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第二十二話「旅立ちの予感」
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旅をする上で必要なのはなにもポーションだけじゃない。装備品だってそうだが、路銀だって重要だ。ある程度の品質の瓶をそれなりの数作れるようになった俺は、ギルドを通じて瓶を卸すことにした。ポーションもけっこうな量を作ったので甕に入れて売り、着実に貯金を増やしていた。
そんなある日の夜。
俺とエルは、いつものように夕食を終えた後、二人で街をぶらついていた。明日から、クルーア・ダンジョンが再び開放される。ギルドマスター選抜隊による調査が終わり、とりあえずの安全が確保されたらしい。
「……クルーア・ダンジョン、私たちはもう行かないんだよね」
エルの声にはどこか寂しげだった。
「そうだ、俺たちはダンジョンには行かない。もう、旅に出るんだもんな」
「そうだよね。でもちょっと不安だな。実力とか経験とかお金とか、足りないんじゃないかって思うとつい考えが離れなくて」
「……その辺りは俺も不安だ。だけどお金については大丈夫だ。ギルドマスターから、旅の資金として、特別に奨励金が支給されたんだ。俺が錬金術で作った高品質のポーションが、選抜隊の調査で役立ったから、その功績としてらしい」
ギルドマスターは、「この町の冒険者ギルドが、お前たちのような有望な若者を支援するのは当然だ」と、気前よく差し出してくれた。そのおかげで、旅の資金は十分すぎるほど手元にある。
「それに、六足大鎧の件があったからな。ダンジョンの調査が済んでも、何が起きるかわからない。あまり長居するのは得策じゃない」
俺の言葉に、エルも頷いた。彼女もまた、あの不気味な魔物の気配を肌で感じていたからだ。
俺たちは、翌日から旅の準備を始めた。錬金術で作ったポーションや、携行食、簡易的な寝袋などを買い揃え、リュックサックに詰めていく。全てを収納に入れてもいいが、エルも取り出せるようにある程度の分散はしておきたい。
エルは、新しい矢筒と、使い慣れた弓の予備の弦を準備していた。
準備が整った日の夜。
俺は、ルッテンたちと酒場で食事をすることにした。旅立つ前に、世話になった人たちに挨拶をしておきたかったのだ。
指定された酒場に入ると、ルッテン、ヴェン、セレス、そしてナーダの四人が、すでに席に着いていた。グローツの姿はない。
「よう、ナオ。まさかお前らと酒を酌み交わす日が来るとはな」
ルッテンが、豪快な笑い声で俺を迎え入れた。
「俺だって、こんなベテラン冒険者たちと飲めるなんて光栄だよ」
俺は照れ隠しにそう返し、エルと共に席に着いた。
ルッテンは肉料理を、ヴェンは魚料理を、セレスは野菜のグリルを、そしてナーダはひたすら酒を飲んでいた。
しばしの間、ダンジョンでの冒険話や、ギルドの噂話に花を咲かせた後、俺は切り出すことにした。
「実は、明日、この町を出て、旅に出ようと思ってるんだ」
俺の言葉に、四人の手が止まった。
「旅、か……」
ルッテンが、どこか寂しそうな目で俺を見つめる。
「そうか……、まぁ、頑張れよ」
「短い付き合いだが、ナオとエルなら大丈夫だと思うよ」
「私たちが教えられることは、もうあまりないわ。でも、これだけは覚えておいてほしい。危険なのはダンジョンや魔物だけじゃない」
セレスが、真剣な眼差しで俺たちに忠告する。
「特に、お前が錬金術師だとバレたら、色々なヤツらが寄ってくるだろう。用心しろよ。なんせめっぽう珍しいからな」
ナーダが、俺に忠告した。
俺は、この世界の錬金術師がどれほど希少で、貴重な存在なのかを改めて知る。もしかしたら、グローツもそのことを知っていて、俺を試したのかもしれない。
「ありがとう。二人とも、気をつけて」
ルッテンが立ち上がり、俺とエルを強く抱きしめた。
「また会おう。どこかで、お前たちの噂を聞ける日を楽しみにしている」
「うん、きっと!」
俺たちは、それぞれの杯を一気に飲み干した。酒場の外に出ると、ルッテンたちがまだ見送ってくれている。
「ルッテンさんたちも、お元気で!」
エルが手を振ると、ナーダが静かに頷き、ヴェンがにこやかに笑い、セレスが手を振り返してくれた。
「じゃあな、ナオ! エル!」
最後に、ルッテンが大きく手を振った。
俺たちは、彼らに別れを告げ、旅立ちの夜を、静かに歩み始めた。出立は明日。今日はゆっくりと休むことにしよう。
そんなある日の夜。
俺とエルは、いつものように夕食を終えた後、二人で街をぶらついていた。明日から、クルーア・ダンジョンが再び開放される。ギルドマスター選抜隊による調査が終わり、とりあえずの安全が確保されたらしい。
「……クルーア・ダンジョン、私たちはもう行かないんだよね」
エルの声にはどこか寂しげだった。
「そうだ、俺たちはダンジョンには行かない。もう、旅に出るんだもんな」
「そうだよね。でもちょっと不安だな。実力とか経験とかお金とか、足りないんじゃないかって思うとつい考えが離れなくて」
「……その辺りは俺も不安だ。だけどお金については大丈夫だ。ギルドマスターから、旅の資金として、特別に奨励金が支給されたんだ。俺が錬金術で作った高品質のポーションが、選抜隊の調査で役立ったから、その功績としてらしい」
ギルドマスターは、「この町の冒険者ギルドが、お前たちのような有望な若者を支援するのは当然だ」と、気前よく差し出してくれた。そのおかげで、旅の資金は十分すぎるほど手元にある。
「それに、六足大鎧の件があったからな。ダンジョンの調査が済んでも、何が起きるかわからない。あまり長居するのは得策じゃない」
俺の言葉に、エルも頷いた。彼女もまた、あの不気味な魔物の気配を肌で感じていたからだ。
俺たちは、翌日から旅の準備を始めた。錬金術で作ったポーションや、携行食、簡易的な寝袋などを買い揃え、リュックサックに詰めていく。全てを収納に入れてもいいが、エルも取り出せるようにある程度の分散はしておきたい。
エルは、新しい矢筒と、使い慣れた弓の予備の弦を準備していた。
準備が整った日の夜。
俺は、ルッテンたちと酒場で食事をすることにした。旅立つ前に、世話になった人たちに挨拶をしておきたかったのだ。
指定された酒場に入ると、ルッテン、ヴェン、セレス、そしてナーダの四人が、すでに席に着いていた。グローツの姿はない。
「よう、ナオ。まさかお前らと酒を酌み交わす日が来るとはな」
ルッテンが、豪快な笑い声で俺を迎え入れた。
「俺だって、こんなベテラン冒険者たちと飲めるなんて光栄だよ」
俺は照れ隠しにそう返し、エルと共に席に着いた。
ルッテンは肉料理を、ヴェンは魚料理を、セレスは野菜のグリルを、そしてナーダはひたすら酒を飲んでいた。
しばしの間、ダンジョンでの冒険話や、ギルドの噂話に花を咲かせた後、俺は切り出すことにした。
「実は、明日、この町を出て、旅に出ようと思ってるんだ」
俺の言葉に、四人の手が止まった。
「旅、か……」
ルッテンが、どこか寂しそうな目で俺を見つめる。
「そうか……、まぁ、頑張れよ」
「短い付き合いだが、ナオとエルなら大丈夫だと思うよ」
「私たちが教えられることは、もうあまりないわ。でも、これだけは覚えておいてほしい。危険なのはダンジョンや魔物だけじゃない」
セレスが、真剣な眼差しで俺たちに忠告する。
「特に、お前が錬金術師だとバレたら、色々なヤツらが寄ってくるだろう。用心しろよ。なんせめっぽう珍しいからな」
ナーダが、俺に忠告した。
俺は、この世界の錬金術師がどれほど希少で、貴重な存在なのかを改めて知る。もしかしたら、グローツもそのことを知っていて、俺を試したのかもしれない。
「ありがとう。二人とも、気をつけて」
ルッテンが立ち上がり、俺とエルを強く抱きしめた。
「また会おう。どこかで、お前たちの噂を聞ける日を楽しみにしている」
「うん、きっと!」
俺たちは、それぞれの杯を一気に飲み干した。酒場の外に出ると、ルッテンたちがまだ見送ってくれている。
「ルッテンさんたちも、お元気で!」
エルが手を振ると、ナーダが静かに頷き、ヴェンがにこやかに笑い、セレスが手を振り返してくれた。
「じゃあな、ナオ! エル!」
最後に、ルッテンが大きく手を振った。
俺たちは、彼らに別れを告げ、旅立ちの夜を、静かに歩み始めた。出立は明日。今日はゆっくりと休むことにしよう。
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