな絨毯。
ベランダの外には、白い花が咲く庭が広がっている。
風が吹くたび、花弁が舞い上がり、まるで光そのもののようにきらめいた。
「ここが……僕の、部屋……」
僕が小さく呟くと、背後からマクシミリアン殿下が笑う。
「“私たちの部屋”だろう?」
顔が一気に熱くなる。
振り返ると、殿下はいつものように落ち着いた笑みを浮かべているが、
その瞳の奥には、どこか甘い光が宿っていた。
「怖くないか?」
「……すこしだけ。でも、殿下がいらっしゃいます……」
「ならいい」
マクシミリアン殿下は僕の手を取り、指先に口づけを落とした。
「ここで、君と新しい日々を始められる。それだけで十分だ。」
僕の胸に、温かな光が広がる。
この宮はまだ静かで、少し広すぎる気もするけれど——
殿下と歩く一歩一歩が、きっとこの場所を「家」に変えていくのだと思えた。
庭の外では、春風に乗って鐘の音が響いていた。
新しい暮らしの始まりを祝福するように、紅炎宮は光に包まれていた。
その夜。
新しい宮は静かだった。
壁も天井も白く、風が通るたびに小さな音を立てる。
昼間の祝宴のざわめきが嘘のように、夜の紅炎宮は息を潜めている。
僕は大きな寝台の端に腰を下ろし、窓の外の月を見上げた。
こんなにも広い宮に、今夜から自分は住むのだと思うと、胸の奥がふわふわと落ち着かない。
「……ちょっと、広すぎる気がします」
思わず小さく呟いたとき、背後から穏やかな声が届いた。
「怖い?」
振り向くと、マクシミリアン殿下が立っていた。
夜着姿の彼は、昼の威厳を脱いで、どこか柔らかい表情をしていた。
髪をほどいた姿は、まるで月明かりの中に溶け込むようで——思わず見惚れてしまう。
「……少しだけ。
こんなに静かな夜、久しぶりで」
マクシミリアン殿下が近づいてきて、僕の隣に腰を下ろした。
その距離は、昼間よりもずっと近い。
体温が触れ合いそうなほどで、鼓動が早くなる。
「紅炎宮は、昔は儀礼用に使われていた。でも今夜からは君の家だ。
……落ち着くまで、そばにいるよ」
その言葉に、心が少しほどける。
小さく笑って、そっとマクシミリアン殿下の肩にもたれた。
「本当に……? 僕、甘えてばかりです」
「甘えてほしいんだ。君がそうしてくれるのが嬉しい」
マクシミリアン殿下が笑いながら、僕の髪を指先で梳いた。
その仕草があまりに優しくて、胸がきゅっと締めつけられる。
「ねえ、マクシミ」
「うん?」
「……舞踏会、楽しかったです。
手を取ってくれたとき、すごく安心しました」
「君が笑ってくれたら、それだけで十分だよ。
エリアスは舞台の上で輝いていた。
誰よりも、美しかった」
マクシミリアン殿下の声が低く落ちて、耳の奥に響いた。
思わず頬が熱くなる。
「そんなふうに言われたら……照れてしまいます」
殿下も笑って、ひととき、穏やかな時間が流れる。
精霊たちが僕たちの夜を見守ってくれている。
「君を抱いてもいいだろうか」
マクシミリアン殿下の目は真剣だ。
「はい……」
僕は殿下の顔を見上げて、
「マクシミィ、僕を抱いてください」
僕の言葉に、殿下の目が優しく、そして、雄の目になって、笑った。
そのまま唇が触れる。
「君を愛してる、エリアス……」
僕は小さく頷いて、彼の胸元に顔を埋めた。
心臓の音が穏やかに響いて、やがて眠気がそっと忍び寄る。
——ここが、私の居場所なんだ。
そう思っていると、殿下は顎をすくって唇を落とす。長い長いキス。
殿下の手が背中を撫でても、口付けが終わらない。
殿下に抱かれるんだ……
これから何が起こるのかの不安と、殿下への愛おしさでいっぱいだった。
紅炎宮の外では、風が薔薇の花を揺らし、月光が窓辺を照らしていた。
新しい夫婦の夜は、静かに、幸福に、更けていった。
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