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大会から随分と時間が経った。市内大会こそ優勝したが、県大会はあっさり負けた。笑っちゃうくらいあっさりと。まぁいいさ。来年、雪辱を果たすとしよう。
季節はすっかり秋めいて、校庭のイチョウが黄色く色づき始めている。あたしは早乙女と並んで帰り道を歩いていた。
手と手が触れ合うたびに、どちらからともなくそっと指が絡まる。
まだ人目が気になるけれど、それでも手を離したくはなかった。
「……なんか、まだ信じられないな」
「え?」
「いや、その……ほんとに、こうやってデートしてるのがさ」
恋人として、手をつないで、隣を歩く。当たり前みたいな仕草が、どれもこれも新鮮で、心臓が落ち着かない。
こうしてるだけで顔が熱くなるなんて、らしくないと思いながらも、つい頬が緩んでしまう。
「ふふ、七瀬さん、そういう顔もするんですね」
「う、うるさい。そういう早乙女だって、真っ赤じゃねえか」
「そ、それは……だ、だって、七瀬さんが手を……」
「わ、悪いのかよ」
「い、いいえっ! むしろ、もっと……」
早乙女は顔を真っ赤にしながら、小さな声で言葉を濁す。その仕草が可愛すぎて、思わずぎゅっと手を強く握った。柔らかくて、小さくて、だけど確かな温もり。
ああ、本当に付き合ってるんだなって実感がじんわりと広がる。呼び方こそ変わっていないが、心はすっかり近づいたと思う。
(こうして、ずっと手を繋いでいられたら……)
ふと、これから先のことを考えた。
中学を卒業して、高校も卒業して、大学に行って、その先もずっと。
もしも一緒にいられるなら、それはどんなに幸せなことだろう。そんなことを考えるだけで、胸がいっぱいになる。我ながら随分と気が早いようにも思うけれど。
「……あの、七瀬さん」
「ん?」
「もし、その……これからも、ずっと……こうして一緒にいられたら、嬉しいなって……」
「……馬鹿、当たり前だろ」
同じことを早乙女も考えているのだと知って思わず笑ってしまった。笑うあたしを見て早乙女の頬がぷくっと膨らむ。あんまりにも可愛くて、そのまま不意打ち気味に頭を撫でた。
「も、もう、そうやってすぐ子ども扱いしないでくださいっ!」
「悪い悪い。でも、早乙女の髪はいつもサラサラで触りごこちがいいな」
「……もう、撫でていいのは七瀬さんだけですよ」
嬉しそうに微笑むその顔を見ていると、自然と口角が上がる。
そのまま並んで歩いていると、ふと早乙女が立ち止まった。
「……七瀬さん、目を閉じてくれますか?」
「え、なんで?」
「い、いいからっ……!」
恥ずかしそうに頬を染めた早乙女に言われて、仕方なく目を閉じる。
次の瞬間、ふわりと柔らかな感触が頬に触れた。
「……っ、さ、早乙女!?」
「だ、だって……! 七瀬さんばかり、ずるいです……」
涙目で怒る早乙女が可愛すぎて、胸が苦しい。
けれど、それ以上に嬉しくて、たまらなくて。
「ずりぃのはお前だっつーの……」
「だ、だって、恋人なんですから……これくらい、普通ですっ」
「……ああ、そうだな」
思わず吹き出して、手を引いて歩き出す。
これから先も、こんな風に笑い合いながら歩けたら、それだけでいい。
秋風がそっと頬を撫でる。
金色のイチョウの葉が、二人の背中を優しく見送っていた。
(これからも、ずっと一緒に――)
そう願いながら、あたしはしっかりと早乙女の手を握り直した。その手は、もう少しも震えてなんかいなかった。
(完)
季節はすっかり秋めいて、校庭のイチョウが黄色く色づき始めている。あたしは早乙女と並んで帰り道を歩いていた。
手と手が触れ合うたびに、どちらからともなくそっと指が絡まる。
まだ人目が気になるけれど、それでも手を離したくはなかった。
「……なんか、まだ信じられないな」
「え?」
「いや、その……ほんとに、こうやってデートしてるのがさ」
恋人として、手をつないで、隣を歩く。当たり前みたいな仕草が、どれもこれも新鮮で、心臓が落ち着かない。
こうしてるだけで顔が熱くなるなんて、らしくないと思いながらも、つい頬が緩んでしまう。
「ふふ、七瀬さん、そういう顔もするんですね」
「う、うるさい。そういう早乙女だって、真っ赤じゃねえか」
「そ、それは……だ、だって、七瀬さんが手を……」
「わ、悪いのかよ」
「い、いいえっ! むしろ、もっと……」
早乙女は顔を真っ赤にしながら、小さな声で言葉を濁す。その仕草が可愛すぎて、思わずぎゅっと手を強く握った。柔らかくて、小さくて、だけど確かな温もり。
ああ、本当に付き合ってるんだなって実感がじんわりと広がる。呼び方こそ変わっていないが、心はすっかり近づいたと思う。
(こうして、ずっと手を繋いでいられたら……)
ふと、これから先のことを考えた。
中学を卒業して、高校も卒業して、大学に行って、その先もずっと。
もしも一緒にいられるなら、それはどんなに幸せなことだろう。そんなことを考えるだけで、胸がいっぱいになる。我ながら随分と気が早いようにも思うけれど。
「……あの、七瀬さん」
「ん?」
「もし、その……これからも、ずっと……こうして一緒にいられたら、嬉しいなって……」
「……馬鹿、当たり前だろ」
同じことを早乙女も考えているのだと知って思わず笑ってしまった。笑うあたしを見て早乙女の頬がぷくっと膨らむ。あんまりにも可愛くて、そのまま不意打ち気味に頭を撫でた。
「も、もう、そうやってすぐ子ども扱いしないでくださいっ!」
「悪い悪い。でも、早乙女の髪はいつもサラサラで触りごこちがいいな」
「……もう、撫でていいのは七瀬さんだけですよ」
嬉しそうに微笑むその顔を見ていると、自然と口角が上がる。
そのまま並んで歩いていると、ふと早乙女が立ち止まった。
「……七瀬さん、目を閉じてくれますか?」
「え、なんで?」
「い、いいからっ……!」
恥ずかしそうに頬を染めた早乙女に言われて、仕方なく目を閉じる。
次の瞬間、ふわりと柔らかな感触が頬に触れた。
「……っ、さ、早乙女!?」
「だ、だって……! 七瀬さんばかり、ずるいです……」
涙目で怒る早乙女が可愛すぎて、胸が苦しい。
けれど、それ以上に嬉しくて、たまらなくて。
「ずりぃのはお前だっつーの……」
「だ、だって、恋人なんですから……これくらい、普通ですっ」
「……ああ、そうだな」
思わず吹き出して、手を引いて歩き出す。
これから先も、こんな風に笑い合いながら歩けたら、それだけでいい。
秋風がそっと頬を撫でる。
金色のイチョウの葉が、二人の背中を優しく見送っていた。
(これからも、ずっと一緒に――)
そう願いながら、あたしはしっかりと早乙女の手を握り直した。その手は、もう少しも震えてなんかいなかった。
(完)
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