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ファイル22 空き家の行方 4月30日土曜日
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「「ありがとうございました」」
今日も今日とてお仕事のリリィエステート、今日は先日フォンテーヌ・エスト103号室に申し込みをされた遠藤ユカリ様の契約が完了した。予定通り明日5月1日からの入居だ。意外なほどあっさり審査が通ったので、そこからは猛スピードで契約書作成だ。とはいえ、自社物件は過去の契約実績があるからほぼ流用でき私でも作れた。ということで晴れて契約も完了!
ちなみにリリィエステートの自社物件には少し型落ちするけれど家具家電が設置されているので、それもあってすぐに暮らし始められる。それらは設備扱いなのでその辺りの説明にけっこう時間をかけたけど、遠藤様はきちんと聞いてくださった。
契約書類を持ってお店を出ようとする遠藤様が社長の姿を確認した。
「あ、社長ちゃんこの前は指名ありがとね」
「ユカちゃんも契約ありがと。ユカちゃん上手だったから、今度はもっと長い時間で遊ぼうね」
……遠藤様のお仕事は女性向けの風俗嬢、三咲ちゃんから社長はよくそういうお店に行っていると聞いてはいたけど、本当にそうなんだ。二十歳の女の子と風俗で遊ぶ社長、これだけだと字面がやばいのだが、うちの社長だって言ってしまえば二十歳の女の子だからセーフ。……セーフ?
片づけを終えて私も三咲ちゃんもデスクに戻ると、一本の電話が鳴ったので受話器を取る。
「お電話ありがとうございます、リリィエステートの有働が承ります」
「あぁ、借家を任せている山代ですが、建原さんはいますかな?」
電話をかけてきたのはおじいさんだった。私が三咲ちゃんに電話を替わると、ほどなくして――
「私の力不足で大変申し訳ございません。えぇ、はい……では、売却に向けてですね。はい……売買は別の者が対応しておりまして、えぇ……はい、重ね重ね申し訳ございません。はい、お待ちください」
……なにやら謝っている。保留ボタンを押した三咲ちゃんが専務に電話を回す。
「はい、売買を担当しております榊でございます。えぇ――」
専務が対応を始めたのを確認し、三咲ちゃんに電話の内容を尋ねてみる。
「二月に退去した山代戸建てっていう物件のオーナーさんなんだけど、三月四月の人が動く時期に次の入居者が決まらないなら、売ってしまいたいということでの電話だったわ。前に退去した人は年末には申し出ていて、かれこれ四か月も募集していたのに、何度か内見まではしてるんだけど、決めきれなかったわね」
「なんか決め手に欠ける理由はあったの?」
「うーん、小学校はまだ近いんだけど、中学校まで2Kmくらいあるのよね。それに築年数も四十年近いから、どうしても設備は古いのよ。リフォームの提案は何度かしたけれど、決まったら考えるの一点張りだったわ……」
変えるじゃなくて考える、なのか……。それなら決まらないのも仕方ないのかもしれない。
「はい、では明日の十時に現地で……。はい、よろしくお願いいたします」
電話を終えた専務が視線を私に向ける。
「有働さん、明日は予定が詰まっているかしら? もし良かったら同行しない? 山代様の戸建てを売却するにあたってまずは現地で少しお話をすることになったのだけれど」
まだ賃貸の契約だってほぼほぼお手伝いしかしていないのに売買かと身構えてしまうものの、せっかくの機会だからと頑張ってみることにした。
「よろしくお願いします!」
今日も今日とてお仕事のリリィエステート、今日は先日フォンテーヌ・エスト103号室に申し込みをされた遠藤ユカリ様の契約が完了した。予定通り明日5月1日からの入居だ。意外なほどあっさり審査が通ったので、そこからは猛スピードで契約書作成だ。とはいえ、自社物件は過去の契約実績があるからほぼ流用でき私でも作れた。ということで晴れて契約も完了!
ちなみにリリィエステートの自社物件には少し型落ちするけれど家具家電が設置されているので、それもあってすぐに暮らし始められる。それらは設備扱いなのでその辺りの説明にけっこう時間をかけたけど、遠藤様はきちんと聞いてくださった。
契約書類を持ってお店を出ようとする遠藤様が社長の姿を確認した。
「あ、社長ちゃんこの前は指名ありがとね」
「ユカちゃんも契約ありがと。ユカちゃん上手だったから、今度はもっと長い時間で遊ぼうね」
……遠藤様のお仕事は女性向けの風俗嬢、三咲ちゃんから社長はよくそういうお店に行っていると聞いてはいたけど、本当にそうなんだ。二十歳の女の子と風俗で遊ぶ社長、これだけだと字面がやばいのだが、うちの社長だって言ってしまえば二十歳の女の子だからセーフ。……セーフ?
片づけを終えて私も三咲ちゃんもデスクに戻ると、一本の電話が鳴ったので受話器を取る。
「お電話ありがとうございます、リリィエステートの有働が承ります」
「あぁ、借家を任せている山代ですが、建原さんはいますかな?」
電話をかけてきたのはおじいさんだった。私が三咲ちゃんに電話を替わると、ほどなくして――
「私の力不足で大変申し訳ございません。えぇ、はい……では、売却に向けてですね。はい……売買は別の者が対応しておりまして、えぇ……はい、重ね重ね申し訳ございません。はい、お待ちください」
……なにやら謝っている。保留ボタンを押した三咲ちゃんが専務に電話を回す。
「はい、売買を担当しております榊でございます。えぇ――」
専務が対応を始めたのを確認し、三咲ちゃんに電話の内容を尋ねてみる。
「二月に退去した山代戸建てっていう物件のオーナーさんなんだけど、三月四月の人が動く時期に次の入居者が決まらないなら、売ってしまいたいということでの電話だったわ。前に退去した人は年末には申し出ていて、かれこれ四か月も募集していたのに、何度か内見まではしてるんだけど、決めきれなかったわね」
「なんか決め手に欠ける理由はあったの?」
「うーん、小学校はまだ近いんだけど、中学校まで2Kmくらいあるのよね。それに築年数も四十年近いから、どうしても設備は古いのよ。リフォームの提案は何度かしたけれど、決まったら考えるの一点張りだったわ……」
変えるじゃなくて考える、なのか……。それなら決まらないのも仕方ないのかもしれない。
「はい、では明日の十時に現地で……。はい、よろしくお願いいたします」
電話を終えた専務が視線を私に向ける。
「有働さん、明日は予定が詰まっているかしら? もし良かったら同行しない? 山代様の戸建てを売却するにあたってまずは現地で少しお話をすることになったのだけれど」
まだ賃貸の契約だってほぼほぼお手伝いしかしていないのに売買かと身構えてしまうものの、せっかくの機会だからと頑張ってみることにした。
「よろしくお願いします!」
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