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第一話「異世界で踏み出す第一歩」
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──意識が薄れていく。
まぶたが重い。指先の感覚が遠のいていく。
パソコンのモニターに映る数字の羅列がぼやけ、デスクの上に積み上げられた書類が歪む。
「……やばいな、これ」
頭の奥がずんと重く、何かが張り詰めたような感覚がする。けれど、それを気にする余裕はなかった。仕事の締め切りに追われ、今日も残業。日付が変わるなんて当たり前。食事はカップ麺、仮眠は椅子の上、運動は通勤時の徒歩以外ほぼなし。そんな生活を何年続けた?
思えば、学生の頃は「安定した企業に就職して、悠々自適な人生を送る」なんて夢を見ていた。でも現実はどうだ? 俺はただ、会社の歯車として回されるだけの存在になり果てていた。
「……終わったな」
そんな言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、世界がぐにゃりと歪んだ。次の瞬間──俺の意識は、闇へと沈んだ。目を覚ますと、そこは森の中だった
「……ん、ぐっ……」
頭が痛い。目を開けると、視界に飛び込んできたのは青々とした木々の葉。
仰向けに倒れたまま、ゆっくりと周囲を見回す。
「森……?」
陽光が木々の隙間から降り注ぎ、地面には柔らかな草が生い茂っている。
遠くで鳥のさえずりが聞こえ、爽やかな風が木の葉を揺らしていた。
さっきまでいたはずのオフィスの光景はどこにもない。代わりに広がるのは、見渡す限りの緑。
「……え?」
自分の腕を見て、さらに困惑する。細い。いや、これまでも別に筋骨隆々だったわけじゃないが、これではまるで成長途中の少年のようだ。袖をたくし上げても、そこにあるのは大人の腕ではなく、華奢な少年のものだった。
「嘘だろ……?」
立ち上がろうとした瞬間、足元に何かが映り込んだ。地面にできた水たまり。そこに映っていたのは、こげ茶色の髪を持つ幼い少年の顔。
「誰だよ、これ……」
いや、違う。これは、俺だ。混乱に頭を抱えたそのとき、突如、脳内に情報が流れ込んできた。
──【転生者:ナオ】としてのスキルを付与しました
──スキル【錬金術】を獲得しました
──スキル【無限収納】を獲得しました
──スキル【鑑定】を獲得しました
──スキル【翻訳】を獲得しました
──スキル【即死耐性】を獲得しました
──スキル【幸運】を獲得しました
「う、なんだ? ……頭が、割れる……っつぅ……」
訳が分からない。 だけど、この体の感覚、この世界の雰囲気、そして脳内に響いた機械的な声。これは夢なんかじゃない。というか、名前を勝手に略すな。俺は小坂直人っていう名前だってのに。なんだ、ナオって。
俺は、本当に異世界に転生したのか? 頬をつねる。痛い。やっぱり、夢じゃない。少し冷静になった俺は、改めて周囲を観察する。 木々は見たことのない種類が多く、枝が妙にねじれたものや、葉が青紫色のものもある。
空気は澄んでいるが、鼻をくすぐるのは土と草の匂いだけではない。獣の臭い……それも、牧場の臭さとは違う、動物園の猛獣コーナーみたいな臭さだ。
「……まずは、状況整理だな」
パニックになっても仕方ない。 俺は一度、深呼吸をして、今やるべきことを考えた。
まずは、自分の能力の確認。そして、安全な場所を見つけること。
「さて……どうするか」
状況を整理し、落ち着いたのはいいものの、俺は完全に丸腰だった。服装は質素な麻のシャツとズボン。靴も革製の簡素なもの。ポケットを探っても、当然ながらスマホも財布もない。まぁ、地球水準の恰好をしていたら不審者だし、スマホや財布も役には立つまい。
「ゲームだったら、初心者用の装備くらい用意してくれるもんだろうけど」
そうぼやいても、何も出てくるわけじゃない。俺がいるのは、まず間違いなく異世界。誰も助けてくれない以上、自分で動くしかない。
「まずは、水と食料の確保だな」
無人島サバイバルの番組なんかで、最初に必要なのは「水」と「食糧」、そして「寝床」だと学んだことがある。……防災の番組かもしれない。食事を取らなくても一週間は生きられるが、水がなければ三日程度しか生き延びられないらしい。
この森には草や木の実がたくさんあるが、どれが食べられるのかなんてわからない。
下手に口にして毒だったら洒落にならない。
「となると、使えそうなのは鑑定か?」
得たスキルを思い出す。即死耐性と幸運とパッシブだろうから、錬金と無限収納と鑑定がアクティブスキルのはず。翻訳は人と話したり文字を見てみないと分からないな。
俺は手近なところに落ちていた木の枝を拾ってみる。
「鑑定」
『木の枝(品質17)
何の変哲もない広葉樹の枝。属性:木材・繊維・燃料』
分かったことは鑑定と唱えることでスキルが発動し、ゲームのように画面として表示されるということ。ついでに、無限収納と唱えたことで異次元への口みたいなものが開いたので、そこに枝を放ってみた。
収納は出す時はリストから選択する形式のようで、木の枝(品質17)という表示がなされている。この品質はきっと錬金術を使う上での指標となるのだろうが、まずはこの二つのスキルを駆使して食料を得ることを目標にしよう。
顔を確認するのに見た水たまりの水も鑑定したが、飲用には不適という結果が出た。食料と同時に水場も確保したいところだ。
「いっちょやりますか」
気合を入れて一歩を踏み出す。どうして転生したか分からないけれど、これは俺にとって大きな一歩だということにしておこう。
まぶたが重い。指先の感覚が遠のいていく。
パソコンのモニターに映る数字の羅列がぼやけ、デスクの上に積み上げられた書類が歪む。
「……やばいな、これ」
頭の奥がずんと重く、何かが張り詰めたような感覚がする。けれど、それを気にする余裕はなかった。仕事の締め切りに追われ、今日も残業。日付が変わるなんて当たり前。食事はカップ麺、仮眠は椅子の上、運動は通勤時の徒歩以外ほぼなし。そんな生活を何年続けた?
思えば、学生の頃は「安定した企業に就職して、悠々自適な人生を送る」なんて夢を見ていた。でも現実はどうだ? 俺はただ、会社の歯車として回されるだけの存在になり果てていた。
「……終わったな」
そんな言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、世界がぐにゃりと歪んだ。次の瞬間──俺の意識は、闇へと沈んだ。目を覚ますと、そこは森の中だった
「……ん、ぐっ……」
頭が痛い。目を開けると、視界に飛び込んできたのは青々とした木々の葉。
仰向けに倒れたまま、ゆっくりと周囲を見回す。
「森……?」
陽光が木々の隙間から降り注ぎ、地面には柔らかな草が生い茂っている。
遠くで鳥のさえずりが聞こえ、爽やかな風が木の葉を揺らしていた。
さっきまでいたはずのオフィスの光景はどこにもない。代わりに広がるのは、見渡す限りの緑。
「……え?」
自分の腕を見て、さらに困惑する。細い。いや、これまでも別に筋骨隆々だったわけじゃないが、これではまるで成長途中の少年のようだ。袖をたくし上げても、そこにあるのは大人の腕ではなく、華奢な少年のものだった。
「嘘だろ……?」
立ち上がろうとした瞬間、足元に何かが映り込んだ。地面にできた水たまり。そこに映っていたのは、こげ茶色の髪を持つ幼い少年の顔。
「誰だよ、これ……」
いや、違う。これは、俺だ。混乱に頭を抱えたそのとき、突如、脳内に情報が流れ込んできた。
──【転生者:ナオ】としてのスキルを付与しました
──スキル【錬金術】を獲得しました
──スキル【無限収納】を獲得しました
──スキル【鑑定】を獲得しました
──スキル【翻訳】を獲得しました
──スキル【即死耐性】を獲得しました
──スキル【幸運】を獲得しました
「う、なんだ? ……頭が、割れる……っつぅ……」
訳が分からない。 だけど、この体の感覚、この世界の雰囲気、そして脳内に響いた機械的な声。これは夢なんかじゃない。というか、名前を勝手に略すな。俺は小坂直人っていう名前だってのに。なんだ、ナオって。
俺は、本当に異世界に転生したのか? 頬をつねる。痛い。やっぱり、夢じゃない。少し冷静になった俺は、改めて周囲を観察する。 木々は見たことのない種類が多く、枝が妙にねじれたものや、葉が青紫色のものもある。
空気は澄んでいるが、鼻をくすぐるのは土と草の匂いだけではない。獣の臭い……それも、牧場の臭さとは違う、動物園の猛獣コーナーみたいな臭さだ。
「……まずは、状況整理だな」
パニックになっても仕方ない。 俺は一度、深呼吸をして、今やるべきことを考えた。
まずは、自分の能力の確認。そして、安全な場所を見つけること。
「さて……どうするか」
状況を整理し、落ち着いたのはいいものの、俺は完全に丸腰だった。服装は質素な麻のシャツとズボン。靴も革製の簡素なもの。ポケットを探っても、当然ながらスマホも財布もない。まぁ、地球水準の恰好をしていたら不審者だし、スマホや財布も役には立つまい。
「ゲームだったら、初心者用の装備くらい用意してくれるもんだろうけど」
そうぼやいても、何も出てくるわけじゃない。俺がいるのは、まず間違いなく異世界。誰も助けてくれない以上、自分で動くしかない。
「まずは、水と食料の確保だな」
無人島サバイバルの番組なんかで、最初に必要なのは「水」と「食糧」、そして「寝床」だと学んだことがある。……防災の番組かもしれない。食事を取らなくても一週間は生きられるが、水がなければ三日程度しか生き延びられないらしい。
この森には草や木の実がたくさんあるが、どれが食べられるのかなんてわからない。
下手に口にして毒だったら洒落にならない。
「となると、使えそうなのは鑑定か?」
得たスキルを思い出す。即死耐性と幸運とパッシブだろうから、錬金と無限収納と鑑定がアクティブスキルのはず。翻訳は人と話したり文字を見てみないと分からないな。
俺は手近なところに落ちていた木の枝を拾ってみる。
「鑑定」
『木の枝(品質17)
何の変哲もない広葉樹の枝。属性:木材・繊維・燃料』
分かったことは鑑定と唱えることでスキルが発動し、ゲームのように画面として表示されるということ。ついでに、無限収納と唱えたことで異次元への口みたいなものが開いたので、そこに枝を放ってみた。
収納は出す時はリストから選択する形式のようで、木の枝(品質17)という表示がなされている。この品質はきっと錬金術を使う上での指標となるのだろうが、まずはこの二つのスキルを駆使して食料を得ることを目標にしよう。
顔を確認するのに見た水たまりの水も鑑定したが、飲用には不適という結果が出た。食料と同時に水場も確保したいところだ。
「いっちょやりますか」
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