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当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている
北への進軍⑧
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朝の光が王宮に差し込む頃、僕は目を覚ました。
昨夜の温もりと笑いが、まだ胸の奥で温かく残っている。
マルクはいつも通りそばにいて、静かに荷物を整えていた。
「おはようございます、エリアス様。
準備は整いました」
「ありがとう、マルク」
深く息を吸い込み、僕は大きなベッドを離れた。
僕の心の中は、マクシミリアン殿下への想いと、王太子妃としての自覚――そして、旅立つ自分への覚悟が混ざり合っていた。
「さあ、行こう……」
マルクとともに、王都の門へ向かう足取りは軽くはないが、確かに前を向いていた。
城門を出れば、そこから新たな日々が始まる。
朝靄の中、王都の門前には小さな人の輪ができていた。
僕を見送るために集まった侍女や兵士、使用人たち。
みな、王太子妃を心から敬い、そして案じている。
「エリアス様……どうかご無事で」
僕は一人ひとりに微笑みを返す。
「ありがとう。みんなも、体に気をつけて」
もう気持ちは穏やかで、夜の不安をもう感じさせない。
秋の風が頬を撫で、遠くの空に淡い雲が流れていく。
――殿下、きっと今も、この空の下で。
胸の奥に、マクシミリアン殿下の笑顔がよみがえる。
振り返れば、レイナ様やアンドリア王子、侍従たちが静かに頭を下げていた。
誰も声を上げず、ただ温かな沈黙の中で見送っている。
その静けさが、何よりの絆の証だった。
蹄の音が遠ざかるにつれて、王都の門の前に朝の光が満ちていく。
朝の王都はまだ薄曇りで、石畳の中庭には馬車が整然と並んでいた。
レイナ様は微笑みながらも目を潤ませ、マルクは静かに頭を下げる。
僕は振り返らず、扉の段を上がった。
見送る人々の顔を見ると、心が揺れるのがわかったから。
「では、行ってまいります」
声を残し、扉が閉まる。
蹄の音が石畳を離れ、王都の塔が遠く霞む。
胸の奥にぽっかりと空洞が広がったが、僕は深く息を吸い、背筋を伸ばした。
「殿下に恥じぬように」――その思いだけが胸にあった。
馬車の中には、リュシアンが既に座っていた。
書類を膝に広げ、ペンを走らせながら、僕をちらりと見る。
だが表情は冷静で、感情はほとんど読み取れない。
リュシアンは二十代後半~三十代前半くらい、無口で冷静。
マクシミリアン殿下が「困ったときに支えになれるように」と付けてくれた側付きの書記官。
「王太子妃殿下、これからの行程表です」
淡々と手渡される書類に、小さく頭を下げた。
「ありがとうございます……」
緊張する。
馬車が揺れ始める。
舗装されていない道に車輪がはまるたび、衝撃が背中に伝わった。
揺れる身体を押さえながら、僕はリュシアンの顔を見る。
だが彼はペンを止めず、淡々と作業を続けている。
他の随行者たちは少しずつ打ち解けて、談笑する声も聞こえる。
魔導士と医官。
だがリュシアンは黙したまま、必要なことだけを告げる。
その冷たさが、僕を孤独をさせた。
昼が過ぎ、馬車は丘陵地帯を越え、中規模都市の外れにある詰所に到着した。
石造りの建物は簡素で、王宮の離れとはまったく違う。
驚いて、目を見開く。
「……ここが宿泊場所ですか」
リュシアンは無表情のまま頷く。
「はい。初日の宿泊地としては妥当です」
荷を下ろし、簡素な寝台に案内されると、僕は小さく息をついた。
広くはない部屋に、硬いベッドと粗い毛布。
王宮の寝室を思い出し、胸がぎゅっと締め付けられた。
夕食は皆と同じ鍋の煮込み。
木の器を両手で受け取り、慎重に口へ運ぶ。
味は素朴で、塩気が強い。
体に染みる温かさに、ほっと息が漏れた。
「殿下、お口に合いませんでしたか?」
リュシアンが気づかって尋ねる。
僕は首を振り、微笑んでみせた。
「……温かくて、とてもありがたいです」
リュシアンは何も言わず、淡々と自分の食事を続けている。
愛想がないのは、僕のせい?
その態度が、孤独感を少し強める。
寝台に横たわると、硬い板の感触が背に伝わった。
窓の外には夜の森の影。
マクシミリアン殿下を思い出して、胸の上で指を組んだ。
――殿下も、今ごろ空を見ているのかな。
同じ星の下で、僕も頑張っていると、伝わるといいな。
そのまま、いつしか眠りに落ちた。
夢の中で、遠く蹄の音が響いた。
それが朝を告げる音か、記憶の残響か、わからなかった。
昨夜の温もりと笑いが、まだ胸の奥で温かく残っている。
マルクはいつも通りそばにいて、静かに荷物を整えていた。
「おはようございます、エリアス様。
準備は整いました」
「ありがとう、マルク」
深く息を吸い込み、僕は大きなベッドを離れた。
僕の心の中は、マクシミリアン殿下への想いと、王太子妃としての自覚――そして、旅立つ自分への覚悟が混ざり合っていた。
「さあ、行こう……」
マルクとともに、王都の門へ向かう足取りは軽くはないが、確かに前を向いていた。
城門を出れば、そこから新たな日々が始まる。
朝靄の中、王都の門前には小さな人の輪ができていた。
僕を見送るために集まった侍女や兵士、使用人たち。
みな、王太子妃を心から敬い、そして案じている。
「エリアス様……どうかご無事で」
僕は一人ひとりに微笑みを返す。
「ありがとう。みんなも、体に気をつけて」
もう気持ちは穏やかで、夜の不安をもう感じさせない。
秋の風が頬を撫で、遠くの空に淡い雲が流れていく。
――殿下、きっと今も、この空の下で。
胸の奥に、マクシミリアン殿下の笑顔がよみがえる。
振り返れば、レイナ様やアンドリア王子、侍従たちが静かに頭を下げていた。
誰も声を上げず、ただ温かな沈黙の中で見送っている。
その静けさが、何よりの絆の証だった。
蹄の音が遠ざかるにつれて、王都の門の前に朝の光が満ちていく。
朝の王都はまだ薄曇りで、石畳の中庭には馬車が整然と並んでいた。
レイナ様は微笑みながらも目を潤ませ、マルクは静かに頭を下げる。
僕は振り返らず、扉の段を上がった。
見送る人々の顔を見ると、心が揺れるのがわかったから。
「では、行ってまいります」
声を残し、扉が閉まる。
蹄の音が石畳を離れ、王都の塔が遠く霞む。
胸の奥にぽっかりと空洞が広がったが、僕は深く息を吸い、背筋を伸ばした。
「殿下に恥じぬように」――その思いだけが胸にあった。
馬車の中には、リュシアンが既に座っていた。
書類を膝に広げ、ペンを走らせながら、僕をちらりと見る。
だが表情は冷静で、感情はほとんど読み取れない。
リュシアンは二十代後半~三十代前半くらい、無口で冷静。
マクシミリアン殿下が「困ったときに支えになれるように」と付けてくれた側付きの書記官。
「王太子妃殿下、これからの行程表です」
淡々と手渡される書類に、小さく頭を下げた。
「ありがとうございます……」
緊張する。
馬車が揺れ始める。
舗装されていない道に車輪がはまるたび、衝撃が背中に伝わった。
揺れる身体を押さえながら、僕はリュシアンの顔を見る。
だが彼はペンを止めず、淡々と作業を続けている。
他の随行者たちは少しずつ打ち解けて、談笑する声も聞こえる。
魔導士と医官。
だがリュシアンは黙したまま、必要なことだけを告げる。
その冷たさが、僕を孤独をさせた。
昼が過ぎ、馬車は丘陵地帯を越え、中規模都市の外れにある詰所に到着した。
石造りの建物は簡素で、王宮の離れとはまったく違う。
驚いて、目を見開く。
「……ここが宿泊場所ですか」
リュシアンは無表情のまま頷く。
「はい。初日の宿泊地としては妥当です」
荷を下ろし、簡素な寝台に案内されると、僕は小さく息をついた。
広くはない部屋に、硬いベッドと粗い毛布。
王宮の寝室を思い出し、胸がぎゅっと締め付けられた。
夕食は皆と同じ鍋の煮込み。
木の器を両手で受け取り、慎重に口へ運ぶ。
味は素朴で、塩気が強い。
体に染みる温かさに、ほっと息が漏れた。
「殿下、お口に合いませんでしたか?」
リュシアンが気づかって尋ねる。
僕は首を振り、微笑んでみせた。
「……温かくて、とてもありがたいです」
リュシアンは何も言わず、淡々と自分の食事を続けている。
愛想がないのは、僕のせい?
その態度が、孤独感を少し強める。
寝台に横たわると、硬い板の感触が背に伝わった。
窓の外には夜の森の影。
マクシミリアン殿下を思い出して、胸の上で指を組んだ。
――殿下も、今ごろ空を見ているのかな。
同じ星の下で、僕も頑張っていると、伝わるといいな。
そのまま、いつしか眠りに落ちた。
夢の中で、遠く蹄の音が響いた。
それが朝を告げる音か、記憶の残響か、わからなかった。
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