(新章開始)当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音

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公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる(番外編)

夜会に咲く約束

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舞踏会の日。
僕の手元には、ひと足早く届いていた衣装がある。
淡いクリーム色の男性用のドレスに、控えめな金の刺繍――しかしそれだけではない。
袖口や胸元に、アンドリュー殿下の好きな青のラインが、でも主張しすぎず、僕の好みもちゃんと反映されている。

「……これ、僕のために?」

箱を開けた瞬間、僕の胸が高鳴る。
これは、アンドリュー殿下本人が、僕のことを思って選んでくれたものだ――そう思える、初めてのドレスだった。

舞踏会に到着すると、アンドリュー殿下はすぐに僕を見つけ、微笑みながら歩み寄る。
「ジュリ……君は、とても素敵だ」

手を差し伸べ、そっとエスコートする。
胸元には、あの白薔薇が光っていた。僕の好きな花――そして、アンドリュー殿下の変わらない思いの象徴。

「ジュリ、これを」

アンドリュー殿下は僕の胸元にその白薔薇を差した。

「アンディ様……」

つい、声が震える。周りの喧騒が、遠のいたように感じる。アンドリュー殿下の視線は、他の誰でもなく、自分だけに注がれている。

エリアス様は、舞踏会で華やかな服装で周囲の注目を集めていたが、アンドリュー殿下の元にいるのは自分だという確かな実感が、僕の心を温かく満たした。

「今夜は、僕だけのジュリィと踊れるね」
アンドリュー殿下の囁きに、僕は頬を赤く染め、微笑み返す。

二人で話をしている中、僕の胸には揺るぎない確信があった――アンドリュー殿下の思いは、僕だけに向けられている。

白薔薇が、静かに輝きを増すように、二人の絆も確かに深まっていった。


舞踏会が始まる。
会場はシャンデリアの光で煌めき、優雅な音楽が流れている。

「アンディ……」
僕は視線を落とす。
ファーストダンスは、アンドリュー殿下がエリアス様と踊った。
エリアス様は本当に美しく、舞踏会の華やかさに溶け込んでいて、周囲の視線も彼に集まる。
周囲の声に、僕の胸には、知らず知らずのうちに小さな嫉妬が芽生える。

曲が止む。
次の瞬間、アンドリュー殿下の視線は自分に向けられた。
曲が変わると同時に、アンドリュー殿下は僕の前に現れ、手を差し伸べる。

「ジュリ、踊ってくれないか?」

その声に、僕の心は一気に温かさに包まれる。
嫉妬などは一瞬で溶けて、自然と微笑みがこぼれる。二人で踊り出すと、まるで長年共にした夫婦のような息の合ったダンスで、身体と心が調和する。

会場の喧騒も、光も、遠くに感じられ、僕の視界にはアンドリュー殿下だけが映る。
優しくも力強い手の感触、穏やかな微笑み、そして僕の胸元の白薔薇――すべてが、自分だけのためにあると感じられる瞬間だった。

「ジュリ……君と踊ると、心が落ち着く」
アンドリュー殿下の囁きに、僕は顔を赤く染め、静かに頷く。

嫉妬の感情も、一瞬のものでしかなかった。
僕と、アンディ様の二人の間にあるのは、ずっと変わらない信頼と愛情だった。

舞踏会の灯が煌めく中、僕は胸いっぱいに幸福を感じていた――この夜、そしてこの瞬間が、僕たち二人の関係をさらに深めることを確信しながら。


来たときはまだ明るかった空が夜になり、空気は少し冷たいけれど、舞踏会の煌びやかな光がまだ目に残っている。
僕は、まだ心臓がドキドキしていて、体の奥にあたたかいものが流れているのを感じた。

「ジュリ……」
背後から低く柔らかな声がする。
振り返ると、アンドリュー殿下が笑って立っていた。
その瞳は、舞踏会で見せた真剣な表情のままで、僕だけを見つめている。

「……アンディ様」
つい、小さな声で返す。
言葉が震えるのは、心の奥の想いを隠せないから。

「さっきのダンス、楽しかったな。
君と踊ると、世界が全部、私と君のものみたいに感じるんだ」
アンドリュー殿下の言葉に、僕は胸が熱くなる。
まっすぐすぎて、少し恥ずかしいくらい。

「僕……僕も、アンディ様と踊って、楽しかった……」
口に出してみると、心の中でずっとくすぶっていた不安や自信のなさが、少しずつ溶けていくようだった。

「ジュリィ……ずっと、好きだった」
アンドリュー殿下は少し間を置いて、真剣な顔で言った。
その言葉は、幼いころからずっと繋がっていた二人の時間を、すべて肯定してくれるように響いた。

目を潤ませて、僕も笑顔で頷く。
「僕も……ずっと、アンディ様が好きだった……」

アンドリュー殿下はそっと僕の手を取ると、指先まで温かさを伝わってくる。

「これからは、私の隣にいてほしい。誰よりも、大事な人として」

「……はい」
僕は素直に返す。 
心の中の壁がすっと消え、もう何も隠さずにいられる気がした。

僕たち二人はそのまま静かに見つめ合い、
夜風に揺れる舞踏会の灯りを背に、
やっと、やっとお互いの気持ちを確かめ合ったのだった。


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