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しおりを挟む「エレノア、彼が講師をしてくれるリアン・マクガフィンだよ」
にこにことその優し気な麗しい顔に笑顔を浮かべて、第二王子であるユリウスがそう紹介した。
王女専用の勉強室として設けられた部屋には、エレノアと、第二王子と、紹介されたリアンの三人だけだ。
「お初にお目にかかります、我が太陽の姫。リアン・マクガフィンと申します。この度は御身へ教鞭をとる身に余る幸せを賜り、恐悦至極にございます」
慇懃に礼をとって顔をあげたその男は、キラキラと輝くハニーブロンドに、深い紺碧の瞳を持ち、どちらかというと中性的な顔立ちのユリウスとは違い、シャープな顎のラインと切れ長の瞳が鋭い、魔術師というよりは騎士のような美麗な男だった。
身長もユリウスよりやや高く、ほどよく筋肉もついていそうだ。なるほど、この二人が並んだ絵姿が飛ぶように売れているというエヴァの話は真実のようだ。
もしリアンが魔術師ではなく騎士だったら、ユリウスに付き従う姿に淑女達は阿鼻叫喚であっただろう。
最近巷で流行っている美しい男同士の恋愛小説を思い出して、エレノアは思わず納得してしまう。もしかしたらモデルはこの二人なのかもしれない。
「エレノア?」
挨拶を返さないエレノアに、ユリウスが促してくるのにハッと我に返る。
いけない、そうそうお兄様よりも美しい顔立ちの殿方なんて見ることがないから、じろじろと不躾に見てしまった。淑女としてははしたない行為だ。
エレノアは持っていた扇子でさりげなく口元を隠すと。
「こちらこそ、卿のお噂はかねがね。これから、お手柔らかに頼みます」
そそ、と瞼を伏せて、視線を外す。失礼にならないように視線を胸元へ移動すると。スーツに宮廷魔術師であることを表す片側だけのローブに、金の獅子の勲章がきらめている。
「まぁ、マクガフィン卿は金の獅子勲章を頂いているのね」
金の獅子の勲章はこの国で優秀な臣下に捧げられる名誉ある勲章だ。確か二つとると叙爵もされると聞いたことがある。
思わず呟いたエレノアに、ユリウスが盛大に呆れたため息をついた。
「昨年、大々的に国をあげて勲章授与式を行っただろう。お前は自分に関係ないことに関心がなさすぎる」
「まぁ、お兄様、お言葉ですけれど、昔祭典に出たいと言ったら、エレノアは可愛すぎて大勢の前に出たらまた攫われてしまうといって泣きながら抱きしめてくれたのはお兄様ではなくて?」
「……っそんな大昔の話を引っ張り出すな」
学友の前で、幼い頃の恥ずかしいエピソードを出されたのが気まずかったのか、ユリウスの頬が少し染まって嫌そうに眉を顰める。
「リアン、今の話は忘れろ」
「……は」
こほん、と咳払い一つしてユリウスが言うと、素直にリアンが胸に手をあてて応える。学友とはいっても、臣下としての線引きはしているのね。
しっかりした人物のようで少し安心する。以前、兄の学友を紹介された際、慣れ慣れしくされたことがあり、それが不快だった為、兄に伝えたら、それ以来友人を紹介されることがなくなったのだ。
「じゃぁ、私は執務へ戻る。リアン、くれぐれも妹をよろしく」
「御意に」
ようやくユリウスが退出して、ほっと息をつく。いつまでもユリウスに居座られたら授業が始められないだろう。勉強はしたくないが、時間が長引くのもごめんこうむりたい。
「では、さっそく始めましょうか」
そう言いながら、リアンは教卓の上に分厚い本を置いた。
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