(新章開始)当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音

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当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている

束の間の安息、迫りくる試練 『マクシミリアン』①

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森の奥深くに進む馬の蹄音。
私は戦の前方に立ち、剣を握りながら、心の奥でつぶやく。

——エリアス……無事に王都に戻れただろうか。

——この討伐遠征は、君の加護の力でここまで順調に進んできたのに……
 

目を閉じれば、遠くに感じるエリアスの力。
エリアスの存在が、どれほど心強く、自分たちを支えてくれているか——感謝と共に胸が熱くなる。

しかし同時に、悔しさと後悔も湧き上がった。


——か弱いエリアスを戦地に赴かせてしまったこと
(エリアスは王都にとどまっていたほうがよかったんじゃないか)

——先行して自分が離れてしまったことで、苦労させてしまったこと
(リュシアンを側付きにしたが、かえって寂しい思いをしたのではないか)

——体調が悪い時に、そばにいてやれなかった虚しさ
(一番つらいときに一緒にいてやれないことが悔しい)

剣を握る手に力が入る。
この森の瘴気の濃さも、仲間たちと共に乗り越えてみせよう——エリアスのために。

魔導士のカイや他の戦士たちと連携し、瘴気の森を進んでいく。
魔法と剣が光と音を放ち、ヴァルデシアの封印されていた場所に到着したのは、出発から一週間後のことだった。


一際、強い瘴気が覆い、息が苦しくなる。
封印に耐えられず暴れ出した魔獣たちがウヨウヨいる。

魔導士のカイがあたりに結界を張る。
「エリアス殿下の加護のおかげです」
カイが私に伝えてくれる。
遠く離れていても、一緒に戦っている、と思える。

私は仲間と声を合わせ、戦闘態勢を整える。
カイの魔術が先陣を切り、戦士たちが側面から攻撃。
剣を振るう私には、戦う仲間たちの力と、遠くで支えてくれるエリアスの加護が映っていた。

力を合わせて、徐々に魔獣たちを討ち、森の奥深くに眠っていた瘴気の源を封印できた。
一つひとつの戦いの中で、私は胸の中で誓う。

——エリアスを二度と危険に晒さない、必ず守る、と。

一つの戦闘が終わった時、森には静寂が戻る。

勝利の喜びよりも、まず胸をよぎるのは、エリアスが安全でいることへの安堵だった。


瘴気の源を封印できたので、さらに奥へと進む。
ヴァルデシアの姿は森の奥だ。
ヴァルデシアの放つ瘴気が濃く立ち込める中、私は剣を握り、前方で咆哮する大きなヴァルデシアを睨む。
私の背後には、カイや戦士たちが控え、魔法と剣で連携を取りながら進む。

「カイ、封印の準備は?」
「はい、殿下。ヴァルデシアの勢いが弱まった時点で術をかけます!」

ヴァルデシアが牙を剥き、瘴気を巻き上げながら突進してくる。
魔術の力をこめた剣を振るい、仲間たちと防御陣を組むが、森の魔力は容赦なく我々を押し潰そうとした。

 
その瞬間、胸の奥に温かい光が差し込む。
柔らかく、しかし力強く、私を包む光。

——エリアス……?




遠く離れた王都、離宮の自室で、休むエリアスは聖印が微かにあたたかく光を放っているのに気づく。
エリアスは聖印に手を添え、祈りの力を送った。
その光が、マクシミリアンを支え、彼を光のヴェールで覆う。
そして、力を漲らせ、戦士たちの体にも力が伝わっていく。
傷を負った仲間の体力を回復させ、
魔力を増幅させるような不思議な力。



「……これは……!」
思わず呟きながら、私は剣を振るう。
光に包まれた自分を通して、仲間たちもまた力を得て、ヴァルデシアに立ち向かう。

カイが封印の魔法陣を描き、瘴気の渦を縛り上げる。
私はその隙を突き、ヴァルデシアにとどめの一撃を放つ。
ヴァルデシアの咆哮と共に、瘴気の渦が吸い込まれ、森に静寂が戻った。

私は剣を下ろし、息を整える。
温かい光がまだ自分を包んでいる。

——エリアス……君の加護が、こうして俺たちを守ってくれたのか。

戦士たちも息を整え、互いに安堵の表情を交わす。
私は、光に感謝を込めて目を閉じる。

——無事に生き延びたのは、エリアス、君のおかげだ。
必ず、王都で会おう——

森にはもう、瘴気の匂いも残っていなかった。
私の胸には、戦いの疲労よりも、離れていても支えてくれるエリアスへの感謝と愛情が深く刻まれていた。
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